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キャベツ湿布、”不妊症に効く”ハーブティ、おっぱい体操、助産師から勧められた?

助産師から科学的根拠のない療法や商品を勧められたという話があとを絶ちません。

キャベツ枕・キャベツ帽子について先日、記事を書きました。

ママサイト「IT Mama」の「もう試した?熱冷ましの新常識『キャベツ枕の驚くべき効果』」等、現在は削除された記事への批判で、大きな反響がありました。

その反響の中で見過ごせなかったのが、「助産師・保健師からキャベツがいいと指導された」、「助産師の教科書に載っていた」というものです。

母乳をあげている女性の乳房にトラブルが起きた際、「保冷剤では冷えすぎるのでキャベツで湿布するのがいい」と助産師が説明したというのです。

妊産婦さんに寄り添って専門的なケアをしてくださる助産師さんは、産前産後のケアには欠かせない存在です。

いったいどういうことなのでしょうか?

母性看護の教科書にも「キャベツ湿布」が

助産師教育機関で、教科書や参考書として使われていた『写真でわかる母性看護技術』(平沢美恵子・村上睦子監修、インターメディカ)を見たところ、以下のように説明が書いてありました。

生理的緊満から病的緊満へと移行しそうな場合は、以下のように対処する(文献15)。

(中略)授乳と授乳の間は、乳房全体を冷湿布する(キャベツ湿布)

『写真でわかる母性看護技術』(インターメディカ)より

その文章の隣には、乳首部分だけくり抜いたキャベツを両側のおっぱいにかぶせた写真がついています。

助産師の教科書ですから、赤ちゃんの外陰部や乳房の写真がバッチリ写っている本ですが、とりわけ衝撃的です。

この部分の参考文献になっている文献15とは、『NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会編(2007)母乳育児支援スタンダード』(医学書院)という本。

その本に掲載されている文章はこうです。

室温もしくは冷蔵庫で冷やした生キャベツの葉を、乳頭・乳輪を隠さないようにして乳房に貼り付ける方法が、欧米でよく用いられている。RCT(無作為抽出対照試験)での結果は、緊満を解消するという実証はされていない。また、最近ではリステリア菌の報告もあり、慎重に使用したほうがいい。

『NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会編(2007)母乳育児支援スタンダード』(医学書院)より

つまり、助産師の教科書が勧めているキャベツ湿布は、効果は確かめられていないと説明されており、意味は逆です。ラクテーション・コンサルタント協会は、この引用のされ方に抗議するべきではなかったでしょうか。

また、同協会は「慎重に使用したほうがいい」と結んでいますが、私は他に冷やすものはあるので、むしろ冷やすためにあえてキャベツを選ぶべきではないと思います。

リステリア菌感染症というのは、健康な大人ならほとんどが吐いたり下痢をしたりといった消化器症状が出るだけです。

しかし、生後まもない赤ちゃんは菌血症や髄膜炎を起こすことがあります。

リステリアは土壌や河川、下水、動物の腸管内にいる細菌。食物加工の際に、混入することがあり、ときどき集団感染症の原因としてニュースで取り上げられます。免疫不全者・高齢者・妊産婦・新生児では死亡率が20〜30%となる感染症だということを医療関係者なら知っているべきです。

根拠なく、様々な「商品」を宣伝、販売

その『写真でわかる母性看護技術』には、“アロマセラピー、ハーブティーについて”というコラムがあります。

近年、アロマセラピーの消毒・殺菌作用、免疫系刺激作用、消化促進作用など身体作用だけでなく、鎮静作用・抗うつ作用など精神作用も明らかにされてきた。

『写真でわかる母性看護技術』より

このように書いてあります。今回のキャベツ帽子の記事に限らず、助産師から特定の商品やサービスを勧められたという人もいます。

ある市の乳児健診で、ハーブティーを買うように言われたと言う人、また別の市の赤ちゃん訪問事業で、母乳マッサージを勧められたという情報もあります。

一般に、赤ちゃんのいる家庭への助産師訪問や乳児健診は、市区町村が予算を出して行われています。税金を使った事業で、国家資格を持った医療者が、根拠のないあるいは少ないことを保護者に説明するのは大変よくないことです。

ハーブティーを勧める助産師は、今も自分のプロデュースする製品を宣伝しています。彼女はウェブで記事をたくさん書いており、著作・ホームページを持っている人で、骨盤ベルトも売っています。

不妊治療の効果を高めている所もあります」とありますが、ぜひ客観的指標を示してほしいものです。

母乳マッサージは、うっ滞、つまり溜まっている母乳を外に押し出すことはできるかもしれません。

しかし、現時点で、母乳の分泌量を増やすというエビデンスはありません(日本助産師会母乳育児支援業務基準検討特別委員会 母乳育児支援業務基準 乳腺炎〈2015〉)。

助産院によっては、高額な料金を設定され、帰り際に必ず次回の予約をとるようにと言われることがあるようです。母乳マッサージは、しなければいけないものではありません。

他にも、会社や団体を作って自分の考案した骨盤ベルトを早産防止になるとか育てやすい子どもになると言ったり、ふわふわなおっぱいになるから大胸筋からおっぱいをはずすなどと乳房のマッサージ法を勧めたりする助産師もいます。

「トコちゃんベルト」その宣伝文句は科学的に正しいか?

骨盤ベルトの一つである「トコちゃんベルト」を装着すると、子宮内の胎嚢(たいのう)という赤ちゃんを包んでいる袋が、細長い形からきれいな球形になると宣伝し、売られています。

しかし、子宮のように体の深い部分にある臓器内の胎嚢が、ベルトを巻いたくらいで形を変えることはありません。エコーは立体のものを平面に見せてくれる機械です。彼女らが広告に使っている画像は、エコーのあて方によって胎嚢が“押しつぶされて”見えるだけ。

また、胎嚢の形と育てやすさには、なんの関係もありません。頭がゆがんでいると、「でんぐりがえりが上手にできない、転んでも手が出ずに顔を打ってしまう、まっすぐに走れない、肩コリのひどくなる」、それらが、トコちゃんベルトの青葉の製品で改善すると誤解させるような宣伝方法ですが 、どれも医学的に証明されておらず、関連はありません。

ふわふわおっぱい、おっぱい体操ハンドというものも、荒唐無稽な宣伝をされています。

「形の歪んでいるおっぱいは老廃物がたまっている」「おっぱいの脂肪が大胸筋に流れ込んで循環を悪くしている」「おっぱいをはがして、揺らさなければいけない」と言っている動画を見て、私はめまいがしました。どれもナンセンスです。

助産師教育、大丈夫なのか?

助産師になるには、看護師の資格を持っている必要があります。そして、必要な学科を1年以上学び実習もします。病院や助産所で妊娠、分娩、産褥、そして新生児の実習も行うため、看護師よりもさらに知識・経験が多い人たちです。

しかし、ホメオパシーに傾倒して、ビタミンK欠乏性出血症を防ぐビタミンK2シロップを赤ちゃんに与えなかった助産師がいたり、民間療法・自分の意見・価値観と、医学的に根拠のある指導との区別がついていない助産師がいたりするのです。

育児をしている人に必要なのは、根拠のある情報であり、噂や他人の思いつきではありません。商品やサービスのお押し付けは、なおのこと必要ありません。

日本助産師会出版は、アロマセラピー講座を開いて日本助産師会の継続教育ポイントを付与しています。2日間で9万円と大変高額なセミナーであるものの、「その作用と薬理を理解し、正しく適切に使用できるよう学習」するのはとてもいいことだと思います。

案内からはわかりませんが、どのくらい医学的な根拠があるセラピーなのでしょうか。

日本助産師会はキャベツ湿布を含め、過去に勧めていたとしても、現在は勧めるべきではないことが明らかになったものは積極的に否定すべきです。

過去に教育を受けた助産師は、以前によしとされていたことを引き続きお母さんたちに“指導”しています。

それならば、助産師会は、医師や薬剤師のように国家資格ですから、助産師の権威を地に落とすような根拠のないあるいは薄い不安商法を取り締まるべきではないでしょうか。

「キャベツ枕」「キャベツ帽子」で熱が下がる?

【森戸やすみ(もりと・やすみ)】 小児科専門医

1971年、東京生まれ。1996年、私立大学医学部卒。一般小児科、NICU(新生児集中治療室)などを経て、どうかん山こどもクリニックを開業。主な著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、『小児科医ママが今伝えたいこと! 子育てはだいたいで大丈夫』(同)、共著に『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』(同)など。ツイッターはこちら