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崩れた人生設計、抱える孤独… 9年が経過しても、なぜ高いストレス状態に?

「今年の調査結果では約4割の方がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である可能性があり、約2割の方が抑うつ不安障害、約1割の方が今すぐ医療的支援を必要とする状態であることがわかりました」

震災支援ネットワーク埼玉と早稲田大学災害復興医療人類学研究所は6月19日、2011年の東日本大震災以降、首都圏に避難を続けている人へのアンケート調査の結果を発表した。

この調査は2019年12月に双葉町、大熊町、富岡町、いわき市、川内村、福島市、郡山市の協力を得て、首都圏に現在も避難する全ての世帯(4255世帯)に送付し行われたもの。記者会見では、2020年3月5日の段階で集まっていた400世帯分の調査結果を分析した上で、そこから見える傾向が発表された。

調査を実施した震災支援ネットワーク埼玉の副代表で早稲田大学災害復興人類学研究所の所長を務める辻内琢也教授は「今回の調査でも高いストレス状態が明らかになった」と語る。

この調査結果を踏まえ、震災支援ネットワーク埼玉と早稲田大学災害復興医療人類学研究所は同日、復興庁に「引き続く原発避難者の苦難を直視した継続的かつ実効的支援を求める要望書」を提出した。

体調の悪化が顕著に

「今年の調査結果では約4割の方がPTSD(心的外傷後ストレス障害)である可能性があり、約2割の方が抑うつ不安障害、約1割の方が今すぐ医療的支援を必要とする状態であることがわかりました」

辻内教授は今回の調査結果を踏まえ、このように全体の傾向を説明した。

こうした人々はフラッシュバックを経験することや、事故のことを思い出すものを意識的/無意識的に避けることがあると指摘する。一時帰宅ができる、以前暮らしていた場所に帰還できると考えるだけで動悸がする場合もあるという。

なぜ、震災から9年が経過しても、依然として高いストレスを感じているのか。辻内教授は「身体的、心理的、社会的、複合的な要因が絡んでいる」と分析する。

回答者の46.1%が持病が悪化したと報告。また、62.6%は新たに疾患を患っていることがわかった。今回の調査から、健康状態が良好であるとは言い難い現状が浮かび上がった。

回答者の13.9%が家族を失っており、そのうち73.7%を震災関連死が占めた。また、40%を超える人が孤独を抱えていると回答した。

「一生残る心の傷。津波の映像を見ると吐き気がする」
「人生設計が崩れた、新築の家を手放した」
「せっかく慣れた生活の場から、再び移動させられる」

アンケートの自由記述欄には様々な人の切実な声が綴られている。

「日頃の支援活動の中で、孤独を抱えている方達が増えてきている感覚が強まっています。元々、避難した人々は人間関係が希薄化していることは、これまでの調査でもわかっています。そして、最近では、高齢化も進み、地域での交流会にも参加することができなくなるなど、より孤独を抱えやすい状況にあると言えるでしょう」

「生きるのが嫌になりながら、それでも生きている人がいる」

震災避難ネットワーク埼玉の代表を務める弁護士の猪股正さんは、こうした高いストレス状態が今も続いていることを復興庁など行政が把握していないことを問題視する。

「私たちは2012年以来、アンケートによる実態調査を続けてきました。本当はこういうことは、民間のお金のない私たちがやることではなく、国の責任で腰を据えて行うべきことです。しかし、国として責任を持って行われてきていない」

「そのことが原因で、避難者の方が、今どういう思いをして、どんな生活をされているのか。本当にそれは人ぞれぞれ、様々です。お一人お一人が辛い思い、苦しい思いを抱き、生きるのが嫌になりながら、それでも生きている人がいる。それが見えていない、想像もできていないというところが残念ながらあります」

今も福島県外に避難を続けている人々への医療費の支援は削減され続けておおり、住宅支援も打ち切られた。

このままでは「避難者の苦難がもっと見えなくなり、風化し、関心の外に置かれてしまうのではないかという大きな不安がある」。会見で猪股さんは、危機感を露わにした。