おばたのお兄さんは淡々と話す。テレビやSNSで見かける「まーきの!」とおちゃらける顔とは全く違う姿がそこにあった。金曜日、22時過ぎ。今日は取材は4本受けたという。この取材の後、楽曲制作が待っている。
秋元康プロデュース、吉本興業の選抜メンバーで結成された「吉本坂 46」のメンバーとしてCDデビューが控えているのだ。
新しいチャレンジに「”モノマネ芸人”と”アナウンサーの旦那さん”。そうじゃない部分で仕事ができるのは嬉しい」と言う。一発屋で終わる気は、ない。
とはいえ、なぜ一発あげることができたのだろうか? 揶揄するのは簡単だが、ほとんどの人は一発すらあげられないのだから――。
「まーきのっ!」はバズるべくしてバズった
――Twitterでもテレビでもよく見る、小栗旬さんのモノマネはどうやって生まれたんでしょうか?
僕は以前コンビを組んでいたのですが、もともと小栗さんのファンだったので、単独ライブの合間に、映画『クローズ』のパロディーVTRを作ってたりしてたんです。
ピン芸人になってから、自分は「ネタで勝負できるか」と考えたんですが、違うなと。でもテレビに出たいし、メディアにも露出したい。
自分でもいけそうだと選んだのが、モノマネとリズムネタでした。お笑いのブームを作るのは、どんな時でもリズムネタ。モノマネはテレビに出やすい。あとは他人がやっていないこと。
――他人がやっていないこと。
具体的に言うと、セグウェイに乗ったネタです(笑)。
モノマネ、リズムネタ、セグウェイ。その3つに絞って、ブレずにこれだけやろうと決めました。評価されなくていいから、テレビに出たい。これだけ1年間やっていたら「小栗旬さんのモノマネ」が引っかかったんです。
――最初、Twitterでバズったんですよね。
そうです。Twitterで回った感じです。「まーきのっ!」って言っているので、サッカーの槙野選手が「呼んだか?」と返してくださったり、著名な方が「面白い」と言ってくださって。
――ある日突然バズったってことですか?
突然でしたね、本当に。でも、正直……その収録の時に、今までに感じたことのない「あれ?これはもしかしたら、何かあるかも」というザワザワした感覚があったんです。
現場でも、プロデューサーや演出家の方が「面白かったよ」と声をかけてきてくれて。
「これが手応えってやつなのかな?」と思って、オンエアの日に合わせてツイートの準備をしておいたんです。どんな小さなチャンスでも、その時に動き出さないとダメだから。
――どんな準備を?
ツイートの文章も写真も準備しておいて、Tweetボタンを押せばOKという状態にしておきました。
自分がテレビに出てウケたとしたら、見ている人は次のCMの時に「あいつは一体誰だったんだ」と調べるだろうと思ったので、CMのタイミングでツイートしました。
――これが当たった…?
本当に……無名の芸人なのに10分間で1000リツイートぐらいいったんですよね。グワーッて回って、読みが当たったんですよ。実は、Tweetの内容も算段がありました。
――どんな読みがあったんですか?
「自分だったら、気になるものを見つけた時、どうやって調べるのか?」って考えながら内容を考えました。
テレビで披露したネタは、小栗さんの姿でPPAPのモノマネして、オチが「ぽいっ…まーきのっ!」。取っ掛かりになる要素を分解すると「小栗旬」、「モノマネ」、「PPAP」、「まーきのっ!」、「ぽいっ!」かなと。
引っかかりそうなキーワードをリストアップして、それを全部文章の中に入れたんですね。逆に「おばたのお兄さん」という芸名はいれませんでした。
――なぜですか? 自分の名前を売り出したいって気持ちは、抑えた……?
僕の名前はみんな知らないだろうから。名前なんて後からでいいんです。覚えてもらうのは。
例えば「細かすぎて伝わらないモノマネ」を見て誰かと会話する時、「こういうモノマネしてた人、見た?」って話すと思うんです。名前よりも、ネタのキーワードの方が断然強い。
そしたら案の定……通知が止まらないんですよ。1日で2万人ぐらいフォロワーが増えました。このバズを見たのか、事務所から「これから何かあるかもしれないから、動く準備をしていきましょう」と電話がかかってきたんです。
――バズを計算していたと。
SNSも好きだったので、いろんな投稿をして随時分析していたんです。何がバズって、どうやったら人の目に止まるのかって。
モノマネ、リズムネタ、セグウェイ。3つに絞った段階では表現の幅としては我慢してたと思います。他にやりたいネタはありますからね。でも、絞った方が成功する確率高いから……こんなに手の内を明かしちゃうと、笑ってもらえなくなっちゃうかもしれませんが。ずる賢いだけです。
――小栗さんと最初に会ったときはどうでした?
僕は勝手にモノマネしているわけですから怖かったですね。番組のドッキリ企画だったので否応なくお会いしたんですけど……。本当にかっこいいし背は高いしスラッとしてて、かなり緊張しました。でも、すごく寛容な方で……今はプライベートでも仲良くしていただいて。
――一気に仲良くなったんですか?
いや……初対面から1年半ぐらいしてから、ようやく小栗さんのボケにツッコめるようになりました(笑)。「いや、あんただよ!」とか。勇気振り絞りながら言いましたけれど。やっぱり、仲良くしていただいても距離感は間違えると不快になりますから。
小栗旬さんの影響力ってやっぱりすごいんです。芸能人の方からも「小栗君のモノマネの子だよね」で知ってもらったりして…小栗さんのおかげです。
失敗は逆においしい。そう思わなかったら「アナウンサーなんていけない」
――「まーきのっ」でブレイクして、次は吉本坂46で歌手デビュー。これって吉本興業内でオーディションがあったそうで?
そうなんです。書類審査から面接までいろいろと。自分は「お笑い芸人」よりも「エンターテイナー」になりたいなと思っていたので応募してみました。最初は何がなんだかわかっていなかったのですが、まさか秋元康さんにプロデュースしていただけるとは……。
受かったのは純粋に嬉しかったです。芸能界は入れ替わりも激しいから、大変ですよ、もう。必死。当日にダンスが変わったりイレギュラーづくしでしたけど、ここでヒーヒー言ってたら、みんなを魅了できないでしょうし。だから頑張らないと。
それにネタにしかり歌にしかり、いろんな可能性があった方がいいわけですから。――オーディションに落ちる可能性もあったわけで、不安にはならなかったですか?
自分がむちゃくちゃ売れてたら失敗は怖いとは思うかもしれない。でも、自分はそんなレベルに達してない。だから失敗の1つや2つあったところで、急降下するわけでもないなと。
あと、失敗の方がエピソードとして面白いんですよ。オーディションに受かったら嬉しい。でも、落ちたら「真剣にアイドルになりにいって落ちたんです」って言える。
失敗エピソードとして、1つ笑いが取れる。全部がネタになる……どんなことでもプラスに働くのが芸人のいいとこだなとは思いますね。
――ポジティブですね。
ポジティブじゃないと、売れてないのにアナウンサーと付き合えないですよ(笑)。「頭おかしい」、「どうかしてるよ」って言われますもん、やっぱり。
――書いても大丈夫ですか?
はい、全然大丈夫です。僕も思いますもん。例えば、今ポンッと出てきた後輩がいたとして、テレビに出たことがきっかけで「アナウンサーとご飯行きます」と言われたら……「頭おかしい」って言うと思います。
――奥様が活躍されている方で、引け目みたいなものは感じなかったのでしょうか?
そんなこと考えてたら付き合わなかったんでしょうね。何も考えない単細胞の思い付きというか……他人の目を気にせずにいたから、結婚に至ったんだと思います。バカなだけ。そういうのは、計算できない。
もともと、アタックするのもおかしいと思うんですけど、トライしないで後悔するんだったら、失敗して後悔した方がいい。やっぱり失敗の方が面白いから……「あの子にフラれちゃってさ」って言える。
吉本坂に絡めちゃいますけど、名曲って挫折とか傷ついたとか、そういうものがテーマなものが多いと思うんです。
吉本坂の歌も、失恋がテーマだからこそ染みる気がします。歌詞をかみしめながら聴いてほしいな……とは思います。
――結婚して何か変わりました?
大真面目な話をすると、責任感が全然違いますね。家族って守っていかないといけない存在なので、お金はもちろんいろいろ頑張っていかないと……。奥さんに恥をかかせられない。彼女は表に出る人だから尚のこと。
――堅苦しいなと思ったりとか、そういうことはないんですか? 重いな、疲れたな……とか。
ないですかね。プラスの方にばっかり転じてます。仕事のモチベーションにもなってるし。
今年は、最高月収を達成したりしたのですが、「ここで止まったらだめだ」って。ここでサボるような奴は家族なんて守れない。そういう責任感はすごく出ました。
――おばたさんは、家事も得意なんですよね。
はい。母の手伝いがもともと好きだったので、炊事、洗濯、掃除……は、好きでやっちゃいますね。
――多忙な奥様にお弁当を作ってるという話も聞きました。
彼女は3時半過ぎくらいに毎朝起きていて、逆に僕の帰宅は深夜1時くらい。そこから風呂入ったりしていると2時ぐらいになる。「今、おにぎりを握れば1時間半後に彼女はそれを持ってける」わけじゃないですか。寝る前の5分を使うだけなので。
――すれ違いの生活で寂しくならないんでしょうか?
変にナルシストな部分があって「忙しい俺、頑張ってる」って思えちゃうんです。いっぱい会えるってことは、仕事がないってことですから。寂しいは寂しいですけど……朝テレビをつければ出てますし。顔を見れるので全然大丈夫です。
――亭主関白的なメンタリティは湧いてこないのですか? それこそ格差婚と言われるぐらいに…。
僕、性格的には「引っ張っていきたいタイプ」なんだと思います。でも、単純に家事が好きだし、各々が得意なことをやるのが効率的。お互いが気持ちよく過ごせるんだったらそっちの方がいい。おにぎりも義務感はないです。疲れてる時、作らないし。「作れる時に作るね」って言ってあるので。
――いい関係ですね。「これからどうしていきたい」とかありますか?
昔って、選ばれた人しかテレビに出れなかったけれど、今は選ばれてない人も世に出ることができるんですよ。発信ツールがいっぱいある。自分のやることさえしっかりしてブレてなければ、いずれ大きいメディアの方に行けるだろうっていう希望を持ってる若手ってたくさんいると思います。
僕もそうですし、吉本坂のメンバーだとしゅんしゅんクリニックPとか。
そういうタイプの人は、どんどん伸びてくし稼げる時代だなと思います。
――失敗を恐れている場合ではないと。
そうです、そうです。成功したら嬉しい。失敗したらおもしろい。能動的に動けばいいことしかないんです。僕もまだまだなので、いろいろチャレンジしていきますが!