恋愛のやり方、覚えてますか?
この質問を投げられたとき、明快な答えを用意できている人は、どれくらいいるのだろう。「もっとやるべきことあるでしょう」と切り捨ててもいいかもしれない。
本当にそうだろうか? 確かに「若者の恋愛離れ」と言われて久しい。しかし、明治安田生活福祉研究所の調査によると、恋愛に消極派(草食系)の男女の8割は、「恋人がいる友人が羨ましい」と答えている。
やり方がわからない。これが、恋愛離れの一因なのかもしれない。
例えば、こんな意見がある。
だからこそ、思うの。まずは、寝てしまえ、と。私は昔からこんな順序で行動してきたけど、自分はあながちまちがっていなかったなぁとさえ思います。
でも、こういうことを言うと、「会ってすぐ寝たら軽い女と思われる」って言う人がかならずいるのよね。私はこの考え方が大嫌い。
ここで言う「寝る」とは、言うまでもなくセックスだ。「付き合う前にセックスをする」という大胆な提案が綴られているのは、女優・杉本彩さんの著書『快楽至上主義』だ。

テレビに映る彼女は「恋と性愛の伝道師」と呼ばれるほどに、セクシーで強く、過激な面も見せる。自分に自信があるからこそ、そんな提案ができるのかもしれない。
「私は、自己肯定感が低かった」
女性向けセルフプレジャーアイテム「iroha」が開催したトークイベント『iroha presents〜ぶっ茶け会談〜』の場で、杉本さんは自身についてこう語った。あまりに意外だったので、イベント終了後に彼女に話を聞いた。
自己肯定感が低いのに、まともな恋愛なんてできるのだろうか?
簡単に自分の弱さを出せるんだったら、苦労なんてしない
――イベント中に「昔は自己肯定感が低かった」と語られたことに驚きました。凛として自立しているという印象があるので。
私は10代からモデル活動をしていたのですが、24のときに独立したんですね。その時は、自分に対する追い込みが強かったんだと思います。もっとやらないと誰にも認めてもらえないような気がしていたんでしょうね。
――誰かに頼る、ということはしなかったのでしょうか?
今でも「誰かに頼る」ことはないですね。「助け合う」ことはありますけど、一方的に「頼る」ことは絶対しません。
自己肯定感は、訓練でなんとかなるんですね。信頼できる人との出会いや自分が真剣に向き合った実績が、少しずつ自分を肯定してくれます。
自分の弱さや脆さ、愚かさをさらけ出せる人と出会えたのは、大きいですね。
――難しそうです。
簡単に自分の弱さを出せるんだったら苦労しないですよね(笑)。じわじわと時間をかけて、「この人は受け止めてくれるんだな。でも、どこまで受け止めてくれるんだろう」って探っていくのが、恋愛だと思いますよ。結構エネルギーと時間のいる作業でした。
セックスもそうでしょう? 愛して信頼している人じゃないと羞恥心は乗り越えられない。セックスは肉体だけでなく、心を交わらせる究極の行為。誰とでも最高のものができるとは思いません。心から信頼できる特別な相手のみ、心も体も満たされるセックスができると思います。
付き合う前に、寝たっていい。その真意
――『快楽至上主義』では、「相手のことをわかりたいなら、寝てから吟味した方がいい」と綴られていて、衝撃を受けました。例えば、やっぱり少しは積極的にならないとその境地にたどり着けないのでしょうか?
「さぁ、付き合いましょう」と言ってから、段取りを踏むようにベッドに入っていくっていうの変だなと思っているんです。もう少し本能的で野性的でいい。そういう衝動に駆られるくらい惹かれるものがあるってことだから。
相手に魅力を感じる点って、仕事への真摯な姿勢や邁進している姿、人生観だと思うんですよね。男女を超越したテーマから関係が深まるのが、自然なことなんじゃないかなって思うんです。
だから、いきなり「男女」という前提条件がある環境下で出会うのは実のところ苦手。もし、婚活イベントに行ったら「どうしよう」って逆に話せなくなってしまうと思います(笑)。
――意外です。
私、恋愛って基本的にマニュアルは存在しないと思うんです。始まり方も進み方も本当に人それぞれ。「恋愛はこういうものなんだ」と思ってない方がいいです。
例えば、我が家の場合、私が外でバリバリ働いて、夫が家の中を回してくれます。外から見ると私が強そうに見えるかもしれませんが、家の中ではガラッと反対になります。こういうパターンもあるわけですね。
――今の旦那さまとご結婚される前、「離婚を経験した結果、私には結婚が必要ないのだとわかった」と語られていましたよね。でも、再びご結婚されたのは何故でしょうか?
価値観を変えられてしまった……からではないでしょうか(笑)。
夫は自分の脆さを自然にさらけ出せる人なんです。その姿を見て「彼のように自分をもっと見せれば、もっと深く誰かと繋がれるんじゃないか? 信頼関係を構築していけるんじゃないか?」と感じる部分があったんです。自分の人生に力が入っていたと気づいて、少しずつ脱力できるようになってきました。
やっぱり、自分の心が持っていかれるのって想定外のことなんだと思います。予想外の展開とか、それまで知らなかった自分の内なる感情を知る、とか。予定調和な恋愛の進み方って、多分心に何も響かない。だから段取りのような流れに違和感を覚えるんでしょうね(笑)。
男社会で潰されそうになったことも多くある。だからといって、「男」を恨まない

――バリバリ働く女性の中には、男性社会の抑圧を感じる人もいます。若い時に独立されて、男性から潰されそうになったことはないのでしょうか?
そんなことは多々ありますよ(笑)。
――でも、そこで男性嫌いにならなかった……?
男性を一括りにしていないから「男嫌い」にはならなかったですね(笑)。もちろん、嫌いなジャンルの男もいっぱいいますよ。
でも、だからといって男性を恨むのは気の毒ですよ。私にはできない、男性だからこそできる役割や魅力がある方はたくさんいます。
苦手なジャンルの人とは徹底的に喧嘩をしてきましたけど、でも男性は基本的に可愛いものだなって思いますよ。そうね、女性にはない単純さみたいなもの。これは羨ましいくらい素敵な点ですね。
――昔から、そう思われていたのですか? 男性嫌いにはならず。
やっぱり大人になってからですね。昔はそういう単純さに苛立ちを感じたこともありました。でも、だからこそ、女の私にはできない、彼らができることってあるんですね。男には男のよさがある。彼らがいるから、私は女性として楽しく生きていける部分もあるんじゃないかな。そう思うようになりました。
――考え方の変化は、恋愛が大きかったのでしょうか?
恋愛に限ったことではありません。仕事も大きいです。
でも、私は本当に恋愛していなかった時期がないくらいの人生でして(笑)。ずっと自分の支えになってきた部分もありますし、自分を知るために必要なことでした。
恋愛が自分にさまざまな経験をさせてくれ、学びを与えてくれたことは確かです。かつて自己肯定感が低かった私が今こうしていられる……ってことを考えると、やっぱり人生の醍醐味じゃないですか? これは。
実は、『快楽至上主義』が書かれたのは10年以上も前のことだ。当時彼女は、蛇が似合う強い女のアイコンだった。
まもなく50歳を迎える杉本さんは、「今でも恋愛をしている」と、自然にいう。
まつ毛から指の先までしなやかで、奥ゆかしさすら感じる出で立ち。蛇が似合う頃より、一層麗しくなっていた。