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iPhone SEが示す「終わり」――特別な場での宣言

偉大な創造主を失った船は、静かに沈んでいくのだろうか

iPhone SEは終わりを告げる端末かもしれない。

iPhoneが誕生してから9年が経ち、私たちの生活は激変した。現在の日常において、Appleが作り上げた部分は少なくない。だからこそ多くの人が毎回発表会に一喜一憂するのだろう。

「次はどんな革新をもたらしてくれるのだろうか?」そんな期待をもって。

しかし、今回発表されたのは3年前に発売された5sのボディに、昨年の6sの機能を盛り込んだ端末。既視感――それは、Appleが最も恐れていたものではないか。

市場を見るのを嫌ったスティーブ・ジョブズ

「消費者に、何が欲しいかを聞いてそれを与えるだけではいけない。完成するころには、彼らは新しいものを欲しがるだろう」

ジョブズはかつてこう言った。市場を見ているだけでは、想像を越える発明品を生み出せない。iMac、iPod、iPhone…私たちは一目見た瞬間、その革新性に驚いた。

しかし、iPhone SEは市場に寄り添って生まれたプロダクトだ。事実、Appleは発表会でこのように端末を紹介している。

「おそらく多くの人にとって、最初のiPhoneは4インチでした。初めての体験がこのサイズ。中国では、その比率はさらに高いです。そのためか、多くのユーザーは、小さい電話……コンパクトなiPhoneが好きです」

前述のジョブズの言葉をまるで否定しているのだ。彼が亡くなってもうすぐ5年が経つ。誰もがスマートフォンを持ち、発信者になるのが「普通に」なった今、Appleは岐路に立っているのかもしれない。

また一方で、スマートフォン市場は、巨大化の一途だった。バッテリーが長持ちし、電子書籍は読みやすい。動画もワイドに楽しめる。

大は小を兼ねると言わんばかりに、よりハイスペックに、より大きく進化を遂げたスマートフォン。しかし、いつしか賢くなりすぎて、大切なことを置いてきてしまったのかもしれない。モノとしての使いやすさだ。

一石を投じた、名コピー「Think small.」

この流れにとても似ている事例がある。

1950年代、モータリゼーションが進むアメリカ社会において、自動車メーカーは毎年秋頃に新製品を出す「モデルイヤー」制を採用していた。計画的に、モデルチェンジを繰り返すことでユーザーの購買意欲を刺激した。

ここに一石を投じたのが、フォルクスワーゲンの「Think small.」だった。日本語に翻訳すると、「小さいことの価値を考えてみよう」、「堅実な考え方をしよう」といった意味になる。この広告は、商品ポスターという枠を超え、多くの人に気づきを与えたそうだ。第二次世界大戦後、欲望のままに突き進んだ社会に異議を唱えたのだ。

話を戻そう。iPhone SEはスマートフォン市場の流れから降りた。もちろん最新技術はユーザーを想って搭載されるものだ。しかしながら、私たちはそれを本当に望んでいるのだろうか? 自分の胸に手をあてて考えてみると、本当に欲しいものは案外シンプルなことだったんだと気づく。安く買いたい、長く使いたい……。派手な刷新だけを求めていては、見失う何かがある。

高度に賢くなった端末を好む層もいれば、普段の使いやすさを求める人もいる。AppleはiPhoneを生み出して9年目にして、スマートフォンにひとつの臨界点を見たのだろう。それは、スマートフォンがかつての自動車のように普及しきったことを意味する。

iPhone SEの発表会の場で、ジョブズが打ち出した「Think different.」

今回の発表会が開かれた場所は、Apple社内の小さなホールだ。ここはジョブズが同社に復帰した際、従業員向けにプレゼンテーションをした場所でもある。それが有名な広告キャンペーン「Think different.」である。

1997年の広告キャンペーンで使われたスローガン。いまAppleに必要なのはこの哲学だと、従業員の前でプレゼンテーションした。

「物事を異なる視点で見る人は、ルールを嫌い、現状を肯定しない。そんな人たちを批判、賞賛、中傷することは簡単だ。しかし、彼らを無視することだけはできない。なぜなら、彼らは発明をし、探求し、創造する。そして、世界を変え、人類を発展させるからだ」

そんなメッセージがこのキャンペーンには込められている。その後、Appleはプロダクトを生みだすことで、文字通り人類を発展させてきた。

その中で、私たちに最も近い存在がきっとスマートフォンiPhoneだった。

ただ、前進するだけの時代は終わった。もう一歩深く考えるときが来ている。私たちの価値観やライフスタイルはこの9年間で大きく変わった。以前とは違ったように世界を見るようになってきた。

現在Appleを率いるティム・クックは自らがCEOに指名されたときのことを、クーリエのインタビューで振り返った。

スティーブが『これからは君がすべての決定を下す』と言うので、『待ってください。質問があります』と言いました。それから何かスティーブを刺激できる質問はないかと考え、こう言いました。『それでは私が広告の案を見て気に入ったら、あなたの了承なしで進めていいんですか?』。

すると彼は笑って、『まあ、尋ねるくらいはしてほしいな』と言いました。

ティム・クックはこれまでとは違う歩みを進めることを、プロダクトをもって宣言したのだ。Think different.が打ち出されたこの会場で。


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