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慶應大学は遅れている?福沢諭吉の教えをもとに、学生が安心して学べる環境へ

「慶應義塾は一人一人の権利を尊重する。全学をあげて取り組むという意志の表れです」

レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーら、LGBTに配慮した取り組みが、社会で多く見られるようになった。

大学も例外ではないが、私が在学している慶應義塾大学は、その姿勢が目立っていないように感じられる。

大学を創立した福沢諭吉は、人間の自由・平等・権利の尊さを説いた。福沢の教えを重んじている大学がなぜ。そんな思いを抱きながら、私はBuzzFeed Newsの記者として、慶應大に取材した。

積極的な早稲田、一方で慶應は

当事者たちを積極的にサポートしている大学の一つが、早稲田大学だ。「GSセンター(ジェンダー・セクシュアリティの略)」という施設があるのが特徴だ。

学生たちによる学内のコンペで、センター設立を願ったプレゼンが優勝したのをきっかけに、2017年4月に創設した。

メンターと相談できたり、講演会を開催したりして、誰もが多様な性について理解を深められる機会を提供している。

非当事者も歓迎しており、学生が来ない日はないという。担当者は「予想以上に好評で、ニーズがある」と実感する。

一方で、慶應大にはそのような施設はなく、遅れをとっているように思えた。

目に見えてはいない個々の取り組み

慶應義塾常任理事の岩波敦子教授は「他大学を先導している状況ではないですが、すでに取り組みはあります」と語る。

実際に、性同一性障害を持つ学生に配慮して、2004年から学生の通称名使用を認めている。

誰もが当事者であるとオープンにしているわけではない。とりわけトランスジェンダーの学生は、見た目ではなく、本名によって当事者であると知られてしまうケースがあり、配慮が必要だ。

悩んでいた学生からの要望を受け、申請をすれば、授業で通称名を使え、学内用の学生証にも表示できるようにした。

また、慶應義塾の機関誌『三田評論』の2016年2月号では、LGBTやダイバーシティについての研究をする教授たちの様々なエッセーを紹介し、そのほかにも理解を促す授業や講演会も開いている。

つまり、慶應大においてすでに取り組みはあるのだが、ほとんどが教員や学生ら個々によるものだった。

「慶應はトップダウンではなく、ボトムアップでそれぞれが主体的に考え、自由闊達に取り組む組織です。独自に自発的にやっているので、外からも中からも見えづらいんですよね」

もう待っていられない

けれども、そんな慶應大が大きく変わろうとしている、というのだ。

やはり個々の取り組みだけでは、ニーズのある学生への対応が不十分だ。教員、学生からは「大学として取り組むべきだ」という声も少なくなかった。

そのような追い風もあり、2018年4月に「協生環境推進室」を新たに立ち上げた。女性の活躍や障がい者への配慮を含めた、これまでの個々の取り組みをネットワーク化し、課題に対して迅速に対処するのが目的だ。

「協生環境、という名前も大切なキーワードです」と岩波教授。互いの人格を尊重し、多様な価値観を認め合いながら、協力して生きる、との意味が込められている。

推進室は岩波教授を室長に据え、学部長や各部門のトップ、教職員らを巻き込んだ大きな組織体制を計画する。一貫教育校とも連携を進める。

「全学をあげて取り組むという意志の表れです。個々の取り組みに関する情報を集約し、全体で議論するプラットフォームをつくります」と自信を見せる。

「慶應は主体性を大事にしていますが、支援についてはそれだけではどうしても足りない場合もあります。こんな支援があります、整えますよ、としっかりと見えるようにして、支援を求める人に届けていきます」

設立したばかりで、具体的な活動はこれから。今後、大学のホームページで発信して、内外に向けて周知していく。

当事者の学生は何を思うのか

慶應大の当事者のみが入るサークル「LGBT塾生会」に所属する、社会学研究科・後期博士課程3年生のレロさんは、「当事者たちが安心して入学し、学生生活を送れるようになれば」と期待する。

このサークルは、当事者たちが安心して大学で生活を送れるよう、互いにつながり、サポートし合うのが目的だ。

やはり「これまで大学として情報を発信する機会が少なかったように見えました」と指摘する。

レロさんは、当事者であるとオープンにし、学外でも5月4日にLGBTのイベントを企画するなど「どちらかというと"強い"LGBT当事者なんです」と語る。

「私は配慮されていない場に出くわしても、不便だな、と思うだけですが、もっと切実に困る人もいます。推進室の設立によって、今後はもっと見える形で、大学が積極的に取り組みをPRしてくれたら」

大学のあるべき姿

福沢の著書『修身要領』の第十四条には、こう記されている。

社会共存の道は、人々自から権利を護り幸福を求むると同時に、他人の権利幸福を尊重して、苟(いやしく)も之を犯すことなく、以て自他の独立自尊を傷つけざるに在り

「一人一人の権利を尊重するのが義塾です。LGBTも含めて、誰もが社会の構成員として、互いに尊重していかないといけません」と岩波教授。

「そのカルチャーは慶應に根付いています。推進室は、福沢先生ご自身がおっしゃり、慶應が大切にしてきた考え方を見える化していく組織です」

福沢は明治初期、一夫多妻がまかり通るなど、女性が圧倒的に不利な立場に置かれていた時代に、みなが平等であると教えてきた。

だからこそ、性的指向と性自認の違いについても当てはまると考えているという。

「福沢先生が大切にしてこられた考えをもう一度再認識し、改めて学生に伝えてゆくのが私たちの使命です」

「そして、学生や卒業生、教職員が、その考えを学外にも発信していく。そうして未来を先導するような存在になってほしいですね」

協生環境推進室を立ち上げ、LGBTへのサポートの新たなスタートを切った慶應大。それぞれのバックグラウンドに関係なく、全ての学生が安心して学べる環境になるかもしれない。

母校のこれからに期待が高まるばかりである。


BuzzFeed Japanは東京レインボープライドのメディアパートナーとして、2018年4月28日から、セクシュアルマイノリティに焦点をあてたコンテンツを集中的に発信する特集「LGBTウィーク」をはじめます。

記事や動画コンテンツのほか、5月1日午後8時からはTwitterライブ「#普通ってなんだっけ LGBTウィークLIVE」を配信します。

また、5〜6日に代々木公園で開催される東京レインボープライドでは今年もブースを出展。人気デザイナーのステレオテニスさんのオリジナルフォトブースなどをご用意しています!

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