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「感染予防効果を期待できるものではない」泉大津市が接種券に誤情報を同封。市長は“マグネシウム鼻うがい”を推奨

大阪府泉大津市では「ワクチンは感染予防効果を期待できるものではありません」といったメッセージが接種券に同封されている。誤情報が含まれているため注意が必要だ。

「ワクチンは感染予防効果を期待できるものではありません」
「中長期的な人体への影響については明らかになっていません」

大阪府泉大津市のワクチン接種券に同封されている、市長からのあるメッセージがSNS上で注目を集めた。

「メディアや周りに流されるのではなく、最低限のことは調べたうえで、自らの意思で判断をしてほしい」

同市の南出賢一市長はこう発信している。

これは正確な情報に基づく発信と言えるのか?そして、なぜ泉大津市では、接種券にこのようなメッセージを添えているのだろうか?

「感染予防効果を期待できるものではない」→ 誤り

・ワクチンは感染予防効果を期待できるものではない
・中長期的な人体への影響については明らかになっていない

泉大津市で配布されている「市長メッセージ」には、このような主張が掲載されている。

「メディアをみているとワクチンを打つこと以外に選択肢はない、という論調が目立ちますが、あまりにも偏った報道だと感じています。そして、今回人類にはじめて打つワクチンに異を唱えたり懸念を示されているドクターや専門家の意見を目にすることはありません。なので、その辺はネットで調べていただければと思います。なぜこういうことを言うかというと、わからないことが多いからです」

「今後もウイルスの変異は続くと思います。ワクチンだけに頼らずに、日々の食生活や過ごし方等で腸内環境、免疫のバランスを整えることを大切にしていただきたいと思います(^^)」

南出市長は自身のnoteで、こう強調している。

そもそも、この「市長メッセージ」に記載されている情報は正確なものと言えるのだろうか。

日米の医師らによる、新型コロナに関する正確な情報を発信するためのプロジェクト「こびナビ」の専門家は「ワクチンは感染予防効果を期待できるものではない」という主張は「誤り」と指摘する

「アメリカでは 4,000 名弱の医療従事者などを対象に毎週PCR検査を実施した結果から、mRNAワクチンを2回接種することによって 90% の感染予防効果が得られることがわかったことがCDCから発表されています」

「また、イスラエルにおける大規模な臨床研究で、感染予防効果は 92% であったとの報告もあります。複数の研究の結果から、感染予防効果があるということに関して疑いはありません」

中長期的な人体への影響は?「mRNAは非常に分解されやすい」

南出市長は「市長メッセージ」や同市の公式YouTubeチャンネルにアップロードした動画で、次のように発信している

「中長期的な人体への影響については明らかになっていません」

「インフルエンザワクチンのように同じように考えている方多いと思うんですけれども、全く別物です。今回は遺伝子技術を使った、遺伝子ワクチンになります。なので、中長期の人体への影響はわかっていない」

「2023年5月2日までファイザーのワクチンについては治験中ということで、しっかりと出ています」

こうした見解は正しいのだろうか?「こびナビ」の専門家は「中長期的な影響については、確かにわからない部分もある」としつつ、現時点で確かと言えることは何か、次のように説明する。

「mRNAワクチンの主成分であるmRNAは非常に分解されやすい物質です。これ自体が人体へ中長期的な影響を及ぼすということは考えにくいでしょう」

「『遺伝子ワクチン』という言葉から、人のDNAに対して何かしらの影響を与えるのではないかとイメージする方もいるかもしれません。実際には、細胞においてmRNA はDNAが収められている『核』の中に外から入ることは困難で、DNA である染色体に組み込まれることもありません」

同時に、「こびナビ」の専門家は「遺伝子ワクチン」という言葉に注意を呼びかける。

「そもそも、『遺伝子ワクチン』という言葉がきちんと定義されていないものであることに注意が必要です。私たちが日々、感染しないよう対策を続けているウイルスは脂質やタンパク質にくるまれたDNAやRNAといった『遺伝子』を本体とするものです」

「仮にウイルスに感染すると雑多なDNAやRNAが私たちの細胞に入り込んで、急激に増殖し、組織を障害していくといったことが起こります。ワクチンはこうした出来事から体を守るためのものです」

「さらに、こうした主張については、『遺伝子技術を使った』ことがあたかも問題であるかのように決めつけているという点にも注意すべきでしょう。もちろん今回の mRNA ワクチンは遺伝子の技術、分子生物学の技術を使ったものとなっていますし、遺伝子をのせた RNA を使うことで細胞に成分の合成をさせますが、『だから問題がある』と決めつけるのは論理の飛躍と言えます」

南出市長「20歳未満に接種をすることは反対」

「一番気になっているのは、10歳から19歳、ここはまだまだ接種がされていないんですけれども、すでに重篤副反応が9件出ています。1年4ヶ月、コロナが続いていますけれども、果たして、どれだけの20歳未満の重症者が出たか。こっちのほうが、明らかにワクチンの重篤反応、こちらの方が非常にこれからワクチン接種進んでくると、かなり出てくるんじゃないかなと非常に強い懸念をしています」

「たとえば今回のワクチンは欧米人の体型を基準にして作られています。欧米人男性でだいたい体重は90kgぐらい。日本人の女性で50kgのちょっと下。となったときに、これは倍の量なんですよね。さらに、子どもになるとさらに体格が小さくなる。しかも、同じ量のワクチンが接種される。こういったことも人種差であったり、体型差を考慮したものがない中で20歳未満に接種をすることは私自身は非常に反対をしています」

南出市長はYouTubeチャンネルに投稿した動画でこのように主張している。

動画で言及されている「重篤副反応」の事例は、正しくは厚労省の副反応疑いに報告されている有害事象のうち重篤であったと分類されている事例の数と思われる。

ワクチン接種後に生じた症状(有害事象)がすべて、ワクチン接種が原因のもの(副反応)であるとは限らない。この2つは明確に区別する必要がある。

「こびナビ」の専門家も「有害事象なのか、副反応なのか、精査するためには事例の蓄積が必要であり、稀な副反応であればあるほど時間を要します」「報告されている症例数のみをもって、ワクチンの危険性を訴えることは適切ではありません」と語る。

その上で、20歳未満が新型コロナウイルス感染した場合のリスクについては、「子どもが感染した場合にも重症化することももちろんありますし、いわゆる後遺症が残ることはあります。MIS-Cという重篤な合併症が現れるケースがあることも知られており、感染者数が増えれば絶対数としてこうした方々が出てくることになります」と語る。

「現時点で20歳未満において対応が困難となるような副反応が指摘されていない中で、この年齢層においてもワクチン接種のメリットは副反応によるリスクを上回ると考えられます」

南出市長が未成年への接種に反対する理由として提示している、新型コロナワクチンの接種量が過剰であるとの主張は専門家の目にどのように映るのか?

「この主張は正しいものであると言えません。日本で承認された新型コロナワクチンは海外での臨床試験の結果を踏まえ、日本国内でも海外の臨床試験で使用されたものと同量を接種する臨床試験が行われて安全性が検証されています。また、海外で実施された臨床試験では、アジア人を含め、様々な人種の方が被験者として参加しており、『人種差が考慮されていない』という主張は明らかに誤りです」

「一般的な薬では、血液中における薬の濃度を維持して、目的とする臓器に作用させることを狙いとしています。一方で、ワクチンは一時的に免疫を反応させれば目的を達することができます。なので、投与量は元々少ない。ですから、一般的に、体重や体格で細かく接種量を変えなくてもよいことが多いのです」

「小児においては免疫反応の起きやすさなどから、少ない投与量が設定されているものもあります、しかし、全てのワクチンでこのような設定がなされているわけではありません」

市長が推奨する「マグネシウム鼻うがい」「強酸でウイルス不活化」…効果は?

市長は「ウイルスは変異を続けます」と注意喚起しつつ、「市長コラムの中には自己免疫をどう高めるのかという具体的な方法を書いている」とコメント。

「やっぱり自然免疫、自然抗体、これを作るということが基本中の基本になってこようかと思います」と強調している。

泉大津市役所のホームページに設けられた「市長コラム」を確認すると、そこには「マグネシウム鼻うがい」「粘液でウイルスを包んで胃まで届けて強酸でウイルス不活化」といった言葉が並んでいる。

これらは医学的に有効性が確認された予防法と言えるのか。

「『自己免疫を高める』『自然抗体を作る』という言葉は誤りです。例えば『自己免疫疾患』という病気がありますが、これは、本来外敵に対して働くべき免疫が自分自身を攻撃してしまうために生じるものです。裏を返せば、『自己免疫を高める』と自らの体を攻撃してしまいかねません。自然抗体に至っては、そのような用語はなく意味が不明です」

「「『自然免疫』という言葉の意味も誤解されているようです。『自然免疫』とは、生物がもともと持っている病原体に対抗するための免疫の仕組みのうちの一つのシステムのことを指します。病原体と出会って刺激される特異的な『獲得免疫』と対になるシステムであり、『つくろう』と思って作ったり、高められるようなものではありません」

「また、一般論として感染対策として体調を整えることは有効かもしれませんが、マグネシウムや鼻うがいが新型コロナウイルスの感染予防に有効だというエビデンスも全くありません」

「こびナビ」の専門家は最後に、改めてワクチン接種の有効性を強調した。

「現在までに確認されている変異ウイルスへの感染や発症、重症化を防ぐ上では、新型コロナに感染するよりもワクチン接種をした方がより効果的であるとわかってきています。そのため、既感染者であっても、ワクチンを接種することが推奨されている状況です」

泉大津市「誤りがあれば修正する」でも…

泉大津市ではなぜ、このような市長メッセージを同封するに至ったのだろうか。

泉大津市の秘書広報課の担当者はBuzzFeed Newsの取材に対し、「ワクチン接種は強制ではない。きちんとワクチン接種の意義とデメリットを理解した上で判断していただきたいと考えた」とその意図を説明する。

しかし、詳しい経緯について回答を得ることはできなかった。

同市が接種券に同封している「市長メッセージ」や同市の公式YouTubeチャンネルに投稿されている動画の内容には、誤った情報が含まれている。

こうした点について認識をたずねると、「誤りがあれば修正する」としつつ、具体的な誤りの指摘については「ご意見は課内で共有する」と述べるに留めた。

自治体側から誤った情報が発信されている状態を放置し続ければ、市民のワクチン接種に関する判断を歪めかねない。

しかし、同市は現時点では問題があるとの認識はないとし、対応を求める声が上がった場合には「今後の保健衛生業務に活かしていく」とした。


こびナビ監修者:ハーバード大学医学部助教授・マサチューセッツ総合病院小児精神科医 内田舞氏、ワシントンホスピタルセンターホスピタリスト・ジョージタウン大学医学部内科助教 安川康介氏、千葉大学医学部附属病院臨床試験部助教・PMDA定期専門委員 黑川 友哉氏、大阪大学産業科学研究所 曽宮正晴氏、こびナビ 岡田玲緒奈氏、こびナビ 峰宗太郎氏