ネガティブなことは全部“怒り”に変えてます 人気女優が明かす「難しい局面」の乗り越え方

    アニメ映画『金の国 水の国』では主人公・サーラを演じる浜辺美波。2023年にはNHK連続テレビ小説『らんまん』や映画『シン・仮面ライダー』でヒロインを演じる彼女にとって「声の仕事」は「毎回ものすごく苦労」するものだという。俳優生活12年目。難しい局面はどうやって乗り越えてきたのだろうか。

    「ずっと迷走していたんです」。そう語るのは浜辺美波だ。岩本ナオによる同名漫画をアニメ化した映画『金の国 水の国』では、声優として主人公・サーラを演じきったが、当初は苦労をしたという。

    自己評価は厳しいが、共演者からは「息をのみました」と絶賛された。俳優生活12年目。これまでも難しい仕事に立ち向かったことは幾度となくあった。めざましい活躍を見せる彼女は、どのように乗り越えてきたのか。

    「別の方に変えた方がいいんじゃないか」と思うことも

    浜辺は10歳のときに受けた「東宝シンデレラ」オーディションで芸能界デビューして以来、映画やドラマなどさまざまな形で芝居をしてきた。声の仕事は何度か経験してきたが、毎回苦戦していると話す。

    「声のお芝居は、普段いただいているお仕事とはまったく別のもの。今まで積み重ねてきた経験やスキルが通用しないことも多い気がします。毎回ものすごく苦労します」

    『金の国 水の国』は、戦争がいつ始まってもおかしくないふたつの国を舞台に繰り広げられる政治と恋愛が重なるファンタジーだ。金の国の王女・サーラが水の国の青年ナランバヤルと出会うことで、意図せず2国の状況が変わっていく。

    浜辺が演じたサーラは、きらびやかな姉たちの中で“存在を忘れられている”王女。おっとりした性格が持ち味だが、演じる難易度は高かった。

    想像以上にゆっくり話さないと「サーラらしさ」が生まれないのだ。かといって不自然ではないように調整しなくてはいけない。

    「お声がけいただいた時はとても嬉しかったです。ただ、サーラのテンポをつかむのにはとても苦労しました。私の中で、作品が素敵だからこそ、台無しにしたくないという思いが強くて……」

    普段とは異なり、アフレコブースにこもってキャラクターに声を当てる。金魚鉢に入れられているような緊張感があり、肩の力が抜けなかった。

    「何度も何度もテイクを重ねていくうちに『もうダメかもしれない』『私ではない別の方に変えた方がいいんじゃないか』と、よくない方向に考えがいってしまいました。1人でシクシクする瞬間もありました」

    不慣れな環境下でネガティブな気持ちを打破できたのは、スタッフや共演者の存在が大きいと振り返る。

    「音響監督さんが『大丈夫だよ』と励ましてくださったり、ナランバヤル役の賀来賢人さんにも助けていただきました」

    「最初こそ1人で収録をしていたのですが、賀来さんがナランバヤルを完成された状態で持ってきてくださったので……ご一緒して初めてサーラ像が理解できました」

    完成した映画を見て「サーラの笑顔や微笑む表情がアフレコ時より何倍も可愛らしく見えました」と安堵した。

    アウェイを乗り切る秘訣は……

    『金の国 水の国』では、サーラが自分が暮らす金の国から敵国・水の国へ単身足を踏み入れ、そこでの出来事をきっかけに物語は進む。アウェイの場で心細くなった経験は浜辺にもある。高校生ながら単身で石川県から上京したのだ。

    「もともとは中高一貫校に通っていたのですが、仕事に専念するために芸能コースのある高校に転入しました。上京したときは、知らない道ばかりですし、初めてのことだらけだったので、眠れない夜もありました」

    「大学進学はしない」という選択も浜辺の心を強くした。上京した時から芝居の道に進むと決めてはいたものの、将来への不安は少なからずあった。

    「進学しないことを決めた後に『将来、無職になってしまうかも』と思ったこともあります(笑)。悩んでる時間はキリがないぐらいあったような気がするのですが、いろいろ考えているうちに『うまくいかなかったら石川県に帰ろう。温かい人たちがいっぱいいるから大丈夫』という結論に行き着きました。拾う神がいるはずだと」

    「不安に対しては、ある程度『こうなるかもしれない』と予測だけはしておいて、あとは考えないようにしています(笑)。学校に通ってみるとか、目の前のお仕事を全力でやってみるとか、他のことに時間を費やしているうちに元気になっていきました」

    ネガティブなことは全部「怒り」に変えてます

    また本作では、サーラの外見について言及されるシーンがある。サーラが大勢の前に姿を見せた途端に、衆人環視の中「俺は全然アリ」「あなたがもっと美しければ…」という言葉が飛び交う場面は、胸がしめつけられる。

    俳優という仕事柄、浜辺は表に立つことが多い。他者からの無邪気な言葉で傷つくこともあるだろう。

    「中学生の時くらいから、難しい局面に立ったときは全部“怒り”に変えるようにしています。上手くいかないときは『なんで私はうまくできないんだ!』と自分に怒って鼓舞するというか」

    「嫌なことを誰かに言われても『頑張って見返そう』と、逆にパワーにしてしまう。落ち込んだ気持ちを燃やしてロケットを飛ばすぐらいの感覚で毎日戦っています」

    また、サーラを演じることで「人としての魅力」についても深く考えた。

    「サーラは争いとは無縁の性格で、どんなことが起きても笑顔を絶やしません。この笑顔で周りの人たちも柔らかい気持ちになれるんだろうなと改めて実感しました。美しさは、人間的な魅力によって生まれるとサーラに教えてもらいました」

    浜辺は穏やかに話しながらも、熱い言葉を選ぶ。小学生の頃からオーディションを受けては落ちたり受かったりを繰り返してきた彼女は、徹底した仕事人なのだろう。落胆したり不安になることがあっても起き上がってきた。

    「自信があるかと聞かれたら『ない』です。でも、緊張したり不安になったときは『努力してるから大丈夫』と思うようにしています。なんでもいいんです。髪の毛をトリートメントするとか、食事に気をつけるとか、運動するとか。努力の時間が自信になっていくような気がしています」

    「『今できること』を積み重ねていくと、プレッシャーにもなんとか打ち勝てる気がします。誰の意見にも惑わされない。ただ、自分の中で引け目があると足元がぐらついてしまうので、小さなことでも続けるだけで違うのかなと思います」

    かつては自身に対して「人に誇れるものもなかった」と語っていた浜辺だが、芝居という仕事を続けていくうちに「時間を費やしてきたのだから大丈夫」と思えるようになっていた。

    2023年は、ヒロインを務めるNHK朝の連続テレビ小説『らんまん』や映画『シン・仮面ライダー』の公開も控える。大きなチャンスを目の前に「今⁉︎」と戸惑うこともあったが、しっかりと壁を登りきった。

    自信という言葉からは「誰かより優れている感覚」というイメージも思い浮かぶが、必ずしもそうではない。「努力の積み重ね」が浜辺を支えている。


    『金の国 水の国』
    原作:岩本ナオ「金の国 水の国」(小学館フラワーコミックスαスペシャル刊)
    配給:ワーナー・ブラザース映画
    ©岩本ナオ/小学館 ©2023「金の国 水の国」製作委員会