
まさか、触られている? 大学に行く途中、混み合う電車の中でお尻のあたりに違和感を感じた。
「手が当たってるだけかな、にしては触れてるってよりかは当たりにきてる、という感覚で割とぴったりとくっついてる感じ。その時点では怖くて手の主の顔が見れませんでした」
そう語るのは、大阪に住むOさんだ。10年前、19歳のときに痴漢被害にあった。
女性が被害者となる痴漢や強制わいせつ罪などはたびたび話題になるが、男性が被害にあう場合もある。
総務省によると、2016年(1〜12月)における男性の強制わいせつの被害者数は247名にのぼる。これは警察等の捜査機関が認知した数字なので、本来はもっと多いだろう。
だらりとたれる冷や汗と、硬直する体。犯人は…
当初、Oさんはまさか自分がこのような目にあうとは思っておらず、勘違いかとも思った。しかし……
「違う駅に着いても離れる気配がなくて、徐々に手も弄るようにゆっくり動いてきてるので段々怖くなってきて、冷や汗も出てきました」

違和感、恐怖、気持ちの悪さ……べっとりとした感覚とともに、手の主を恐る恐る見ると、そこにいたのは「綺麗めなおばさま」だった。しかし、ハッキリと顔を見るまでには至らなかった。見れなかったのだ。
「大きな駅にまもなく到着するというときにその手が急に早く動き出し、お尻から股間の方まで弄るように触られて、頭が真っ白になりました。喉もカラカラでした」
声だして制止してもよかったかもしれない。しかし、「男の自分はなんて声を上げれば良いかもわからなかった」。
下車駅についたとき、乗客の雪崩に身を任せて電車から降りた。犯人を追う――そんなことは考えられなかった。

ただ泣き寝入りするしかなかった。でも…
痴漢やレイプにあい、抵抗できなかったという女性の話はよく耳にする。理不尽な意見として「なぜ抗わなかったのか?」と聞いてくる人も少なからずいる。
「単純にイレギュラーな事が起きた時、恐怖心があるととっさに行動できなかったり思考が働かなくなるものなんだ」。当時大学生だった彼は身をもって理解したという。
彼は極めて淡々と話す。
「その瞬間は非常に怖かった記憶があります。でも、その後すぐに話のネタになりそうだなーくらいにしか考えてませんでしたし、実際に今でも呑みの席で話したり、ツイッターに書き込むくらいの話なので、その事件が自分にとって深刻だとは思ってません」
良くも悪くも「こういうことは現実にあるんだ」と新鮮な驚きがあったのだろう。Oさんは、こうも語る。
「男性被害をあまり聞かないのは、ネタにしてしまう側面があるからかもしれません。でも、同じ被害に合ったとしても、ネタ化して気を紛らわすことができずに、ずっと心に傷が付いたままになる人もいると思います」

警視庁のサイトには、痴漢に遭遇した際に「とるべき行動」が紹介されている。
- 嫌悪感の意思表示
- その場を離れる
- 触っている手を捕まえる
- 警察・駅員に訴え出る
少しの知識でも、頭に入れておくだけで冷静さを持てるかもしれない。
なお、ロイターによると、6月2日に性犯罪の刑法改正案が衆院本会議で審議入りした。改正案には、女性に限定されている強姦罪の被害者に男性も追加。性交類似行為も厳罰の対象となる。もし成立すれば、明治時代以来の改定となるという。
痴漢について語られるとき、「被害を恐れる女性」、「冤罪を恐れる男性」という構図を多く見る。しかし、問題はもっと複雑だ。男性が被害にあう可能性はゼロではないし、その逆もあるだろう。
痴漢行為の被害者、加害者に性別は関係ないのだ。