広島・長崎の被爆者が国を相手取り裁判で連勝を続けている理由

    被爆者が国を相手取って裁判を起こし、次々と勝訴している。14日も東京高裁が被爆者勝訴の判決を言い渡した。

    各地の裁判所で、広島と長崎の被爆者が国を相手取った裁判を起こし、異例の連戦連勝を続けている。

    12月14日も東京高裁(垣内正裁判長)が、狭心症となったのは原爆の放射線による「原爆症」であると認めるよう国に求めていた長崎の被爆者の訴えを支持する判決を出した。

    被爆者らは何を訴え、何を求めているのか。

    14日の判決で勝訴したのは、長崎で12歳の時に被爆した山本英典さん(85)だ。
    国(厚労省)に対し、自らが苦しむ狭心症は、原爆の放射線によって引き起こされた「原爆症」であることを認めるよう求めていた。山本さんは一審の東京地裁で勝ったが、国側が控訴していたのだ。

    「原爆症」と認定されると、国から医療特別手当が支給される。

    「ほしいのはカネではない」

    だが山本さんをはじめとする原告らは「ほしいのは医療手当のカネではない」と口をそろえてきた。求めているのは、「原爆の被害を矮小化せず、このようなことが二度と起きないための国の政策であり、態度」だという。

    原爆が人体に与える影響の全容は、いまも分かっていない。被爆者の被曝線量も推定でしかないうえ、内部被曝や残留放射能の影響は1945年当時、調査もされていなかった。

    にも関わらず、がんなど被爆者のかかった病気のどれが原爆によるもので、どれがそうではないかと判断するということに、そもそもの矛盾があるのだ。

    9割が原告勝訴という異例な訴訟に

    原爆症認定の壁は極端に高く、2000年代初頭までは被爆者の1%前後しか認められていなかった。

    そこで被爆者らは2002年、原爆症認定を巡る一斉申請を始めた。そのほとんどが却下されると、今度は各地の裁判所に提訴した。17の裁判所に306人の被爆者が訴え、その91%が勝訴した。

    弁護団の安原幸彦弁護士は「こういう行政訴訟で国が負けるのは通常1割ほど。しかし原爆症認定では、原告が9割勝訴という異例中の異例の事態となった」と語る。

    この状況に、第1次政権を率いていた安倍晋三首相は2007年、認定基準の見直しを指示。2009年には麻生太郎首相(当時)と被爆者団体の日本被団協が、これ以上訴訟の場で争う必要がないように解決を図るという確認書を交わし、集団訴訟はいったん終わった。

    しかし、新たな審査基準でも、認定却下が相次いだ。

    このため、第2次の集団訴訟が始まったのだ。第2次訴訟でも東京、大阪、名古屋などで原告側の9割が勝訴、あるいは裁判の途中で国側が原告を原爆症と認定して訴訟を取り下げている。

    続く被爆者の闘い

    国を相手取って裁判をすれば9割は勝てるとはいえ、そもそも裁判を起こすのは、不認定だった被爆者の1割に過ぎない。

    安原弁護士は「裁判さえ起こせば勝つが、9割は裁判そのものを諦めて泣き寝入りしている。これは、公正な行政のあり方ではない。裁判できなければ見捨てられる行政で良いのか」と語る。

    そして、被爆者が長く裁判を戦い続けてきたことで、国が少しずつ、原爆症認定の門戸を開いてきたというのが実態だ。

    山本さんは2003年の第1次訴訟で胃がんで原爆症認定を求めて訴え、1審では敗訴した。しかし2008年、国側の認定基準変更により、控訴審の途中にもかかわらず、原爆症と認められた。今回は狭心症を巡り争った。

    山本さんは「闘いは終わっていない。原爆被害は人類として許せないということが国の方針となるまで闘っていきたい。被爆者は戦後ずっと闘ってきた」と語る。

    厚生労働省の担当者は「関係省庁と協議したうえで、今後の対応を決める」とBuzzFeed Newsの取材に語った。

    12月20日には、被爆者側と厚労省との協議が行われる。