公園で絵を描いていたら人生が変わった話。人気イラストレーターの数奇な人生

    アパレル、ミュージシャン、化粧品……さまざまな場所で起用される人気イラストレーターchocomooさん。彼女はiPad Proを片手に現れた。

    EXILEやAIなどの人気アーティスト、森永DARSのパッケージ、LINEやiMessageのスタンプ…最近では韓国をはじめアジアでも活動している人気イラストレーターだ。

    アメリカのポップアートを思わせながらも、白と黒で織りなす作風は、世界中から熱い視線を注がれる。

    しかし彼女は美大卒でもなく、デザインの経験があったわけでもない。ただ、夢を諦めていた。

    「美大や専門学校へは行きませんでした。もともとトリマーだったんです」

    「絵を仕事にするっていう選択肢はなかった。というか発想がなかった」と話すchocomooさんは、もともとトリマーだった。

    「犬が好きだったので、専門学校を出て資格を取ったんですけど、就職先で猫も来たんですね。その場で猫アレルギーだったことが発覚して、働けなくなってしまったんです」

    しかし、仕事をやめてから、友人と旅行で行ったニューヨークで思わぬ出会いを果たす。

    突然、生まれた夢

    「公園でスケッチブックとマジックを持って絵を描いていたんです。落書きみたいな感じで、本当に気ままに。その絵を見たギャラリストの方が『うちで絵を展示してみる?』と誘ってくれて…」

    遊び感覚でギャラリーに展示した"その絵"に買い手がついた。ここから彼女のキャリアがスタートする。

    「絵が売れる文化があるってことを初めて知ったんです。仕事にできるんだ!って」と、目を輝かせながら話す。彼女は、そんなニューヨークに惚れ込み、何度も足を運ぶようになる。

    運命の絵は、さらに彼女を遠くへ導いていく。

    「ニューヨークで描いた絵をブログに載せていたら、アパレルブランドから声をかけてもらってTシャツを作ったんです。それを偶然見た歌手のAIさんから『ツアーグッズを一緒に作ろう』とオファーをいただきました」

    chocomooさんにとって、初めて本格的に仕事をした相手が人気歌手だった。そのとき2008年。まだTwitterもInstagramもない時代だ。

    不安はなかったのだろうか?

    「能天気だから、あまり(笑)。ファッションも好きだったので、最初は地元の服屋で働きながら、かけ持ちでイラストのお仕事をはじめたんです。少しずつ絵の方が増えていき、本業にしました」

    自分でコラボレーションを持ち込むこともあった。

    「原宿を歩いていたら『こことコラボしたい!』と思うお店があったので、検索してメールを送ってみました。偶然、ブランドの方が私のイラストをご存知だったので、その日に電話で仕事が決まることもありました」

    chocomooさんの絵はスケッチブックを飛び出し、ファッションをもキャンバスにしたのだ。大ファンだというファレル・ウィリアムスも彼女のデザインを愛用している。

    夢がかなったきっかけはTwitterのDM

    @YukaChocomoo 私も本当に大好きダース!!!!もしよろしければフォローをして頂けたら超絶嬉しいダース!!!!!!

    それはある日突然にやってきた。森永チョコレートからTwitterで話しかけられ、DMが届いたのだ。

    「私の名前はチョコレートの飲料から来ているので、いつかチョコレートとコラボしたいなって思っていたんです。2016年の目標として手帳に書いていたから、『キタ!』という感じでした」

    数ある"コラボ"をどうやってさばくのか?

    chocomooさんはアパレルやアーティストのコラボグッズだけでなく、海外のアートフェスに出展したり、LINEやiMessageのスタンプも販売する。

    彼女の作品はすべて「黒ペンでの一発描き」だ。そのスタンスはずっと崩していない。かつては、黒いペンとノートを大量に抱えて仕事をしていたが、今では、iPad Proをメインに仕事をこなす。

    「手を画面について、紙にペンで描いている感覚なんです。力をいれると筆圧が濃くなって、ゆるくすると優しい線になる。自分の温度感が伝わる。昔、ペンタブレットを使おうとしたのですが、『紙に描く』行為とは全く別物で…」

    Keiya Nakahara / BuzzFeed

    頭に浮かぶイメージはいつもモノクロ。これは、7歳から約10年間続けた書道の影響があると分析する。祖父は着物絵を描いていたため、「おじいちゃんの家には筆がたくさんあった」そうだ。

    モノクロというスタイルは絶対に崩さない。さまざまなコラボレーションをする上で大事なことだという。これが自分の作風だと気がつくまでは、クライアントの要望と自分の作風との間で葛藤することもあった。

    自分のスタイルに気がつけたのは、AIさんとのコラボがきっかけだった。「この子とやりたい」と指名を受けたからだ。

    「指名してくださっているのだから、私も自分のスタイルを作らなきゃって。交渉もして、カラーをつけてと言われたら断る。お互いにリスペクトがあれば交渉も楽しいですよ。好きな人に会いたい、コラボしたいと強く思いながら、続けると、たどり着くものがあるんじゃないかなぁって」

    アパレル、書道の経験。すべてがニューヨークでの落書きに結びついた。絵はどこまでも彼女を連れて行く。大人になってから夢をみつけてもいい。そんな可能性と一緒に。