実写映画のイメージが崩れていった。
スクリーンに描かれるのは官能的なホラー映画。じっとりした不気味な狂気だ。
「東京喰種【S】」は人を喰らわないと生きていけない喰種が跋扈する世界を描く。原作は累計発行部数4400万を超え、アニメ、舞台、そして2017年には実写映画「東京喰種 トーキョーグール」が公開された。人気作だけに実写化に求められるハードルは高い。その上、本作は続編だ。
前作の萩原健太郎監督からバトンを引き継ぎ、本作のメガホンをとったのは、1988年生まれの川崎拓也氏、平牧和彦氏。MVやCMを撮ってきた若き監督たちが生み出したのは、美しさと狂乱で構築されたリアルな喰種の世界だった。
「続編」の足掻き――異常な世界を伝える衝撃的な冒頭
――実写第二作目となると、途中から話が始まるので、物語を作るのが難しそうに見えます。設定の説明も必要ですよね?
川崎:冒頭は慎重に作りました。実は、一度全部作り終えた後に、タイトルシークエンスを別で作ったんです。
喰種の世界をどうやって説明すれば良いのか?前作とどうやって橋渡しをすればいいのか?
当初は過去素材を使った回想シーンを作って、説明しようとしたんですけど、それってちょっとダサい……。だから工夫をしたいと思って。
平牧:前作の映像を東京の路上にプロジェクションマッピングで実際に映し出してみたんです。そうすると東京喰種の世界観の説明もできるし、東京という舞台にリアルさが出るかなと。
――その後にいきなり松田さん演じる月山の捕食シーンが描かれていて。
川崎:そこはすごくこだわりました。今回は月山をメインに描いているので、無理やり冒頭に月山の狂気じみた捕食シーンを入れさせてもらって。
平牧:あのシーンを見れば「人を喰らう」存在もわかってもらえるし、その中でも特に月山が偏執的な美食家であることを印象付けられるかなと思いまして。あと、どうしても、実際に東京に喰種が跋扈しているように見せたかった。
――非常にリアルな描写が多く、マンガ実写というよりホラー映画のような……。
平牧:現実味のある作品にしたかったんです。というのも、前作からアップデートしたい気持ちがあって。ただ、前作はハリウッド的な演出でとてもクオリティが高く、評判も良かった。
だから、そっちの方向で行っても勝てないだろうと思ったので、逆を行ってドキュメンタリーを意識しました。長回しでカメラを回したり、ほぼロケで撮影しました。
平牧:前作はセットをふんだんに使っていたのですが、今回は現実世界にある場所が多いです。カネキがバイトをしている喫茶店のあんていく、喰種レストラン、喰種たちが集うバー……。
川崎:ロケだから、撮影中に電車が通っちゃって中断したりするんですよ。長回ししてるのに音が入っちゃう。「あと5分で電車通るのでちょっと撮影待ってください!」みたいな(笑)。でも、変えられないリアリティだから。
――喰種レストランの雰囲気もドラッグパーティーのような雰囲気で。
平牧:あれも実際にある倉庫です。エレベーターの雰囲気も気に入ってます。見つかってよかった。
人間から迫害されている喰種たちが、夜な夜な集う場所なので、アンダーグラウンドっぽい雰囲気にしたかった。アングラでマグロの解体ショーをみんなで楽しんでるっていうコンセプトです。人間も、眼の前でマグロが解体されるのを見て「わー!」って興奮するじゃないですか。それの喰種版。
——月山の戦闘シーンの舞台もロケですか? 神聖な感じがしたので。
平牧:あそこは、ロケセット。スタジオではないけれど、富士山の麓にある廃墟に壁だけを作って撮影しました。
——廃墟。
平牧:ずっと昔に潰れてしまったトリックアートミュージアムの跡地なんです。廃墟なので、ホコリが多くて大変でした。みんなが掃除をしてくれたので、ある程度はよくなったんですけど、役者の皆さんは大変だったと思います。僕たちは普通にマスクをしながら撮影してたので……。
松田翔太の提案で変わったバトルシーン
――強烈なキャラクターの月山はどうやってリアルさを出したのですか? どうやっても不自然になってしまいそう。
川崎:月山って、原作ではめちゃめちゃイカれてるし、アニメーションのキャラクターもすごく強烈で人気。月山として独り歩きしているので、それを実写映画でやるのは無理があるなと思いまして。
リアリティを大事にして作る中で、月山はどうあるべきか?
これを松田さんとかなり話し合いました。でも……そもそも松田さん自身がけっこう月山だったんですよね。
――ああいう人って実在するんですか。
川崎:月山ってヤバいキャラクターなんですけれど、同時に社交的で明るく美しいエンターテイナー。それがそのまま松田さん。
こだわりが強くておしゃれで品がある。松田さんにタグ付けされたものが全部月山に入っていると思ったんですよね。
平牧:住宅街にあるスタジオで衣装の打ち合わせた時に、ご自身の車からおりてきた松田さんが、すでに月山で。松田さんのオーラと周りの生活感ある風景のコントラストが「月山そのもの」って感じでした。
川崎:月山って実在したんだ……みたいな。もちろんすごく役作りをしてもらってるんですけど、素が既に月山に近かった。
驚異的な存在が主人公カネキにせまってくる感じを出したかったので、コミカルな奇抜さは少し引き算しました。ただ、普通に行動がヤバい。
ベースにある怖さ、月山独自のスタイリッシュさを大事にしたくて、マスクにもこだわりました。松田さんのアイディアも結構あるんですけど、顔が全く見えないけれど中でとんでもない表情をしているらしいです。
――松田さんの意見も組み込まれてるんですね。
川崎:最後のバトルシーンも松田さんの提案で変えました。当初は原作通りカネキと月山のシンプルな戦いだったんですけど、松田さんが「月山的に、この戦闘はカネキを食べるための儀式だと思う」って言い始めて……。
「俺が月山だったらカネキの骨が折れる音が聴きたいし、匂いを嗅ぎたいんだよね。高級料理を解体する感じ」と。
平牧:松田さんは「カネキに対する恋愛映画」とずっと仰ってて、だからただバトルするんじゃなくて、愛の爆発みたいな。丁度現場にいらしてたスイ先生も「そうだね」って言ってたので。
――今回、アクションシーンもリアルっぽく感じました。地味ではないけれど、本当に戦ってるっぽかった。
平牧:肉弾戦ぽいですよね。
――新鮮でした。CG感が少ないというか……。
平牧:前作は喰種のバトルを超人っぽく描いてましたよね。急に姿を消したり瞬間移動してる感じ。多分、喰種と人間の身体能力のコントラストを表現しているんだと思うんです。人間から見ると喰種は超人的な存在だから。
でも今回は、喰種の世界。喰種と喰種の戦いだから、そこをリアルに描こうと思って、アクションシーンを過剰にしていないんです。「目に見えないくらい速い」超人的な派手ではなく、戦ってる喰種たちの動きがわかるように描いてます。肉体同士がぶつかり合ってる感じ。
撮影は、カメラを手持ちにした部分もありました。ブレると臨場感が出る。拳をみぞおちに入れられたときに、グッと寄る。
川崎:もちろん、CGにもかなり助けてもらっていて、喰種の武器である赫子も演技のひとつ……というか、彼らの身体なので。心境とか痛覚と一致させる動きを作ってもらいました。
「山本(舞香)さんがそのままトーカみたいだったんですよ」
――役でいうと、トーカがかなりツンツンしているように見えました。
川崎:怒ってますよね。実は今回一番悩んだのが、トーカの立ち位置でした。
――なぜですか?
川崎:各キャラクターを細部まで描いて話を複雑にすると、逆にストーリーが薄くなる。あくまで月山がカネキに迫る話がメインなので。バランスの取り方が難しかった。
ただ、今回はカネキから見た、ドキュメンタリータッチにしているので、アクセントが欲しい。月は自分を襲ってくるヤバい存在。トーカはなぜか怒っている女の子。そうした時に、「なぜ、トーカはこんなにカネキに対して怒りを感じているのか」をはっきりさせる必要があった。
前作は、学校でも友達は少ない割にうまくやっていて、強くてかっこいい存在だったんですけれど、今回はもうちょっと不器用な感じに……。
10代独特の強がりというか。忌み嫌われてる喰種が一生懸命学校に行って、でも普通の食事ができない。なんなら人を食べないと生きていけない。どうやって人間関係築いていくんだ、みたいな。でもその悩みを誰にも悟られたくないから怒りで隠す。
――カネキも人間と共存したいと甘いこと言うし。
川崎:なんか……山本さんがそのままトーカみたいだったんですよ。
10代っぽい悩み方っていうのかな、モヤモヤしてるけれど、戦ったら強い。そういう意地の張り方がリアルに見えたんです。
平牧:松田さんと窪田さんはじめバケモノ級の役者に一生懸命についていってる。そのひたむきな姿がトーカっぽくて。
主役なのに「何もしない」カネキとその意味
――主役のカネキの立ち位置はどうでしょう?
川崎:今回の物語だと、カネキは変態的なヤバい奴、怒っている女の子、人間との関わり方を模索する奴を「見ている」プレーンな存在。自分が知らない世界をなんとか理解しようと辛そうにしているのが大事で、何もしない。
平松:窪田さんは、カネキのような演技をするんです。自分の意思は確かにあるけれど、周りのいろんな演じ方に合わせる、享受する感じ。それが結果的にモンスターみたいなんですけど(笑)。
川崎:とはいえ、「何もしない」と映画としてはちょっとストーリーが足りないので、何かやってほしいと思っていて。喰種新参者として、特異な世界で翻弄されて、何もできないフラストレーションが溜まって……ようやく爆発する。
その変化を見て、トーカが最後の最後でちょっと変わる。高校生活が少し……。
――かなり日常的に変化を描いてますよね。静か、というか。
川崎:僕は「東京喰種」って、ねっとりした所が良いなと思っていて。当初、脚本を詰めるとき、さっぱりした綺麗なエンディングを模索した時期もあったんですけど、それって「東京喰種」じゃないなと。
人を喰らう設定こそショッキングですが、喰種も喰種で各々違った悩みを抱えていて、解消されたり、されなかったりする。でも、それぞれが必死に生きてる。だから大団円よりも、誰かがちょっと少し前向きになって終わるようにしたかった。それが「東京喰種」の好きなところなので。
画像:©2019「東京喰種【S】」製作委員会 ©石田スイ/集英社
<作品情報>
タイトル:東京喰種 トーキョーグール【S】
原作:石田スイ「東京喰種トーキョーグール」 (集英社ヤングジャンプ コミックス刊)
監督:川崎拓也 平牧和彦
脚本:御笠ノ忠次
主題歌:女王蜂「Introduction」(Sony Music Associated Records)
出演:窪田正孝 山本舞香 鈴木伸之 小笠原海 白石隼也 木竜麻生 森七菜 桜田ひより 村井國夫/知英 マギー ダンカン 栁俊太郎 坂東巳之助/松田翔太
配給:松竹
公開:7月19日(金)全国公開