厚生労働省が15年にわたり毎月勤労統計調査を不適切な方法で行っていたという問題が表面化しました。
根本匠厚生労働相が謝罪し、それによっておきた雇用保険などの支払い不足が総額約567.5億円にのぼると発表しました。政府は急きょ、その予算を追加計上する方針です。
政治や行政の遠い世界でおきた不祥事のように思えますが、延べ1900万人という膨大な人々が、これで不当に低い失業給付を受けてきた可能性が出てきたのです。
1900万人が被害か
会社都合の失業だけでなく、より広い可能性を求めて転職することも、今や当たり前の時代です。
失業した時や、転職活動をしていた間に受けていた雇用保険の基本手当(失業給付)が、本来よりも低く抑えられていたとしたら...。自分が被害を受けていたかどうかを調べるには、どうすればいいのでしょうか。
問題の経緯は
厚労省は毎月、雇用や賃金、労働時間の変動を把握するために、労働者1人当たりの現金給与総額(名目賃金)や、物価変動の影響を差し引いた実質賃金などを公表しています。毎月勤労者統計調査と呼ばれています。
国の経済状況を示すための重要な統計調査の一つで、その調査結果は雇用保険の支給額を算定する基準になっています。また、国内総生産(GDP)の算出にも用いられています。
ところが2004年以降、東京都内の従業員500人以上の事業所(企業)の調査について、本来はすべてを調査対象にしなければいけなかったのに、約3分の1しか調査していなかったことが判明したのです。
東京には全国の大企業が集中し、給料も高めです。それが3分の1しか調べていなかったため、賃金のデータが本来よりも低い数値のままという状態が、15年にわたり続いてきたのです。
日本の従業者の3分の1にあたる被害者数
これによって、失業したり転職活動したりしている間にもらう失業給付金が、本来よりも低く抑えられていた可能性がある人が延べ1900万人にのぼることが分かりました。
日本の就業者は約6700万人。単純計算すると約3人に1人が不正に低い給付を受けていた可能性がある、ということです。そして、日本のGDPの数値にも影響を与えることになります。
厚労省によると、以下の給付を受けていた人に影響が出る可能性があります。
●雇用保険
1人当たり平均約1,400円、延べ約1,900万人、給付費約280億円
●労災保険
年金給付(特別支給金を含む):1人当たり平均約9万円、延べ約27万人、給付費約240億円
休業補償(休業特別支給金を含む):1人1ヶ月当たり平均約300 円、延べ約45万人、給付費約1.5億円
●船員保険
1人当たり平均約15万円、約1万人、給付費約16億円
●事業主向け助成金
雇用調整助成金等:対象件数延べ30万件、給付費約30億円
どうすればいいのか
厚労省はホームページで情報の公開を始めたほか、雇用保険、労災保険、船員保険でそれぞれ問い合わせ専用ダイヤル(通話料無料)を開設しました。
まずはホームページで情報をチェックしたうえで、問い合わせの電話をかけることになります。
厚労省の問い合わせ先に電話してみた
記者も、公表されている電話番号に問い合わせをしてみました。以前に転職の関係で雇用保険の給付を受けていた時期があるからです。
電話に出たのは30代ぐらいの声の男性でした。私が質問を切り出す前に、丁寧な口調で「このたびは大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません」という謝罪を受けました。
「雇用保険の給付を受けていたので、追加給付の可能性の有無と、その金額、受給にまつわる手続きを知りたい」と、大まかな給付の時期と金額を示して尋ねました。
男性は「いまシステムの改修を行っています。金額を算定して該当者には郵送でご案内をお送りします。しかし改修には時間が掛かり、まだ時期的にいつ頃までにとお伝えすることができない状況です」と答えました。
私の場合、雇用保険を受けていた時期と今では住所が異なるため、案内を昔の住所に郵送されても手元に届かない可能性があります。
そう尋ねると「担当のハローワークにお問い合わせ頂くことになるのですが、現時点では、まだ各ハローワークも情報を集められておらず、しばらくお待ちいただいた方が良いと思います」「今後の方針は厚労省やハローワークのホームページなどでお知らせするので、そちらをご覧いただければ」との答えでした。
なお、厚労省が発表している「平均1400円」という雇用保険の追加給付額はあくまで「平均」であり、人によって違いが出るそうです。
問い合わせダイヤルはお詫びの外注?
謝罪の言葉を除けば、厚労省のホームページよりも詳しい情報は得られませんでした。
一体何のための問い合わせ番号なのだろうと思ったのですが、ふと頭をよぎったのは、電話に応対している人も実は十分な情報を持っていないのではないか、ということです。
「あなたは、厚労省かハロワの職員ですか」と尋ねると、答えはこうでした。
「いえ、厚労省の委託を受けたコールセンターというかたちになります」
これは、厚労省の担当者が具体的な相談を受ける窓口ではなく、事態の沈静化のため「もう少しお待ちください」と伝えるためのものなのではないか。「お詫び」を外注したのではないか。そういう思いが沸きました。
厚労省の職員でもない外注の人に不満や怒りをぶつけても仕方ないと感じ、礼を伝えて電話を切りました。
現時点では、ニュースで事態の進展を把握しながら厚労省のホームページを随時チェックし、もっと具体的な情報が出れば、それに従った行動を取るということになりそうです。
雇用保険などの受給期間が古く、すでに引っ越しを経験している人も多いはずです。厚労省やハロワにこちらから問い合わせない限り、向こうからは情報が来ないという人は、かなり多いだろうと感じています。自分から問い合わせていく必要があります。
それにしても、これだけ膨大な数の国民が影響を受ける事態の責任を、一体誰が取るのでしょうか?