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netgeekの「シリアで救出される少女が毎回同じ」は誤り。デマ情報の多くがロシアから

シリアを巡るデマやガセ画像が相次いでいる。

CNNが報じるシリアで救出された少女が毎回同じ人物であるというnetgeekの記事が注目され、記事の紹介ツイートも3000回以上リツイートされている。

この記事が言う「CNNが違う空爆で救出され報じる少女が毎回同じ」という話は、中東を専門とするジャーナリストの川上泰徳氏が2016年12月、画像の調査を元に「事実ではない」とする記事を、すでにまとめている。

川上氏の記事では、画像を検証した上で

(シリアのボランティア救助組織)ホワイト・ヘルメットを誹謗する意図で、数百とあるホワイト・ヘルメットの救助活動の画像や動画から、一瞬でもいいから、同じように見えるコマを探して、「同じ少女が何回も使われている」と見る者に思い込ませるような組み写真をつくればいいと単純に考えたとしか思えない。

と結論づけており、Twitter上でもこの記事を紹介し「すでにデマと確定しているのに」との指摘が出ている。 

このnetgeekの記事は3枚の画像を示し、CNNがこれらを3つの異なる空爆を報じる際に使った、としている。

netgeek上の画像

3枚の画像の右上に現れているのは、米国のファクトチェックサイトsnopes.comのロゴだ。

snopes.com上の画像

そのsnopes.comは、3枚の画像のソースとみられる動画を掲載したページで、CNNが同じ少女の写真を使い回しているという主張を否定する判定を出しており、netgeekの記事とは正反対の内容となっている。

「使い回し」を否定する判定

この件に限らず、シリア情勢を巡っては、真偽の疑わしい情報が数多く流通している。

その多くは、以下のような内容に集約される。

  • シリアでの化学兵器による市民被害の否定
  • 化学兵器をアサド政権が使ったとする反体制派や米国などの主張の否定
  • 空爆で市民に大きな被害が出ているということへの否定
  • ボランティア救助組織「ホワイト・ヘルメット」への批判


アサド政権に距離を置いたり、敵対したりする勢力を攻撃する内容が多いのだ。

捏造の証拠写真?

2018年3月からは、映画で使われるカチンコの背後で演技する人々の画像が出回るようになった。

ロシアのニュースサイト、スプートニク・ニュース日本語版は4月17日付の「『ピンク・フロイド』のメンバーが痛烈批判 『ホワイト・ヘルメット』はフェイク組織」という記事のタイトル背景に、この写真を使っている。

記事は

ここ数年、インターネット上には「ホワイト・ヘルメット」が瓦礫の下から子どもを救い出す動画が頻繁に掲載されるようになった。ところがこれに並行して、「ホワイト・ヘルメット」の同じ人物らが「犠牲者」の顔にどうらんを塗り、撮影時に言わねばならないセリフを覚えこませている、いわば「状況演出」の模様を撮影した動画も公開されるようになった。

としており、この写真が救出動画を捏造した証拠であるかのような印象を受ける。

スプートニク・ニュースはロシアの国営メディアで、ロシア政府の主張を伝えている。

ロシア政府はアサド政権を支えてシリアに派兵し、反体制派や市民を空爆。アサド政権が化学兵器を使ったという指摘に対しては、否定を続けてきた。

スプートニク国際版(英語)は3月17日付でも「Fake News Alert: Media Stirred Over White Helmets' 'New' Horror Movie」という記事を配信している。「シリア人アクティビストのPenelope Stafylaがフェイスブックにアップしたもの」として、同じカチンコの写真などを掲載。ホワイト・ヘルメットが映像の偽造を行ったことを示唆するような内容となっている。

カチンコの画像で検索をかけると、ロシアのサイトで数多くの記事が見つかる。そのほとんどが「これがホワイト・ヘルメットのやらせの証拠」という内容のものだ。

また、英語のサイトやTwitterでも、同様の情報が流れている。

In Photos: White Helmets Media Studio Producing “Evidence of Assad Regime War Crimes” https://t.co/WUe67JfbwQ

実は「捏造する男を描いた映画」の現場写真

だが、AFP通信のファクトチェックサイトfactuelなどによると、この画像は、シリアの政府系機関が制作し、2018年3月からダマスカスなどで公開された映画「レボリューション・マン」の撮影場面の写真だ。

「レボリューション・マン」のフェイスブックページ

Revolution Man Movie / Via facebook

「レボリューション・マン」は、名を上げるために特ダネ映像を狙ってシリアに入ったジャーナリストが、やらせに手を染めて市民被害の写真や映像を捏造するというストーリーだ。

この映画のスポンサーは、シリアの携帯電話会社シリアテル。アサド大統領のいとこの政商ラミ・マフルーフ氏が設立し、アサド政権を支える「国策企業」の一つだ。内容や制作過程からして、西側の報道を批判するアサド政権肝いりの映画といえるだろう。

そういう映画のFBアカウントに出た、捏造場面の撮影風景の写真が、「ホワイト・ヘルメットが動画を捏造した証拠」としてロシアを中心に出回り、ロシアの国営メディアを通じて英語や日本語の世界にも届いているという構図が浮かぶ。

シリアでは、米国とロシアが激しく対立している。こうしたこともあり、シリアを巡る情報は政治的な主義主張やプロパガンダに溢れている。そのまま受け入れる前に十分な検証が必要だ。

BuzzFeed JapanNews