死の数時間前、夫のもとには何通ものメッセージが。 人工透析中止をめぐり、遺族が病院を提訴

    「苦しい時にこそ本心が出るのです。それを受け止めてほしかった」。亡くなった女性の夫は会見に寄せた声明でこう語った。

    公立福生病院で透析中だった女性(当時44歳)が人工透析を中止し、1週間後に死亡したのは、透析再開を求めた女性の意思を医師が聞き入れなかったからだなどとして、亡くなった女性の夫(52)と次男(21)が福生病院を運営する福生病院組合を相手取り、慰謝料など2200万円を請求する訴訟を10月17日、東京地裁に起こした。

    原告の代理人弁護士を務める冠木克彦弁護士は医師が女性に対して透析中止の選択肢を提示する際に、透析には「多くの犠牲がつきもの」であると説明していたことがカルテに記載されていることに言及。

    「患者本人が(治療は)いらないと言う時の殺し文句が、『家族に迷惑がかかる』。この言葉が出たら、(患者は延命を)望みません」と語り、医師の説明が不適切であったことを主張している。

    「透析離脱を撤回したいと言ったのに聞いてもらえませんでした」

    原告側の主張のポイントは2つ。

    1点目が、女性は慢性腎不全ではあったものの、死が避けられない末期状態ではなく、透析中止は許容されない状態だったという主張。女性が、透析中止の撤回を求めた後も、透析を再開しなかったのも問題だとしている。

    2点目は、「透析離脱」の同意について、撤回できる旨の説明を欠いたことだ。

    日本透析医学会の調査委員会による報告書では、透析非導入や透析終了は、当該病院主治医から持ちかけられたものでなく、あくまで患者本人もしくは家族の意思であったとされている。

    ただ、医療従事者側からどう説明したかは分からなかったとした上で、今後は詳細なやりとりを記載するのが望ましいと言及している。

    なお日本透析学会は5月31日に調査結果をふまえた上で、「患者さんが自ら血液透析終了の意思を表明しており、その意思が尊重されてよい事案であると判断しました」という見解を発表。同院の対応には問題がなかったと結論づけている。

    提訴にあたって東京地裁司法記者クラブで開かれた会見に原告2名は同席していない。だが、代理人を通じて声明を発表した。

    亡くなった女性の夫は声明の中で、「透析離脱を撤回したいと言ったのに聞いてもらえませんでした。本人が苦しんでいるのに治療する気配もなかったのは何故か?見殺しにされたのではないか?それを知りたいと思い裁判を起こすことを決心しました」と語った。

    女性が亡くなる直前、夫自身も胃潰瘍を患い手術を受けていた。

    「手術中は私物を病院に預けました。8月17日に荷物を返してもらい、充電がきれていたスマホを電源につなぐと、16日の未明から朝にかけて何度も妻からのメッセージが入っていました。『とうたすかかか』(16日7時50分発信)のメッセージを見た時は涙が止まりませんでした。妻は苦しくて私に助けを求めていたのです」

    「『こんなに苦しいなら(透析離脱を)撤回する』と訴えた妻の叫びを看護師さんから伝えられたと思うのに、離脱の同意書にサインをしたあとは、"それは本心ではない、苦しいから言っている"としか取らなかったのでしょうか。苦しい時にこそ本心が出るのです。それを受け止めてほしかった。透析を再開してくれたら、症状が良くなり今も生きていてくれたと思うと、残念でなりません」

    死の直前、「撤回する」と意思表示も。

    「自分で決めた。だけどこんなに苦しくなるとは思わなかった。撤回するならしたい。でも無理なのもわかっている」

    亡くなる2日前、2018年8月14日のカルテには女性のこのような発言が記録されている。

    さらに8月16日のカルテには看護師に向けて「こんなに苦しいなら透析した方が良い。撤回する」と伝えていることも記録されていた。

    こうした記録を踏まえ、冠木弁護士は「それまでの過程でも苦しいから無理、夫にも撤回したいと言っている。本人の意思はカルテの記載を見れば撤回したいということで一貫している」と主張している。

    一方、病院側は朝日新聞の取材に対し、16日昼前に女性の症状が落ち着いた際、外科医が呼吸の苦しさや体の痛みが軽減されれば良いか、それとも透析の再開を望むかと尋ねると、「苦しさが取れればいい」と答えたと回答。その後、外科医は女性の息子2人の理解を得た上で鎮静剤を増やしたという。

    福生病院組合の弁護人を務める平沼高明法律事務所は、BuzzFeed Newsの取材に「訴状が届いていないため、コメントは差し控えさせて頂きます」と話した。