相次ぐ当選や得票の取り消し。なぜ要件を満たさない候補者が立候補?

    足立区や新宿区の区議会議員選挙など、相次ぐ得票の無効と当選取り消し。なぜ、要件を満たさない立候補することが可能なのか。専門家に話を聞いた。

    東京都足立区、新宿区の両区議選など各地の地方議員選挙で、その自治体に住所を持たない人が立候補し、選挙後に得票が無効となり、当選が取り消される例が相次いでいる。

    なぜ、当選できる資格がないのに立候補はできたのだろうか? 元自治省(現総務省)選挙部長で公職選挙法の実務に詳しく、早稲田大学大学院教授として教鞭を執った経験も持つ片木淳弁護士に聞いた。

    まず経緯を振り返る

    2019年5月27日に投開票された足立区議会議員選挙で、NHKを国民を守る党公認で立候補した司法書士の加陽麻里布さんの得票が取り消しとなった。

    なお加陽さんの名前が書かれた無効票は5,548票あり、当選ラインには達していた。

    立候補を表明した段階で加陽さんが住所要件を満たしていないという指摘がすでに上がっていた。足立区選挙管理委員会の調べで、加陽さんの住民票は足立区にはなく、立候補したタイミングで選管に届け出ていた住所はカプセルホテルのものであることが判明したためだ。

    新宿区議会議員選挙にNHKから国民を守る党公認で立候補していた松田美樹さんの当選も取り消しとなっている。こちらも選管に届け出ていた住所での生活の実態が確認できなかったため、このような決定が下された。

    そもそも、なぜ立候補できる?

    公職選挙法は、地方議員選挙に立候補するためには、「その自治体に引き続き3カ月以上」住所を置く必要がある、と定めている。この条件を満たさない人が、地方議員選挙になぜ立候補できるのだろうか。その背景には福岡高裁が1951年に出した判決がある。

    1951年、福岡高裁は住所要件の認定について「開票手続きにおいて選挙会が決定すべき事項で、選挙管理機関が選挙期日前に特定の候補者に被選挙権のない旨を一般選挙人に公表することは、その候補者の選挙運動を著しく妨害する」という判決を下している。

    一方で、国政選挙や知事や市長を選ぶ首長選挙では、住所要件の規定はない。

    なぜ地方議会選挙には住所要件があるのか。

    片木淳弁護士は、こう語る。

    「これまで、地方自治を考える上では地方議会の議員はなるべく地縁のある人が望ましいとされてきました。できる限り地元のことをわかっている人がなるべきでしょうと。そのための期間として3カ月が適当であるかどうか議論の余地はありますが、住所要件が存在しています」

    片木さんはそのうえで、「その人に本当に被選挙権がないかどうかが確定していない状態で、選挙管理委員会としては確たる証拠もなしに指摘することは難しいと思います」と話す。

    足立区選管は総務省へ改善を要望する方針

    総務省選挙課も、BuzzFeed Newsの取材に対し、「選挙管理委員会は実質的審査の権利を有していない」という見解を示す。

    「立候補時に各地の選管が審査できるのは書類が揃っているかどうかという形式的な部分だけであり、届け出がなされた情報の真偽を一つ一つ確認することではない」という。

    足立区選挙管理委員会によると、今回の区議選で立候補を受け付けた際も、書類が揃っていることなど、形式的な審査にとどめた。また、福岡高裁の判例もあり、選挙期間中に特定の候補に被選挙権(立候補資格)がないことを公表することも避けたという。

    足立区選管の担当者は一方で、「(選挙が終わってから当選無効とせざるを得ない)現状の選挙制度に問題があると感じている」とBuzzFeed Newsに語り、総務省に対して今後、区選管として制度の改善を要望する方針だと語った。

    住所要件の撤廃含め、議論が必要

    住所要件を満たしていないことを理由に当選が取り消しとなるケースは今回が初めてではない。

    2012年に埼玉県新座市議選で立候補した女性に対し、同市選管は「居住の実態がない」として当選を取り消している

    また2019年8月に投開票された東京都日の出町議選では、被選挙権がないことを選挙公報で自ら明らかにした候補者が立候補。当選はしなかったものの、町選管は得票は無効と発表した

    公職選挙法が定める住所要件の有無を判断する際の根拠は、「各人の生活の本拠をその者の住所とする」と規定した民法22条となる。

    このため、生活の実態を伴っているのかどうかが、そこに住所があるかどうかを判断する争点の一つとなる。

    新座市議選で立候補した女性や新宿区議選で立候補した女性の場合、水道の使用量があまりに少ないことが当選取り消しの決め手となった。

    ここに、住所要件を巡るの審査の問題点がある、と片木さんは言う。

    「住民票の有無といった形式的な住所ではなく、実際にそこで生活しているのかどうかという実態を判断するのは、かなり難しいと言わざるを得ません」

    候補者一人ひとりの生活実態がそこにあるのかどうかを、選管が立候補時に確認することは現実的ではないとするならば、「当選無効」が繰り返される状況で、選挙制度はどうあるべきだろうか。

    片木さんは語る。

    「地方議員選挙についても住所要件を撤廃すべきかどうか、検討すべきだと考えます。選挙権と被選挙権、どちらもできる限り広く認めていくべきなのではないでしょうか。そのためにも地方自治の観点を含めて、議論を進めていくべきです」