「私はCD買ってないし、聴かない」水カン コムアイが、所属レーベルで語ったこと

    海外からも人気の高い水曜日のカンパネラ。「主演」をつとめるコムアイが、「ガラパゴス化」する日本について、喜々として語った。

    「私、CD買ってないから、最初CDを出すってなったときにプロデューサーと喧嘩しました」

    こんな発言を人気アーティストがサラッとする。独特のMVで人気を集める「水曜日のカンパネラ」のコムアイだ。

    新作EP「ガラパゴス」を6月27日にリリースするにあたって、所属するワーナーミュージックで「公開取材」を決行した。

    「いい取材があっても、決まった媒体にしか載らないのが悔しくて」と、CDを売ってきた会社で、その意図を語る。

    CDを出すっていうのが、ガラパゴス

    「”ガラパゴス”という言葉は、自分の育った環境や文化を表すのに一番適した言葉だと思っています」

    比喩のもとになっているガラパゴス諸島は、大陸から離れた位置にある閉鎖環境だったために、独自の生態系が発達した。

    「日本の国の中で好きじゃないことはいっぱいあるけれど、この島がすごく好き」

    タイトルに比喩を使うきっかけになったのは、上のInstagramの投稿だ。海外フェスに多く出演した1年を過ごし、「自分を育てたもの、取り囲む日本という環境はすごいところなんだと思うことが多かった」と語る。

    ガラパゴス的なものごとのひとつとして、CD販売について言及したのが冒頭のコメントだ。水曜日のカンパネラで初めてCDを制作するときに、コムアイは反対したそうだ。


    「極力、力を入れない方向で」

    一応、プロデューサーに「まだCDも売れるから」と説得されて今に至る。ただ、「超頑張らない、予算をかけない方向に行きました」とバッサリ。

    「CD出していいのか今だにわからないですね。プラスチックっていうモノは好きなんですけれど」

    音楽活動をはじめたときからCDを聴いていなかったコムアイ。「私、MacBook Air使ってるから、CDを何で再生したらいいんだろう?って」と、BuzzFeedの取材に答えたくらいだ。すでにiTunesもYouTubeもある時代だった。

    歌詞は、ネットで見てください

    『ガラパゴス』には、歌詞が書かれたブックレットがない。QRコードだけ記載があり、Webサイトで見られる仕組みになっている。

    「iPhoneのカメラでQRコード読めるじゃないですか、今」

    楽曲制作を担当する、同グループのケンモチヒデフミも「僕もほとんどCD聴かなくなっちゃんたんですけど」と前置きしながらフォローを入れる。

    「日本は独特な土地柄っていうのもあって、SpotifyとかApple Music自体を知らない人も多い。だから、切り捨てちゃうのももったいないと思って、今は選択肢を持とうかなと」

    ガラパゴスとしての、プリクラ、ギャル文字。「最高だなって思う」

    「ガラケー」に代表されるように、一般的に「ガラパゴス」が比喩で使われる際は、批判的な意味が多い。

    「学校ってガラパゴスですよね、似た環境で育って、いろんなことがすぐに共有できて楽しいけれど、『おかしいよ!』って言う人がいないと、エクストリームな事件が起きても『なかったこと』になっちゃう。それが東京とか日本とかの規模でも起きてる気がする」

    しかし、コムアイは先述の通り「嫌いなところもあるし、好きなところもある」と言う。

    「閉鎖された学校っていう空間だから生まれるものもありますよね、ギャル文字とか。それもすごい好き。能とかひらがなが生まれるのと同じだと思う」

    だからこそ、『ガラパゴス』のアートワークには、「ギャル文字と梵字」を混ぜたタイポグラフィーを採用した。真ん中にある小さな写真は、プリクラを模している。

    日本のマーケットで、マスの成功は厳しい

    コムアイは、「今回、英語で歌詞を書きたかったけど、できなくて…皮肉ですよね」と自身のガラパゴス具合を語る。SpotifyやYouTubeでは、アメリカ、台湾、シンガポール、フランス……さまざまな国で聴かれる。

    海外フェスに出ることが多い水曜日のカンパネラのリスナーには、英語の方が届きやすい場合が多い。同時に、日本市場を意識した制作と、自分たちがやりたいことを両立するのは厳しいと分析する。

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    モンゴルで撮影したMV『メロス』

    「日本が嫌だっていうより……私たちは、業界ウケはする方だと思うんですけど、日本でマーケットを掴むのって難しいと思っていて」

    「自分たちと同じ種類の人間を、他の国で見つけてマーケットを横に増やしていくしかないなって思っています。相性のいいところを、いろんな国で増やしていく」

    「自分だけしかできないことができない」

    大きな転機になったのは、昨年3月に開催した「水曜日のカンパネラ 日本武道館公演~八角宇宙~」だ。

    デビューしてからの集大成だったが、ライブ映像を見直して「このままだと、自分だけしかできないことができないって思って、車線変更みたいなことをした」と言う。

    路線を乗り換え、海外活動を本格的に増やしたのが2017年の水曜日のカンパネラだった。海外アーティストや、アウェイの場所に揉まれ、原点に帰ったのだという。

    「人種によって、声の太さとかが全然違う。これまでは、前のめりな歌い方を目指していたけれど、デビュー曲を改めて聴いたら、自然にポーン!って声が出ていていいなと思ったんです」

    新作『ガラパゴス』は、これまでよりもBPMが低めなチルアウトを意識した楽曲が多い。はじめて「人名縛りタイトル」をやめた『愛しいものたちへ』、『キイロのうた』なども収録している。

    人生経験にって思って、3股してみた

    海外でのライブはもちろんのこと、コムアイ自身も大きな変化があったと語る。

    「ちょうど『ピカソ』の歌をやってるときに3股をかけていたんで、自分の経験とまるかぶりしてました。Appleで流れなさそう、これ」

    『ガラパゴス』に収録されている『ピカソ』の製作時の話を、Appleのドキュメンタリーであっけらかんと明かしている(英語字幕もつき、全世界に配信されている)。

    おそらく、楽曲中の「ひとつに Oh baby 選べない 角が立つんだよね」という歌詞に自分を重ねたのだろう。

    公開取材時もこの点について触れ、「人生経験として、3股をかけてみようと思った」と言う。

    「いろいろ試していて、浮気をするとか、浮気ではなく、ちゃんと状況は全部伝えて同時に付き合うこともあったんですけど、うまくいくときもあって。それはびっくりなんですけど、悲しみを感じる時があって、やめました」

    独占でこっそり話を聞くと「3人共すごく好きだったけれど、フェアじゃなかったし、心の中でどこかひっかかっているのもダメだと思った」と、笑いながら教えてくれた。

    「仕事が、自分の赤ちゃんのように感じられてしまうと、心の余裕が足りない。みんなのことは、すごく大好きだったけれど、バランスが崩れていく。大好きだけれど、うまくお別れするためにはどういう風に考えればいいんだろう?」

    その「答え」は、高校生の時に聞いた話にあった。

    「人は惑星だと思えばいい。人は惑うように生きているからぴったりだと思って」

    「惑星って、軌道があるから動きは決まってる。人と人が出会うのは、軌道がクロスする瞬間。離れたとしても、一回重なったってことは、結構近くにいるからきっとまたどこかで会えると思うことにしたんです。再会できるのは、80歳になってからかもしれないし、死んだ後かもしれないけれど」

    久しぶりに作詞した歌に、その「答え」を載せた。それが、『ガラパゴス』のラストをかざる『キイロのうた』だ。

    「大事な仕事とか人とか。何かに固執している人が、それを手放せるようにと思って。これを聴き終わって、余韻を楽しんでもらえたらな」

    例えば、「人名縛り」で目立った成功体験も、CDも、恋愛も、いろいろなものを大事にして手放せなくなる。そんな風に「ガラパゴス」的な状況に陥ることもあるだろう。

    それを捨ててもいいし、肯定するもいい。状況を客観視すると、もうちょっと自由になるのかもしれない。それが、このアルバムなのだろう。『キイロのうた』で、コムアイはこう歌う。

    何万年かまた先で

    惑星の軌道がまた重なる

    また違う姿で

    違う匂いで

    気が付かなくとも

    境界線はまた揺らぐ
    あなたが振り返るたび
    葉が透けて届く光のように
    そこらかしこに