「ツイート見てびっくり」の金正恩氏とトランプ氏の米朝首脳会談、板門店での最大の成果は「対話」そのものだった。

    トランプ大統領が「金正恩氏に会ってハローというかも」と大阪でツイートしたことで世界の注目を集めた。ツイートを見て驚いたという金正恩氏との間で実現した会談の意義とは。

    トランプ米大統領が板門店で金正恩氏と会談した。さらに米大統領として初めて、北側に足を踏み入れた。

    AFP=時事

    米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が6月30日、韓国と北朝鮮の境にある板門店で会談した。両者の会談は、これで3度目だ。

    トランプ氏は韓国側から、金正恩氏は北朝鮮側から、南北の境界線に歩み寄った。トランプ氏は現職の米国大統領として初めて北側に足を踏み入れ、金正恩氏と握手した。

    金正恩氏は「本日、トランプ大統領が北の地を踏んだ、史上初の大統領となった。この行動そのものだけを見るのではなく、トランプ大統領がこの境界線を越えたということを言い換えると、よからぬ過去を清算し新たな未来をつくるということでもあります」と語り、トランプ氏の行動を歓迎した。

    トランプ氏は「ここに来ることは想定していなかった。G20のために日本に来た。せっかくここに来たならば金委員長に会いたいと言った。いま境界線を越えたことは本当に光栄だ」と応じた。

    今回の始まりは、このツイートだった。

    After some very important meetings, including my meeting with President Xi of China, I will be leaving Japan for South Korea (with President Moon). While there, if Chairman Kim of North Korea sees this, I would meet him at the Border/DMZ just to shake his hand and say Hello(?)!

    トランプ氏はG20大阪サミットで来日していた6月29日、こうツイートした。

    「中国の習主席をはじめとするいくつかの重要な会合のあと、日本を離れて(文大統領とともに)韓国に向かう。そこでもし北朝鮮の金委員長がこれを見たなら、国境/非武装地帯で会って、握手してハローと言おう(?)!」

    世界中で、三度目の米朝首脳会談が行われるのではという憶測が拡がったのだ。

    金氏は「ツイートを見て驚いた」

    AFP=時事

    2人はともに境界線を韓国側に越え、韓国の施設「自由の家」で会談に入った。

    金正恩氏は「一部の人たちには大統領の親書を見ながら小さな合意があったのではないかと言っていますが、ツイートを見て本当に驚いたし、会いたいと言うことを昨日の午後に聞いた」と語った。

    トランプ
氏は「ソーシャルメディアで呼びかけを行い、もしいらっしゃらなければ、メディアに叩かれて私には気まずいことになっていたかもしれないが、お越し頂いた。心から感謝している」と応じた。

    ともに「SNS時代の新たな外交成果」という姿勢を取った。

    ただし、2人が語る経緯が本当に事実なのかどうかは、現段階で確認できない。

    トランプ氏が「会いたい」とツイートする前夜28日のG20夕食会で、米国のポンペオ国務長官の姿がなかった。この段階で外交やメディア関係者の間では「なにかが起きている」という憶測が飛び交っていた。

    そして、トランプ氏が南北の境界線周辺の非武装地帯(DMZ)を視察すること自体は、訪韓前からすでに決まっていた。

    トランプ氏も30日朝、「以前から計画されていたDMZ訪問を行う」とツイートしていた。

    今回の成果は「対話」そのものだ。

    AFP=時事

    今回の米朝双方の狙いと成果は、いずれも「対話の継続」をアピールすることだ。

    50分ほどの米朝首脳会談後、文在寅氏とともに会見したトランプ氏は、両国で実務者による交渉チームを設置することで合意した、と語った。また、金氏をホワイトハウスに招待したという。

    そのうえで「(交渉の)スピードを重視するつもりはない。正しい道を歩みたい」と語った。すぐに成果が上がらないことを見越し、予防線を張ったとも言える。

    さらに「前政権の時代から私が大統領に就任したころは、何度も核実験が行われたが、今はなくなった」と自らの成果を誇った。

    2020年に再選を賭けた大統領選を控えるトランプ氏にとって、自らの直接交渉で北朝鮮から一定の譲歩を引き出したとアピールすることは、大きな利益になる。

    だからこそ、会見中で複数回、「前政権時代には核実験が相次いだ」と強調して見せた。さらに、ハノイで行われた前回の米朝会談も「大きな成功だった」と語った。

    一時は北朝鮮側から非難を受け、韓国内での支持が下がっている文氏にとっても、北朝鮮問題で何らかの前向きなメッセージを打ち出せることは、大きなメリットがある。

    なお、文氏は今回「裏方」に徹し、2人に花を持たせたようだ。韓国の国際放送「アリランニュース」によると、トランプ氏と金氏が板門店で握手した時、文氏は別の場所で待機していたという。

    さらに「金王朝」3代目の指導者としての威信をかけ、2度の会談に臨んだ金正恩氏にとっても、対話の継続そのものはプラスとなる。

    北朝鮮問題と言えば、米国、韓国と並ぶ重要な関係国は、北朝鮮を支えてきた歴史的経緯がある中国だ。

    トランプ氏は大阪で、中国の習近平国家主席と会談した。

    中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する米国企業の輸出の容認などを表明し、中国側に花を持たせるかたちとなった。その見返りとして、習氏に対し北朝鮮問題でなんらかの助力を求めた可能性もある。

    習氏はG20直前に北朝鮮を訪問したばかり。その内容を踏まえた話し合いが、今回の米朝会談の前に、米中間で行われたと考えるのが自然だ。

    今日の段階で、米国・北朝鮮・韓国の各政権の利害は「対話の継続」という点で一致した。

    国際社会全体からも、対話を続けることを否定的に見る声は出ていない。

    ただし、対話の結果がどうなるかは、まだだれにも見通せないし、双方とも成果を約束はしていない。

    これまでの2回の交渉は?

    AFP=時事

    トランプ政権下で、米朝首脳会談はこれまで2回行われた。

    最初は2018年6月にシンガポールで。二度目の会談は2019年2月にベトナム・ハノイで行われた。

    ハノイでの会談は物別れに終わり、予定されていた昼食会なども中止となった。

    トランプ氏は2月28日、首脳会談終了後の記者会見で、北朝鮮側が寧辺にある核施設の廃棄と引き換えに経済制裁の「完全解除」を要求してきたと主張。

    プルトニウムやウランの濃縮施設など他の施設が廃棄対象に含まれていなかったことから、トランプ大統領は今回の合意を見送ったと語っていた。

    一方、北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は同日深夜に開いた会見で、北朝鮮が求めたのは「制裁の一部の解除であって、全面解除ではない」「人民の生活に支障をきたす項目だけを先に解除してほしいと伝えた」と主張し、トランプ氏の言い分を否定した。

    ただ、今後もアメリカ側との交渉は続ける姿勢を示していた。

    また会談後、北朝鮮側は米朝の仲介に急いでいた韓国を批判する発言を繰り返していた。

    板門店は南北分断の象徴

    AFP(KCNA VIA KNS)=時事

    板門店は朝鮮半島を南北に隔てる軍事境界線上にある。周囲は厳しい警備体制が敷かれ、南北分断の象徴となってきた。1953年に朝鮮戦争の休戦協定が結ばれて以降、この地で南北双方の協議が行われてきた。

    2018年4月、板門店では初めてとなる南北首脳会談が開かれた。この時、南北から双方の首脳が歩み寄り、境界線上で握手。そして金正恩委員長が初めて、南側に足を踏み入れた。写真でふたりの足元にあるコンクリートの線が、境界線だ。

    なお、境界線の南北4キロは「非武装地帯」に設定され、あらゆる敵対行動が禁止されている。

    朝鮮戦争は、公式にはいまだ「休戦」が続いている状況にすぎない。

    戦争を国際法上も完全に終結させ、あわせて何らかのかたちで南北朝鮮半島の分断を解消することは、朝鮮半島に暮らす人々の悲願でもある。

    ただし、70年近く社会主義と資本主義の国家として運営を続けてきた南北が再統一する道のりは、見えていない。

    また、米朝首脳会談の最大の懸案である北朝鮮の非核化を、金正恩氏がすんなりと受け入れる道筋も、まだ見えていない。

    Contact Yoshihiro Kando at yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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