出版不況と言われて久しいが、スマホをきっかけに部数を伸ばしている雑誌がある。小学館の『幼稚園』だ。
6月1日に発売された同誌の7月号は、発売から5日目で重版することとなった。1932年の創刊以来、初の快挙だという。トリガーになったのは、ふろく。
グリコの「セブンティーンアイス」とのコラボレーションで、アイス自動販売機のミニチュアがネット上で話題になったのだ。大人たちもこぞって作成動画をTwitterやYouTubeに載せた。
実は今号だけではなく、「幼稚園」がじわじわと注目されるようになっている。
Google トレンドによると、2018年から定期的に注目を集め、右肩上がりに検索数が増えていることがわかる。
園児の知育学習雑誌にどんな異変が起きているのか? 「幼稚園」編集部の大泉高志さんに聞いた。
今の子供たちは「リアル志向」
起点になったのが、2018年9月号の無添くら寿司とのコラボふろく「かいてんずし つかみゲーム」だった。
モーターによって回転する台にのった寿司を箸で掴むリアルなふろくはネット上で話題を集めた。園児が現実的なおもちゃに興味をしめすのか?
「幼稚園」と「企業」のギャップに多くの大人たちが度肝を抜かれた。
大泉さんは、くら寿司の店内で、子どもたちが楽しそうに寿司を注文し、お皿を取る姿を見て企画を思いついたという。今でこそ鉄板となった企業コラボだが、前代未聞の企画に社内では反対の声もあがったそうだ。
「それまで、ふろくと言えば『仮面ライダーの○○』というキャラクターものがメインだったので、(反対の声は)ありました」
「回転寿司のふろくも、『キャラとして仮面ライダーを乗せておいた方が、安全では?』という意見も出ましたが、『一回、企業さんでやらせて』と押し切りました」
現実世界にある企業では、子どもたちの気がひけるのか? 人気キャラで興味を引いたほうが安全ではないか? こう考えるのが普通だろう。
「今は、子どもたちが普通にスマホを持つので、リアルな画像に触れる機会が一気に増えたのだと思います」
キャラクターで彩られるよりも、より現実的で写真映えしそうなふろくの方が、子どもたちの関心を引きやすいと考えたのだ。懸念を押し切り、あえてリアルさを強調することで園児だけでなく、大人たちの心も掴んだ。
回転寿司の次号(2018年10月号)では、「ガチャポン×バンダイ」のふろくを企画した。凝ったデザインに、ガチャポンを集めた幼少期を思い出す大人たちが殺到。10万部が1〜2週間で完売した。
「ホビー好きな大人にも刺さるといいなと思っていたのですが、まさかここまでとは」
これまでラーメンチェーンの幸楽苑、PIZZA-LA、SEGAなど馴染みのある企業と共同でクオリティの高いふろくを作ってきた。雑誌が発売する度に、検索数が増えていった。
動画再生900万回 発売直後に書店から消えた
企業コラボレーションがはじまって10ヶ月、ついに重版が決定した。コラボ相手はグリコのアイス自動販売機「セブンティーンアイス」だ。
「これから暑くなってくる季節なのでアイスがやりたい、と。丁度、企業コラボふろく路線が軌道に乗り始めていたので、有名なアイスで何かふろくができないか、と。そこで、セブンティーンアイスの自販機がミニチュアになったら嬉しいかなと思いつきました」
5月31日の昼に編集部のTwitterで動画をアップをすると、瞬く間にTwitter上で話題になり900万回以上再生された。
大泉さんが土日に近所の書店に回っても、『幼稚園』はどこも売り切れ。結局、1冊も発見できなかった。
「「週明け、会社で『これはヤバい』という話になり、重版に動き、6月6日にその旨を発表しました」
ふろく付きの雑誌で重版出来になるのは異例だという。雑誌だけでなく、ふろくも追加で生産する必要があるなど、一般的な雑誌よりも実務的なハードルが高いのだ。
今回は、反響の大きさに加え、ボタン部分などの部品が確保できたこともあって、創刊以来はじめての重版出来が実現した。
「『大人が買って、子どもに行き渡らないのが申し訳ない』という意見もあるようですが、編集部としては、毎号完売するわけではありませんので気にせず楽しんでいただければと」
「大人の方が『幼稚園のふろくにヘンなのが付いててさ~』と盛り上がってくれるのも、とても嬉しいです。大人が楽しいものは、お子さんにもきっと楽しいはずです」