ニセモノっぽい、飽きたと言われても――きゃりーと名乗って10年、「他人の視線」と向き合う方法

    他人の評価とどう向き合うのか。10年「意図せず」続いたきゃりーの哲学

    Twitterのフォロワーは520万人。写真を投稿するだけでネットニュースになる。人気アーティストといえば、きゃりーぱみゅぱみゅだ。

    新年早々、新MV『音ノ国』を公開し、ファンシーな世界観を打ち出す。2019年は、自身初の神社でのライブツアーも敢行予定だ。

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    アーティストとしてすっかり腰を据えたように見えるが、当初彼女は「ただのネットユーザー」として注目を集める少女だった。

    退屈から抜け出したくて「きゃりーぱみゅぱみゅ」になった

    ――きゃりーさんが、原宿系の雑誌『KERA』に登場したのが2009年。今年で10年になりますね。

    確かに! KERAからすると10年ぐらい。当時は、ニコ生をやったりしてましたね。友達同士で変顔の写真を撮ったり、連写で遊んでることが多かったんですけど、自分の身の回りのことを発信して、コメントとかリアクションがつくのが楽しかった。TikTokみたいな感覚ですね。mixiも使ってたかな。一般人でも何か発信できるのが嬉しかった。

    ――他人の目が怖いという気持ちはなかったんですか?

    私は幼少期すごく人見知りが激しくて気が弱いタイプだったんです。でも、高校生の時に原宿っていう街を知ってから変わった。

    私は女子校に通っていたんですけど、校内は「おとなしいグループ」と「イケてるグループ」でなんとなく分かれてて。私は、どちらにも属さない人間だった。刺激のない毎日を送っていたんですけれど、原宿だけは違った。

    好きな格好して歩いていると「その服すごくいいね」って言ってもらえる。あ、なんか気持ちいい。好きなことやってこの褒められるのはいいな。そう思ってから、自分で発信したことに対してレスポンスが来ることがすごく嬉しくなったんだと思います。

    ――原宿という街のリアルなリアクションが、ネットでの発信を後押した?

    そうですね。当時は、髪の毛は相当カラフルだったし、ピエロの顔とかかいて歩いてたんですけど、地元だと「あいつ大丈夫かよ」っていう目で見られる。お母さんからも「奇抜すぎるからやめて」って言われたこともあります(笑)。

    でも、原宿だけはスナップに撮ってもらったり、外国の方が一緒に写真を撮ってと言ってくれたり。表現することを評価してもらえる居場所みたいな街だった。ネットもそういうところはありますね。

    ――最初、きゃりーさんはファッションブロガーでしたもんね。2014年が最終更新でした。

    えっ……あれ今も見れるんですか? さすがにもう閉鎖した方がよくない?(笑)

    偽物という視線

    ――読者モデル出身とか、ニコニコ出身とか、ネット発とか。いわゆるお前は本物じゃない感みたいなことを、視線って感じたりしたことありますか?

    ありますね。特に読者モデルからうまくいく人って少ないんです。みんないろいろやっていますけれど、活動を続けるのはすごく難しい。私自身、デビュー当時はすごく邪険に扱われることが多くて。派手な格好をしていたから当たり前なんですけれど、すごくイライラしました。

    ――劣等感ってありました?

    最初、びっくりするほどのスピード感で、トップの人たちが名前を連ねる歌番組にポン!と出させてもらってて。「音楽を生きがいとしてきた人の中に、私はいていいんだろうか?」と思ったこともあります。

    でも、一方でまだ未成年ということもあって無敵モードな部分がありました。「自分が一番イケてるし、嫌いな人は聴かなくていいでーす」みたいな。20代前半ぐらいまでは、こじれてましたね。ひねくれていた。

    ――今はどうですか?

    ここ2〜3年ですごく変わりましたね。昔は子どもだった(笑)。当たり前のように出させてもらっていた番組も、呼ばれなくなることもある。悔しいな、もっと頑張らないとなという気持ちが芽生えた。すごく素直になりました。

    私は、親子関係も良好で、なんとなくポンポンと来てしまったから、根底に「なにくそ」的なものがなかったんです。それは世の中を甘く見ていたとも言えて、涼しい顔をしていないで、素直に頑張ろうと思えるようになった。

    例えば、私、今までバンドの音楽って、正直言ってあまり興味がなかったんですね。

    ――中田ヤスタカさんは、ダンスミュージックの人ですもんね。

    そうそう。でも、最近[Alexandros]のライブに行ってみたら、めちゃくちゃよくて。舞台から去るその最後の所作まで、勉強になることがいっぱいあったんです。そうやって自分の「興味外」のことでも、いいものはいいと思えるようになった。

    ――「いろんなモノや音楽を肯定するのって、自分がない」みたいな意見ってあると思うのですが、きゃりーさんはどうですか?

    「これ嫌いなんだよね」って否定的な発言をすると、いじわるに見えちゃいますからね。昔は、興味範囲が狭くてすぐに「あ、これはダサいな」って思って、排除してきちゃった部分があったんですけれど、そうすると自分の引き出しが減っていく。

    そうすると、ライブのコンセプトとかも思い浮かばなくてうまくいかないんですよ。そんなんでは、ダメだなという気持ちが芽生えて、自分の変なこだわりを捨てて、色んな人に教えを請うようにしたり、インプットを増やしてます。

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    キャバレーがテーマのライブツアー『星屑のマティーニ』で披露された『恋ノ花』 / Via youtube.com

    ――きゃりーさんでもアイディアに詰まるときってあるんですね。

    あります、あります。毎回、自分の引き出しを使ってアウトプットしてきたので。ただ、基本的に周りの意見を聞くことがすごく多いですね。

    ――意外です。

    よく誤解されるのですが、私は天才でもないし、強いこだわりもない性格なんです。周りの意見を常に聞く。ここ最近特に強くなってますね。自分と違う意見があっても、見方を変えたら素敵に見えることもあるから、無碍にはしたくないですね。喧嘩しないようにしてます、常に。

    ――喧嘩?

    喧嘩すると、自分の気持ちと正反対のこと言っちゃうんです。例えば、彼氏と喧嘩したとして、本当はすごく好きなのに勢い余って「全然好きじゃない! 死ね」って言っちゃう。その後に後悔して「本当はそんなこと思ってなかった、すみません」って謝る。めんどくさいじゃないですか(笑)。最初から「好きだから怒っちゃった」って言えばいいのに。

    素直になれないって無駄が多い。正反対なことを言って、一時的に仲が悪くなるのも嫌だし。10代の時の、ひねくれた部分がとれてきましたね、ここ最近。年齢なのかな。

    今年は神社でツアーをやるんですけれど、本当はみんなにアンケート取りたいくらい。基本的に私がやれているのは、一人の力ではないので。

    ――今回のライブは、どういうコンセプトで行くんですか?

    基本的にいつも場所が最初に決まるんです。直近は、ホールツアーだったのでキャバレーの演出。その前はワールドツアーだったので妖怪にしました。

    まだ、決まっていないんですけれど、前に美輪明宏さんに「きゃりーちゃんは出雲国の阿国の生まれ変わりだと思ってる」と言っていただいて。

    ――出雲国の阿国?

    「江戸時代にお着物を着て十字架のネックレスつけるような人たちだったそうで。当時は、そういう違うカルチャーのものを合わせるのは変だと言われていたけれど、今見るとおしゃれとして成立している。あなたはそれと同じ感じがする」みたいな……。

    美輪さんの言葉を思い出して、今昔織りまぜたファッションの面白い部分を組み合わせていけたらいいなと考えてます。

    今は、スタッフさんはもちろん、友だちやお母さんにも相談しながら固めていってる段階なんですけど。神聖な場所でライブをするのはずっと夢だったので楽しみですね。

    他人の意見は正直気になる。でも結構アテにならない

    ――アーティストとして、かなり落ち着かれたような。腰が据わったと言うか。

    昔はひねくれていたし、ノリの部分も多かったし。でも、今は腰を据えていいパフォーマンスをして、楽しんでもらいたいって素直に思えるようになったからかも。

    ――成熟を感じて素敵だなと思う一方、それって尖った部分がとれるとも言えて。丸くなったって言われません?

    ネットですごい言われますね。そもそも派手なキャラクターだったので、飽きたと言われたり、もう見切ったとも言われたりしますね。

    正直、最初は事務所とか関係なしにすぐに辞めてもいいと思っていたんです。この名前で10年やるなんて想像してなかったぐらい。ここまで続いたんだから、逆にいろいろやっていけるなというのが今のメンタルですね。

    ――他人の意見って気になりませんか?

    それはあります。でも、「他人の意見」ってすごく単純だし無責任なんですよ。

    今年、「きみのみかた」をリリースしたんですけれど、そのテーマが大人っぽさだったんですね。曲のイメージに合わせて髪型やネイルを変えてるので、久しぶりに黒髪にしたんです。そうしたら、雑誌のインタビューが軒並み「落ち着いた」って言われて(笑)。

    ビジュアルが少し変わっただけで、周りってこんなにびっくりするんだ!って。また髪色を明るくしたら「この前まであんなに落ち着いていたのに」って言われたり(笑)。

    ――世間の評価は、移ろいやすいと。

    そうですね。例えば、ここ最近……これはどうしても我慢ならなくて言っちゃったんですけど、ライブの演出に対してすぐにバッシングする風潮ってあると思うんです。女性蔑視とか。私のツアーもキャバレーというテーマだったので、そういうこと言われたりもして。

    もちろん、誰かを傷つけるのは良くないと思うけど、過剰に気にすると何もできない。ユーモアが殺されちゃう。だから「表現に対して小姑みたいなことは言いたくない!」ってつぶやいたら、「それこそが小姑みたいだよ」ってリプが来て、笑いましたけど(笑)。

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    演出上マッチするなら、かつてのトレードマークである大きなリボンもつける。「理由があれば、ビジュアルにそこまでこだわりはないんです。でも年相応ってあるから」。 / Via youtube.com

    ――何か作ったり、新しいことをやる時って、他人の評価が気になるし、ブレてないかと心配にると思うんですけど、きゃりーさんはそういう懸念はないんですか?

    何をやっても賛否両論って起きるんですよね。今がいいと言ってくれる人もいれば、前の方が良かったという人もいる。周りの評価って自分が意図しない方向に行くし、そういうのに負けないように、他人に何を言われても「自分は今これをやりたい」っていうスタンスでいようと思いました。

    でもブレてないか心配になったときは身近な人に相談しますね。そういう冷静さは大事(笑)。

    今、私がニコ生やってたこともブログ書いてたことも知らない人も全然いて。それって、私がデビューしてから頑張ってきた証なんですよね。もちろん、ニコ生やっていてよかったって思うし、その過去も大切なんですけど。

    ――「自分が他人にどう見られるか」よりも、やってきたことだけを信じている……?

    今までやってきたこと、ニコ生も読モも音楽活動も、全部そうかもしれないです。自分に過剰な期待はなくて、楽しそうなことをやってみて考える。だから当初の予想に反して、10年きゃりーでいられたのかも。