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ミドリムシの力で飛行機を飛ばす ユーグレナが青汁のキューサイを買収するわけ

東大発のベンチャー・ユーグレナが青汁で知られるキューサイの買収を発表した。その狙いは、どこにあるのか。

微小藻類のミドリムシ(学名:ユーグレナ)の培養技術を持ち、ミドリムシを使った健康食品や化粧品、そしてバイオ燃料の開発を進める東大発ベンチャー、ユーグレナ(出雲充社長)が、青汁の製造販売で知られるキューサイ(神戸聡社長)を、ファンドと共同して買収することを発表した。

キューサイは「まずい!もう一杯!」のテレビCMで知られ、売上高はユーグレナの倍近い。ビジネスメディアが「小が大を呑む」と評した、ベンチャーによる老舗企業買収の狙いは、どこにあるのか。

ユーグレナの永田暁彦副社長と、投資会社アドバンテッジパートナーズの束原俊哉氏が、BuzzFeed Newsの取材に応じた。

「アンチエージング」はサステイナブルじゃない

キューサイは1965年設立。ケールを使った青汁の販売で売り上げを伸ばし、八名信夫のテレビCMで広く知られるようになった。2010年にコカ・コーラ・ボトラーズジャパンホールディングスが全株を取得していた。

今回の買収は、ユーグレナとアドバンテッジパートナーズ(AP)、東京センチュリーの3社が特別目的会社(SPC)を設立し、コカ・コーラからキューサイの全株式を買い取る。そして、この取引から1年以内に、ユーグレナがキューサイを連結子会社化するという2段階の枠組みで行われる。

APでこの事業を担当する束原俊哉パートナーは「コカ・コーラさんが、コア事業ではないと判断してキューサイを切り出すことを決め、各社に声をかけてオークションを行うことになった。その過程で、キューサイという会社をどう伸ばしていくのかというところで、ユーグレナさんとかなり重なる部分があったのが、ポイントでした」と語る。

各種の報道や関係者の話を総合すると、コカ・コーラはキューサイを買収したものの十分なシナジー効果を上げられず、黒字経営のキューサイを手放すことにした模様だ。

APは、投資して事業を再生することを得意とする投資会社だ。束原さんは価格競争におされて赤字に転落したメガネスーパーの再建を手がけ、9期ぶりの黒字化などを実現させた。

「キューサイはテレビ通販が中心の会社です。青汁だけでなく、コラーゲンを中心とした化粧品もある。いままで、アンチエイジングという言葉が使われてきましたが、エイジングに対抗することには、無理があると思うんです」

「その年齢にあった健康のあり方が、今後高齢化が進む中で重要になる。アンチエイジングではなく、ウエルエイジング。メガネスーパーはもともと、近眼用メガネを中心にしていたのですが、人間は必ず、老眼になります。近眼という屈折異常に対応するだけでなく、老眼や眼精疲労などエージングにも対応し、目を総合的にケアする企業にしていきました」

「こういう時代に合わせてキューサイも商材を広げ、プレゼンスを高めていけると思うんです」

若い世代の意見は親に影響する

ユーグレナの永田副社長は「我々はサステナビリティ・ファーストを掲げています。その意味で、束原さんが仰るとおり、アンチエイジングという言葉はサステナブルじゃない。年は必ず取りますから、あらがうよりも、その年齢なりの健康や美があるはず」と語る。

同社は、独自技術で培養したミドリムシを使った健康食品や化粧品などを販売してきた。それだけならば、事業モデルとしては珍しくない。クロレラなど藻類を使った健康食品ビジネスには長い歴史がある。

同社が違いを際立たせているのは、健康食品などの販売で生まれた利益を、ミドリムシなどに由来するバイオ燃料の研究開発につぎ込んでいる点だ。

また、環境に敏感な若い世代の声を経営に反映させようとしている。

2019年に最高未来責任者(CFO)を18歳以下に限定して公募。17歳で就任した初代CFOの提言で、2020年9月から飲料商品からペットボトルを全廃した。さらに同社が商品に使う石油由来のプラスチックを、2021年中に半減させることにしている。

「若い層の人々が、自分たちが社会にインパクトを与えられることは少ない、と思っていると感じます。しかし実際には、親の世代の意思決定に、想像以上に子どもの意見が影響しています」

「例えば輸入スポーツカーを買おうとする親の世代に、それは今の時代に合わない、環境にいい車にしようと子どもが言う。通販の世界では最近、DHCさんの問題がありました。ああいう排他的なことは、受け入れられない。そういうことが、購入の選択基準になってくるはずです」

DHCは公式通販サイトに排外的、差別的な会長メッセージを掲載し、批判された。同社は報道各社にノーコメントを貫き、メッセージは12月29日現在も掲載されている。

青汁などの健康食品を買うのは、高齢者が中心だ。その商品選択に、環境問題など社会の動き敏感な子ども世代の声を反映してもらう。テレビ通販が中心のキューサイに、ユーグレナの持つネット通販のノウハウを導入し、商品層を伸ばす。

ユーグレナはキューサイの持つ物流網やテレビ通販ルートも使えるようになる。できれば、物流にもバイオ燃料の導入などで「グリーン化」する。

買収で、こうした相乗効果を期待しているという。

買収の真の狙いは

では、ユーグレナはキューサイの買収で伸ばそうとする健康食品や化粧品事業の収益を、どうするのか。

同社の出雲充社長は12月18日の株主総会で、こう語った。

「ミドリムシの研究成果を社会に還元し、世の中の役に立つ会社になることを目標としてきました。ヘルスケア事業のV字回復と、国産バイオ燃料による有償フライトの実現。この2つは、必ずやり遂げます」

「バイオ燃料事業をやらなければ、10億円の黒字になります。しかし、それでは人と地球を健康にするというビジョンを達成できない。だから、先行投資させていただいております」

つまり、キューサイの買収で、健康食品や化粧品などのヘルスケア事業の売り上げを伸ばす。そこで生まれた利益で経営の安定化を図りながら、バイオ燃料開発などにさらに投資する、ということだ。

バイオ燃料=既存インフラのまま使える優位性

それでは、ユーグレナのバイオ燃料開発は、どこまで進んでいるのか。

同社は、回収した食用廃油と、ミドリムシから精製する燃料成分を配合した、バイオディーゼル油(軽油)と、バイオジェット燃料を製造している。いずれも、石油から精製されたものとまったく同様に使えるという。

ミドリムシには、水と二酸化炭素を取りこんで光合成し、酸素と栄養素、さらに油脂成分などを生み出して成長するという、植物と同じ性質がある。

ミドリムシの生み出す油脂を精製して燃料をつくれば、そのサイクル全体でみると二酸化炭素の排出量は増えないことになり、温暖化防止に効果があることになる。

また、軽質な油脂をつくるというミドリムシの特質から、ディーゼル油とジェット油成分に絞った精製・製造が可能になるという利点もある。

一方、石油からディーゼル油とジェット燃料を精製すれば、ナフサ(ガソリンなどの原料)や重油などさまざまな製品も、同時に生まれる。いろんな成分が混じり合った原油を蒸留し、分離するからだ。地中深くから原油を取り出し、燃焼などさまざまな形で消費することで、大気中の温室効果ガスは増える。

日本政府は2030年代に新車販売からガソリン車をなくすことを検討している。乗用車は技術のめどが付いているが、パワーが必要な大型トラックなどのディーゼル車両やジェット旅客機を実用レベルで電動化することは、現在の技術では難しい。

旅客機の場合、現在のリチウムイオン電池の蓄電能力では、客席の大部分をバッテリーで埋める必要に迫られる。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、エンジンの電動化やハイブリッド化によるエミッションフリー航空機の研究を進めているが、実用化を2030〜50年代と見込み、まだ「未来の技術」の段階だ。

トラックやバスも電動化には大型バッテリーが必要になり、運搬できる人や荷物の量を圧迫する。

技術的なブレイクスルーが見つかったとしても、今度は新技術を使った旅客機や車両を導入するため、関係企業は大きな投資を迫られることになる。

今あるディーゼルエンジンのトラックやバス、そしてジェット旅客機、さらに給油施設といった各種の既存インフラを活用しながら、温室効果ガスの排出を減らす手段として活用できるのが、バイオ燃料の導入だ。

そこに勝ち筋があるーーというのが、同社がバイオ燃料の開発を進める理由の一つだ。

もともとは、2020年7月の東京オリンピック開会式を目指してバイオ燃料によるフライト実現を目指していた。しかし、コロナ禍による五輪の延期と経済状況や航空業界の激変で見送った。代わりに、2021年9月期のフライト実現を新たな目標とするという。

ユーグレナは2018年には横浜市で約60億円を投資し、バイオ燃料の製造実証プラントを完成させた。2025年には商業プラントを稼働させ、製造コストを100円台に引き下げて、実用化にメドをつける方針だ。

ミドリムシと青汁の力で、バイオ燃料の飛行機は飛ぶのか。

出雲社長は、株主総会で宣言した。

「バイオ燃料事業、ソーシャル事業でも数年内に黒字化を見込んでいる。一日も早い黒字化で、みなさまにご納得していただけるよう努めてまいります」