「ラップバトルでメンタル持ち直した」
フィメール(女性)ラッパーのあっこゴリラ(@akko_happy_b)は、笑いながら話す。彼女は、CINDERELLA MCBATTLEで優勝した、初代「女性No.1ラッパー」だ。先日シングル『余裕』で”二度目”のメジャーデビューを果たし、注目を集める。
彼女はもともとバンドマンだった。その後に、ラッパーに転身した亜種でもある。バンドが解散した後、どん底状態だった彼女を救ったのがラップバトルだったというのだ。
無骨イメージの強いMCバトルで、繊細なメンタルは立て直せるものなのだろうか?
常に自分が「下」。潤滑油的にヘラヘラ自虐してた

――昔から、パワフルなキャラクターだったんですか? 強くないとラップできなさそうです。
いや、全然違います。自分がないタイプで、周りに流されてました。彼氏の言うままに、好きなファッションも変えるタイプでした。
小学校の高学年あたりから、女社会ができるじゃないですか。空気読んで「うんうん」っていう感じの。親の前でもそうで、母が新興宗教にハマっちゃってて。明らかにおかしいんだけど、顔色伺って一緒にセミナー行く、みたいな日々を送ってましたね。
――強烈。
何かに依存したくなる気持ちもわかる。今は、そういう理解ができてるようになって、いい感じに距離を持って接せられるようになったんですけど。

――親の呪縛みたいな?
そう。小さい時は、ただ従っていて。それから反発して。「あなたは間違ってる。私の人生が正しい」って思ってたんですよね。うまくやってるつもりでも、コンプレックスみたいに溜め込んでたんだと思います。
――何がきっかけで変わったんですか?
一番、大きいのはラップ。でも高校生の時にドラムをはじめて、初ライブの時にめちゃくちゃ暴れたっていうのも、きっかけかも。
シンバルぶっ倒して血が出るくらい暴れた。その時に初めて解放されたんです。
――そのときから、自己主張できるようになったってことですか?
やー……どうだろう(笑)。違うかも。
――どうして?
結局バンドも、自分を抑制する場所になったんですよね。
高校卒業して、すごい光る才能あるシンガーソングライターの子とバンドを組んだんです。彼女のカリスマ性で、すぐメジャーデビューしちゃうぐらい勢いもあった。
ただ、感覚としては常に自分が「下」。可愛いわけじゃないし、逸材でもない。身の程も知ってたから、カリスマ性のあるボーカルの顔色をいつも伺ってた。本当はハードな音楽が好きなんですけど、ラブソングとかバラードに合う音色を勉強して。
鬱憤は心に秘めて自虐に走ってました。いい感じに会話を回す潤滑油っていうか。自虐で笑いとらないと居場所がない気がしてた。自分を抑えないと「そこにいちゃいけない」。
――摩耗しそう。でも、そういう人多いですよね。
そう! 無理だ無理だってなって活動休止。それで解散。全部なくなっちゃったって。
――それで、ラップを?
ドラマー時代からストレス発散ではじめたんです(笑)。性格的に誰かに愚痴るのが無理で、溜め込んでたんですけど。リズムにのせて愚痴りだしたら、楽しいことがわかった。
「鎖国かな?」男ばかりのMCバトル
――ラップで愚痴れるようになった。
そう! とくにバンドが解散してからは、過度に人の目を気にしたり、病的に自分を抑えるのはもうやめようって思って。ラップって人前で自分を言語化してったり、足元見て、晒していく作業だから。罵倒するし怖そうな人も多いけど、私にとってはカウンセリングみたいなものだった。
――生計はどうやってたててたんですか?
なんでもやりました。芸能人の誕生日パーティーに呼ばれて、盛り上げ役として、フルーツ食べさせてあげることもありました。塩◯瞬さんとか。キャバクラでライブもしましたね。月20本くらいライブやってた。
――ラッパーって男社会ってイメージがあるのですが、怖そう……。
めちゃめちゃ怖かったですよ。初めて出たMCバトルは、女は私しかいなくて「鎖国かな?」って思ったし、いる人もイカつい人ばっかで「怖い!」ってなりました。リンチに遭いそうだし。不安すぎて3回吐いた(笑)。
でも、スッキリしたのか、目立てた。それからMCバトルに呼んでもらえるようになりました。
――怖い中で、結果を残す。
実際、やりやすいんです。女が少ないから、簡単に目立てた部分はありますね。逆に強みというか。
――逆に失敗とかは?
「MCバトル出たてあるある」で、気が強くなる(笑)。「誰でもかかってこいよ」みたいな気持ちになるし、上手く「言えたこと」の気持ちよさで舞い上がって、罵倒しすぎたり。
「フィメール(女性)、だいたい韻踏めない」と言われて

――バンド時代と全然違いますね。
180°違いますね。ラップは自分自身をさらけ出さないと、ダメなので。
でも、葛藤もある。エンタテイメントに徹するなら、お客さんが喜ぶであろう返しとかわかるんですよ。
例えば、「フィメールなのに韻踏んですごいね。フィメールだいたい韻踏めないから」って言われたりする。
こういうとき、韻を一生懸命考えて言い返すと盛り上がる。でも、同時にルールに乗っかるために自分に嘘ついてる感覚があったんですよね。ビートアプローチとか韻の数とかで価値が決まるのってなんか違う。
ルールとのジレンマがあったから、MCバトルはやめました。優勝して(笑)。
――かっこいい。
でも、男が多い中で目立ってるだけで「女性を代表」とか言われたりもして。なんかちょっと違うなぁって思います。実際、「女の子はラップすんなっていう男共fuck youだ」って言ってたりもするんですけど、別に「女をアゲていこう」っていう意図じゃない。性別に囚われなくてもいいって意味なんですよ。逆に、男性も「男らしさ」に縛られてるし。童貞ネタも全然面白くない。青二才って言えばいいのに。
……ラップ始める前はこういうこと全然言えなかったですけどね。超流されてたし、超媚びてた。彼氏に合わせて服変えてたし(笑)
――どんな服着てたんですか?
頭良さそうな感じ(笑) 「足が綺麗だからヒール履いた方がいいよ」って言われて「わかった! 履く!」みたいな。ドラム叩いてるのに、細身のパンツにヒール履いてました。クソださいですよね。人に合わせるのが自分だと思ってた。
そんな状態じゃラップはできないから。今は、ファッションとかメイクって思想と密接だと思ってるから、ブレないようにしてますね。

――「そんな格好だとモテないよ」って言われません?
そういう言葉自体が古くて。化石なの。モテるファッションが好きなら着れば良いし、自分が着たい服を堂々と着れば良い!たまに「女性でラッパーでやってるのは本当にすごい! モテようと思ってやってないじゃないですか」って言われるんですよ。(笑)でも実際、私はラップを始めてからの方がモテたし。自分に嘘がない状態でモテたときの気持ちよさは異常。
――でも、その状態にもっていくのって大変じゃないですか? 妬まれたりしそう。
私もずっと才能が欲しいって妬んでたから、わかる。ラップ始める前は「頑張っても認められない不条理な世の中!」って嘆いてたんですけど、それは間違いだった。
至らない自分も愛して楽しむこと。それは、自分の個性を受け止めること。つまり、自分が自分のキングになること。そしたら面白いくらい世界が変わった。
だから、再デビュー曲には『余裕』ってタイトルをつけたんです。まさか同じレーベルから2回もデビューするなんて思わなかった。人生なんか楽しむ。自虐するより、余裕って思った方がヘルシー。