コピペが氾濫する今、オリジナリティーはどうやって生み出されるのか?パクり騒動に揺れたジャズトリオに聞く

    ピアノのH ZETT M、アコースティックベースのH ZETT NIRE、ドラムのH ZETT KOUの3人で構成されるピアノトリオ・バンド、H ZETTRIO。リオ五輪閉会式で安倍首相が登場するシーンで流れた『Neo Japanesque』『Get Happy! (Beautiful Mix)』で話題をかっさらった。一部では、2015年に解散したPE'Zのメンバーたちで結成されたと言われており、その情報が正しければ、彼らのキャリアは20年ほどになる。


    「このCM曲はあなたが作ったものではないですか?」

    そう言われて驚いた。そんな覚えがないからだ。YouTubeで確認して見ると確かに自分たちが過去にリリースしたものにそっくりだ。

    ピアノのH ZETT M、アコースティックベースのH ZETT NIRE、ドラムのH ZETT KOUの3人で構成されるピアノトリオ・バンド、H ZETTRIO。リオ五輪閉会式で安倍首相が登場するシーンで流れた『Neo Japanesque』『Get Happy! (Beautiful Mix)』で話題をかっさらった。

    一部では、2015年に解散したPE'Zのメンバーたちで結成されたと言われており、その情報が正しければ、彼らのキャリアは20年ほどになる。

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    「Neo Japanesque」 / Via youtube.com

    もともとはストリートで演奏を披露してきた彼らの軌跡は、時代の過渡期とともにあった。CDからダウンロード、YouTubeやサブスクリプションへと流通が変化した。音楽体験そのものが変わる中で、不本意ながら彼らが直面したのが冒頭の酷似問題だった。一方で「ネットのサイクルの速さは自分たちに適している」と言うほどに、恩恵に預かっている部分もある。

    ストリート磨いたジャズの刀は、ネットの世界でどう鞘を抜くのか?

    音楽のコピペはバレる


    ──みなさんはCMソングもたくさん作られているわけですが、数年前に話題になったのは某車メーカーのCMで酷似している楽曲が使用されたこと。「著作権を支払いたくないから劣化コピーのような楽曲をCMで使っているのではないか」との意見まで飛び交いました。

    M:そうですね。僕たちも驚いたんです。

    KOU:ファンの方に「すごく似てませんか?」と言われて発覚しました。思わず、二度聴きしちゃった。

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    「Dancing in the mood」。この曲に酷似した楽曲がCMに使用されていた。 / Via youtube.com

    ──真似された楽曲って、一瞬でわかるものなのでしょうか?

    M:音の構成でわかりますね。例えば、和音やメロディーがどこに向かおうとしているかって、ある程度分析できるもので、その要素を分解すると、移行の展開が完全に同じだったりする。意識的に真似るものってやっぱりわかってしまうんですよね。

    KOU:中には「これってH ZETTRIOの曲ですよね?」という感じに、僕たちの楽曲だと勘違いしてしまう人もいて……。

    M:すごく困ったんです。僕らに頼んでいただければかっこいいものを作ったので……。

    ──それでツイートを。

    M:そうですね。実は僕、小さい頃から何かを真似されるのがすごく嫌いでして……見た目とかも。今だったら鼻に色つけたりしてますけど、真似されるのがすごく嫌。

    ただ、そういう時代になってきているとも感じました……コピペが氾濫している、というか。写真にしろ、音楽にしろ、何でも手軽に切り取ってできてしまうから。

    同時に、受け手側も目の前にあるものが本物であると疑わずに享受してしまう。

    ──リスペクトの欠如、みたいな?

    M:そうですね。コピペと似て非なるものが、ヒップホップでいうサンプリング。リスペクトした上で引用して、自分を乗せるものだと思うんですよね。同業者に許されるラインを前提に。

    ──サンプリングのカルチャーとパクリの線引きってどこにあると思いますか?

    M:答えるのが難しいですね。品かな……もはや……。

    KOU:リスペクトを感じるような態度があれば、大歓迎なんですけど。

    ──過去に自分が見聞きしたものが血肉となっていて、無意識のうちに似たものができてしまう可能性もありますよね。

    M:極論になりますけど、100%オリジナルってもはや存在しないんじゃないか、みたいなね。確かにそう。

    でも影響を受けてきたものを、自分なりに消化できているのか。たとえ何かに影響されたとしても、堂々と自分が作りましたって言えるか。誰かに「それってパクリじゃないの?」と聞かれたときに、毅然としていられるか。こういうところに落ち着く気がします。

    ──確かCM動画がYouTubeから落とされたんですよね。謝罪はあったのでしょうか?

    M:いや何も、ないです。 そうですね。数年後に別件で会長が逮捕されていて。すごい結末だなと。

    NIRE:僕たち関係はないんですけれどね(笑)

    KOU:当日あまりにも問い合わせが多かったので、事務所側からその該当側に連絡してもらったんですけど、「これはオリジナルです」とか、「作った人はこの人です」みたいな個人の責任転換的な話になってきたので、もう止めておこう。って話にしました。

    ライブ中の子供たちの声。あれは…

    ──H ZETTRIOのみなさんは、ライブをこなしながら新曲を毎月リリースしていて、ネタ切れになることってないんでしょうか? 燃え尽きるというか。

    M:ない……ってことにしておきましょう。僕たちの場合は、ライブでアイディアを得ることも多い。ライブをやっていると作れちゃうっていうのが適切かも。できている。

    KOU:とりあえず曲を作って、リリースして、ライブを重ねていくうちにアレンジが変わっていくことも多いんですよ。お客さんの反応を見て。

    NIRE:ステージ上で譜面通りに演奏するのも素晴らしいと思うんですけど、僕らはそっち寄りではない。きっちり決まったものだと、「間違えたらどうしよう」っていう心配が大きくなる。けれど、僕たちの場合はライブ中のミスが後で録音を聴くと、想像以上にかっこよかったりする。

    ──ミスを楽しめるようになったきっかけはありますか? 普通、失敗って怖いものだと思うので。

    NIRE:いつだったか……。野外のライブのときに豪雨になったことがあったんです。あれはすごく印象に残ってますね。

    M:雨に打たれると楽器は危険ですからね。

    NIRE:ビニールシートを楽器やキーボードにかけたりして。でも、豪雨だからどんどん水が溜まっていくんですよ。それがビシャっと飛び散ったり。

    そのときに、キーボードのパートから、次の構成にいくときかな……。メロディーに入ったときに急にブレイクが入った。豪雨の中でこちらもハラハラしつつも、お客さんの反応にも合わせて、生まれたものなんですけど……。通常だったら絶対にそこではブレイクはいれないんです。譜面的には。でも、それが3人の中でも意外なほどバシッと決まって。次のライブからその型でやろうと決めました。ミスから生まれたアレンジが最高だった。

    その後、普段ジャズを聴かなそうなおじさんが僕たちのところにやってきてくれて「雷に打たれたみたいな衝撃を受けた」って褒めてくれたんですよ。

    M:本来豪雨の中で演奏するのは楽器的にだめなことなんですからね。豪雨の中で演奏するのも、譜面にはないブレイクを入れるのはいいとしても。

    NIRE:それからすごい楽しくなったんですよね。何が起きても楽しい。別に起きなくても楽しい。なんでも楽しくなっちゃうみたいな。あ、でも……これはストリートでライブをやっていたときから、あるかもしれない。

    M:そうですね。音楽はコミュニケーションというか、音を出して響き合って、変容していくのが面白いんじゃないかなって。何をやってもいいのが音楽だと思っているんですよ。究極的に言うとジョン・ケージという音楽家の「4分33秒」みたいな。

    ──4分33秒の間、演奏者は何もしないという。

    M:そう。あれは、ただ無音だという話ではなく、4分33秒の間に聞こえるすべてが音楽なんだっていう作品ですよね。鼓動とか、息遣いとか、衣服が擦れる音とか。だから僕は、小さな子供が叫んだりするのも音楽だなってよく思ったりする。

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    「晴天 - Hale Sola -_Mysterious Superheroes Tour Final 2018 ~濃縮還元遊戯舞台~」 / Via youtube.com

    ──ライブには子供たちも多く来ますもんね。観客の層が幅広い。

    M:子供たちが僕らの演奏中に叫ぶのも音楽だって思うんですよね。小さい子の声や泣き声ってすごく音楽的。大人とは違う響きというか。音に作用する感じがある時が僕は好き。

    ──2時間座っていられなくて、席から立ってしまう子がいても、気が散ったりはしないんでしょうか?

    NIRE:まぁ……僕たちもライブ中にステージ上を駆け回ってますからね。

    M:ピアノ弾きながらでも。

    NIRE:ハプニングに病みつきになってるところってあると思います。僕たちは、本当にいろんな場所でライブをするんですけど、お寺とか世界遺産とか。もともとそういった場所は演奏するために作られてないし、小さいモニターを置いて…となると音が割れることもある。

    M:その場に置いてある鍵盤を使おうと思ったら調律が狂ってたり。ハプニングや偶然性は友だちというか。それを面白くできる可能性が音楽にはあると思うんですよね。

    ──偶然を楽しまれていて素敵だと思いつつ、3人の中で衝突って起きないのでしょうか? アレンジの方向性が違う、とか。

    M:3人ではないです。

    ──地雷を……。

    M:……でも、まぁ、衝突するまでいかないぐらいの意見交換はあります。いいものを作りたいときに、各々が目指す理想って違かったりするので。

    NIRE:それが偶然性を生んだりもしますからね。思ったよりよかった、みたいな。

    KOU:Mさんの舵取りのうまさはあるんじゃないかな? リーダーシップみたいなのはありつつ、だいたいウェルカムな感じ。

    M:H ZETTRIOって遊びみたいな部分が大きいので、ゆるくやった方が合ってるんですよね。さっきの偶然性の話に戻りますけど、ライブ中も結構遊んでその場でアレンジしたりしていて。

    ライブ中に?

    NIRE:ですね。ちょっと試してみようっていう。やってみて、あれが良かったから次もやろう。違うと思ったら次は別のことを。演奏中にちょっとずつ試してみて、積み重ねていく。2人の瞬発力が高いので、遊んでもカバーしてもらえるんですよ。

    M:めちゃくちゃ新しいことをやろうってわけじゃなくて。反復横跳びみたいに小刻みに動き続ける感じ。

    KOU:だからいつも、曲を作ったら早く聴かせたいんですよね。ライブツアーと制作を並行するっていうか。

    NIRE:レコーディングも早くて、ほとんどが一発録り。早くリリースして反応を見たい。

    だから、現代のスピード感は僕たちにすごく合ってるんですよ。スマホ感というか。速いサイクルで出して、呼応して、作っていくって感じ。毎月、新曲を配信できる環境になったのはありがたいですね。配信だと曲だけをパンって出せるから。

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    12ヶ月連続で新曲を配信リリースしているH ZETTRIO。 / Via youtube.com

    ──リオ五輪閉会式の曲もそんな感じだったんでしょうか?

    NIRE:あれも、別にそれ用に作ったわけじゃなくて、直前に連絡が来た感じだったので……。

    KOU:「本当に使われるんだろうか?」と思って、閉会式を見ていたら、本当に流れた(笑)。あんまり実感はなかったです。

    NIRE:売れるとか売れないとか。失敗とか成功とかはあまり考えてなくて、奇跡みたいなことが起きるといいなっていう気持ち。思いもよらないことが起きるというのは楽しいと思うんです。

    M:勇気は特にいらないです。

    NIRE:やるぞっていう気持ちで十分だと思うんですよね……。何かを生み出すために必要なのは。


    H ZETTRIO 全国TOUR 2019 – 気分上々 –

    8/23(Fri) 東京 かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール
    9/14(Sat) 山口 シンフォニア岩国 コンサートホール
    9/21(Sat.) 網走 オホーツク・文化交流センター
    9/23(Mon) 小樽 GOLD STONE
    9/28(Sat) 神奈川 ハーモニーホール座間 大ホール
    10/5(Sat) 香川 香川県教育会館 ミューズホール
    10/12(Sat) 石川 石川県文教会館
    10/20(Sun) 広島 広島市南区文化センター
    10/26(Sat) 新潟 新潟市秋葉区文化会館
    11/4(Mon) 宮崎 宮崎市清武文化会館 半九ホール
    11/9(Sat) 静岡 富士市文化会館ロゼシアター 中ホール
    11/10(Sun) 長野 ホテルメルパルク長野 メルパルクホール
    11/16(Sat) 宮城 仙台銀行ホール イズミティ21 
    11/23(Sat),24(Sun) 札幌 道新ホール
    11/27(Wed) 秋田 秋田県児童文化会館みらいあ・けやきシアター
    11/29(Fri) 愛知 青少年文化センター
    12/6(Fri),7(Sat) 福岡 都久志会館
    12/8(Sun) 三重 川越町あいあいホール
    12/14(Sat) 東京 立川市民会館
    12/21(Sat),22(Sun) 大阪 メルパルクホール