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「ワクチン接種者が周囲に病気を撒き散らす」「接種で麻痺が起きる」拡散する誤情報。専門家の見解は…

「ワクチン接種者が周囲に病気を撒き散らす」といった新型コロナワクチンに関する誤情報が拡散されている。日米の専門家などによって運営されている「こびナビ」協力のもとファクトチェックした。

新型コロナウイルス感染症について高い感染予防・発症予防・重症化予防効果が確認されている新型コロナワクチン。

医療従事者への優先接種を経て、高齢者、さらには一般への接種もスタートしている。

そのような中、ネット上ではワクチンに関する誤情報や不正確な情報が拡散されている。

BuzzFeed Newsは、日米の専門家などによって運営されている新型コロナウイルス感染症やワクチンに関して正確な情報を発信するためのプロジェクト「こびナビ」協力のもとファクトチェックした。

(1)「ワクチン接種者が周囲に病気を撒き散らす」

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noteで公開されている記事の一部

《ワクチン接種者が周囲に病気を撒き散らす。これは陰謀論でも推測でも何でもなくて、ファイザー社の治験文書にはっきり書いてある。》
《ワクチンが感染症を防ぐどころか、むしろ感染症の誘因ではないか、という事例はいくらでもある。》
《効果がない、のではない。原因なんだよ。》
《コロナワクチンは、普通に死にますから。》

兵庫県でクリニックを経営する内科医が自身のnoteにこのような情報を掲載している。しかし、この主張は誤りだ。

このnoteの記事はFacebookで1800回、Twitterで3300回以上シェアされている。また、note上では3000回の以上「いいね」が集まっており、誤情報が拡散されている状態だ。

「こびナビ」の専門家はこの情報について、次のように指摘する。

「ワクチンが感染症を防ぐどころか、むしろ感染症の誘因ではないか、という主張は明らかに誤った情報です。記事の中ではワクチン接種者が、周囲に病気を撒き散らすことが『ファイザー社の治験文書にはっきり書いてある』としていますが、このような記載は一切ありません」

記事中には、臨床試験(治験)文書であるとして画像も添付されている。しかし、この文書は臨床試験の「実施計画書」であり、21日間隔をあけて接種することや0.3ml接種するといった規定が守られなかった場合の報告基準などが記載されているものだ。

「このファイザー社のmRNAワクチンの臨床試験の実施計画書はSNSなどを中心に、誤った言説の拡散によく利用されています」と「こびナビ」の医師は語る。

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臨床試験の実施計画書をもとに主張している誤情報

ワクチンによって感染症が引き起こされる根拠としてnoteに引用されている「実施計画書」では、「妊娠中に曝露が起こった場合」の報告基準が記載されている。

ここにおける「曝露」とは、ワクチンの薬液を吸入することや触れることなどを指す。

基準自体は、臨床試験に参加したワクチン接種者もしくはパートナーが妊娠した場合、ワクチン接種をしていなくとも曝露があった後に妊娠が判明した場合には、妊娠の経過や胎児の経過を観察するためファイザー社に連絡をすることを求める内容となっている。

「この文章は、mRNAワクチンではない薬剤の臨床試験でも、妊婦を対象から除外する場合に使用される『定型文』です。実際には『環境からのワクチン薬液への曝露』があっても、ワクチンの仕組みからは妊娠経過や胎児に悪影響を及ぼす可能性はほぼ考えられません。しかし、妊婦を除外した臨床試験を実施するために、このような妊娠経過をみるための手順が整備されていました」

臨床試験において多用される「定型文」であるにも関わらず、この記述がワクチン接種によって感染が引き起こされるという主張に利用されている。

「この定型文では、例えばこのような場合には報告してよい、と例示しているに過ぎないのですが、noteの記事では、あたかも接種者から曝露されることで健康被害があった症例があるかのように書かれています。明らかに誤った引用で、ワクチンへの不安感や恐怖を与えるものです」

「接種した人への接触や吐いた息を介して、他者の健康に悪影響を及ぼすという主張は、このプロトコルの『定型文』を悪用した誤情報です。なお、この実施計画書の基準に従い、ファイザーの臨床試験中に妊娠した方の経過が確認されました。妊娠していた12名の方の妊娠経過や赤ちゃんの経過に異常は認められていません」

(2)「ワクチン接種が麻痺を引き起こす」

Carl Court / Getty Images

noteでの内科医の記事には「ワクチン接種者が周囲に病気を撒き散らす」という主張とあわせて、新型コロナワクチンが麻痺を引き起こすという情報も、「被害」を訴える人のツイート画像とともに掲載されている。

しかし、この情報は事実ではない。

「こびナビ」の医師は、「現時点では新型コロナワクチンが神経の『麻痺』を引き起こすという報告はありません」と語る。

「記事では、『以下、コロナワクチンの被害』として、ペンシルバニア州の女性とナッシュビルの女性の麻痺が取り上げられています。引用している画像の中にも、『No Medical Confirmation the Vaccine is Related』(ワクチンと関連しているかは確定的ではない)と書いているものの、明らかに誤解を与える書き方をしています」

「臨床試験において、ファイザー社のワクチンを接種した人に『ベル麻痺』という顔面神経の麻痺が起きたという事例が4例報告されていますが、これも自然発生率と比べ特に高いとは言えません。また、その後の検証ではmRNAワクチンによって『ベル麻痺』が起きやすくなるとは言えないとする研究結果も発表されています」

また、ワクチン接種によって「心臓発作」が起きるという情報もnoteに出ている。

これは正確と言えるのか。

「若い人には『心筋炎』という心臓の筋肉の炎症が稀に起こることがあるとアメリカやイスラエルなどで指摘されており、これとワクチンの因果関係が現在精査されている段階です」

日本国内で5月30日までにファイザー社製のワクチンを接種した人の数は約976万人。そのうち20代から60代の男女7人が接種後に心筋炎などを起こしたことを厚労省も報告している。

しかし、「ワクチンを接種した人には、接種していない人と比べて心筋梗塞や心臓の突然の停止などのいわゆる『心臓発作』(実際の医療の現場ではあまり使わない単語です)が高い頻度で起きるということは報告されていない」「現時点でワクチンの副反応として心臓の突然停止があるとは考えられていません」と、こびナビの医師は強調する。

「多くの人への接種が進んではじめて明らかになってくる稀な副反応があることは当然ありますが、その情報は非常に透明性が高いのが現実です。また、ワクチン接種後にみられている心筋炎については軽症例が多いことも重要です。新型コロナウイルス感染症自体で心筋炎を起こす可能性もあり、感染した際のリスクと比較すれば、ワクチン接種による心筋炎のリスクは低いと言えます」

BuzzFeed Newsはこうした情報をnoteで発信する内科医に5月22日に取材を申し込み、その後複数回にわたって接触を試みた。しかし、取材に応じることはなかった。


こびナビ監修者:ハーバード大学医学部助教授・マサチューセッツ総合病院小児精神科医 内田舞氏、ベイラー医科大学・テキサス小児病院 池田早希氏、ワシントンホスピタルセンターホスピタリスト・ジョージタウン大学医学部内科助教 安川康介氏、こびナビ 岡田玲緒奈氏、こびナビ 峰宗太郎氏


BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。

ファクトチェック記事には、以下のレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。なお、今回の対象言説の一部は、FIJの共有システム「Claim Monitor」で覚知、参考にしました。

また、新型コロナウイルス感染症やワクチンに関する正確な情報を提供する日米の専門家によるプロジェクト「こびナビ」とも連携し、新型コロナ感染症とワクチンに関する誤った情報、不正確な情報についてファクトチェックしています。

  • 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
  • ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
  • ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
  • 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
  • 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
  • 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
  • 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
  • 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
  • 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。


Contact Yuto Chiba at yuto.chiba@buzzfeed.com.

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