【いちからわかる】スエズ運河で何が起きたの? どうして問題なの?

    座礁してスエズ運河を塞いでいた日本企業所有のコンテナ船の救出作業が終わり、運河の通航が再開された。事故はなぜ起きて、日本と世界にどんな影響をもたらしたのか。

    コンテナ船が塞いでいたスエズ運河の「詰まり」が解消

    Suez Canal Authority (SCA) announced Ever Given ship changed its course with 80% after it was partially freed. #Egypt #Suez #SuezCanal #EVERGIVEN #Evergreen #BreakingNews|#قناة_السويس #السفينة_الجائحة #عاجل

    @EgyptTodayMag / Via Twitter: @EgyptTodayMag

    紅海と地中海を結ぶスエズ運河で座礁していた日本企業所有のコンテナ船エバーギブン。

    その救出作業が3月29日に成功し、運河の通航が6日ぶりに再開された。運河を管理するエジプトの政府機関スエズ運河庁が発表した。

    地元誌エジプト・トゥデイが、作業の様子を納めた動画をツイートしている。

    何が起きたのか

    AFP=時事

    座礁したエバーギブンはパナマ船籍で、愛媛県今治市の正栄汽船が所有している。

    そして、この船を借り受けて運行しているのは、英語名「エバーグリーン」で知られる台湾の大手、長栄海運。中国から運河を経由してオランダ・ロッテルダムに向かっていた。

    エバーギブンは全長約400メートル、 全幅約60メートル。22万4000トン。 2018年9月に竣工した、世界最大級の新鋭コンテナ船だ。

    運河航行中に向きが変わり、運河を塞ぐようなかたちで座礁した。写真は3月28日撮影の衛星画像だ。

    正栄汽船は3月29日、「スエズ運河庁、サルベージ会社、関係各社の皆様に多大なるご協力を賜りましたこと感謝申し上げます」とのコメントを出した。

    なぜこうなったのか

    AFP=時事

    時事通信によると、正栄汽船側は座礁の原因を「砂嵐による視界不良など急激な天候の変化があった」と推測している。

    現場周辺は遮るものがない砂漠地帯で、強風が吹けば砂を巻き上げ、視界は極端に悪くなる。

    デッキ上に何層ものコンテナを積んでいるだけに、帆に風を受けたような状態になり、方向が変わってしまった可能性も否定できない。

    一方、スエズ運河庁のオサマ・ラビア長官は事故当時、40ノット(74キロ)の強風で砂嵐が起きていたとしたうえで、それに加えて何らかの人為的ミスもあった可能性を示唆し、今後詳しい原因を調べる考えを示している。

    運河の両方で再開待ちの船舶がずらりと。

    AFP=時事

    スエズ運河が塞がれたことで、運河の両方で大勢の船が運航再開を待つことになった。写真は3月27日に撮影された、待機中の船の様子だ。

    運航が再開された3月29日午後には、滞留した船の数は420隻を超えたという。

    運河を管理するエジプト政府スエズ運河庁は、待機中の船舶すべてが通航し、滞留が解消するまでに4日ほどかかるとみている。

    コンテナ船の巨大さは陸上から見るとよく分かる

    Mahmoud Khaled / Getty Images

    エバーギブンは全長約400メートル。16両編成の新幹線に匹敵する長さで、東京タワー(333メートル)を横倒しにしても、この船の方が大きい。デッキ上に何層ものコンテナを積み上げており、まるで大きなビルのようにも見え、地上の構造物と比べると巨大さがよく分かる。

    これほどの大きさのため、座礁から引き剥がして向きを変える作業は難航した。

    AFP=時事

    ショベルカーで座礁した部分を掘り返した。船体と比べると、大きいはずのショベルカーが小さく見える。

    AFP=時事(スエズ運河公社提供)

    さらに、満潮を待って何隻ものタグボートで牽引し、離礁させた。

    スエズ運河はなぜ重要なの?

    Suez Canal Authority / Via suezcanal.gov.eg

    欧州・米州とアジア・中東・オセアニア方面を結ぶ船舶は、スエズ運河を通ることでアフリカ大陸の南端を回る必要がなくなり、運航日数を大幅に短縮できる。

    CNNなどによると、世界の貿易量の12%がスエズ運河経由。運河を1日に通る貨物の総額は100億ドル(約1兆1000億円)にのぼる。

    上の図はスエズ運河庁が公表している、運河を利用した場合の航行距離の違い。

    東京とオランダ・ロッテルダムを行き来する場合、スエズ運河経由だとアフリカ南端経由よりも距離が23%短くなり、航行に必要な日数も短縮される。

    貨物船やタンカーだけでなく、クルーズ客船なども運河を経由している。

    海洋国家・日本にとっても、スエズ運河はなくてはならない存在だ。

    損害は?

    スエズ運河はエジプトの国有で、通航料は天然資源が豊かとはいえないエジプトにとって、貴重な収入だ。

    エジプト政府によると、スエズ運河では2020年、約1万8800隻の船舶が通過し、11億7千万トンの貨物が運ばれた。通航料などとしてエジプトに入った収入は56億ドル。

    単純計算で1隻あたり29万8000ドル(約3200万円)を通航料などとして運河庁に支払っていることになる。

    運河庁のラビア長官は、運河庁が受けた1日あたりの損害は1200-1500万ドル(約13-16億円)と推測している。

    その賠償を巡っては、事故原因の調査後に、船を所有する正栄汽船と運河庁をはじめとする関係者の間で協議されることになりそうだ。

    また、正栄汽船をはじめ海運各社は事故などに備えた保険をかけており、保険も適用されることになるだろう。

    かつて運河を巡る戦争も起きた

    AFP=時事

    スエズ運河を巡って、戦争が起きたこともある。

    スエズ運河はフランスの外交官・実業家レセップスが建設事業を主導し、1869年に完成した。

    当時は欧州列強がアジア・中東・アフリカを我が物顔で支配していた時代。運河の権益はフランスとイギリスが握った。

    王政のエジプトはその後、イギリスの保護国となった。

    そして1952年、王政の腐敗や英国支配に怒るガマル・アブドゥンナセル(日本では一般的にナセル)率いる若手将校らがクーデターを起こして国王を追放し、政権を掌握した。

    建設から約90年後にエジプトが国有化し、戦争に

    エジプト大統領に就任したナセルは1956年7月26日、スエズ運河の国有化を宣言した(=写真上)。

    運河接収のため密かに準備していたエジプト軍には、行動開始の合図が設定されていた。運河をつくった「レセップス」だ。

    ラジオ中継された演説でナセルが「レセップス」の名を口にすると、各地で部隊が一斉に行動を始めた。

    運河の権益を失うことを恐れた英仏は、紅海の航行権確保を狙うイスラエルと手を組み、シナイ半島への侵攻を開始した。第2次中東戦争、あるいはスエズ危機と呼ばれる。

    しかし、英仏の露骨な動きに、アメリカとソビエト連邦の双方が介入。強烈な圧力をかけて手を引かせた。

    国有化を実現させたナセルはアラブ民族主義の象徴となり、国際的な声望を高めることになった。

    英仏はこの失敗で国際社会への影響力を大幅に落とし、本格的な米ソ2強時代が到来した。

    スエズを渡る橋は日本が建設した

    時事通信

    日本はスエズ運河周辺の開発で、さまざまな支援を行ってきた。

    スエズ運河を越えてシナイ半島とエジプト本土を結ぶ橋は、日本の援助で建設された。

    この橋の桁下高は70メートルのため、スエズ運河を航行できる船の高さは68メートルまでに制限されている。

    今回の事故で浮き彫りとなったこと

    世界経済にとって、そして日本にとって、スエズ運河が使えなくなると大変な損失となることが、今回の事故で改めて浮き彫りとなった。

    そして、もし何らかの勢力が政治的な意図を持ってこのような形で運河を封鎖、あるいは破壊した場合のリスクも改めて注目されることになった。

    エジプト政府は従来から、運河周辺への立ち入りや写真撮影などを厳しく制限してきたが、こうした事故の再発防止策やさらなる警備の強化も、これからの焦点になりそうだ。

    Contact Kando, Yoshihiro at yoshihiro.kando@buzzfeed.com.

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