アニメ業界の問題をCGアニメは解決する…「正解するカド」プロデューサーが語る未来

    アニメーターの低賃金労働、作画の遅れによる放送延期。現在アニメでは、さまざまな問題もクローズアップされている

    CGアニメといえばディズニー映画「アナと雪の女王」など、いまや海外アニメの主流でヒット作も多い。

    時事通信

    日本でも近年、セル画のアニメに表現を近づかせる「セルルック」という手法を使ったCGアニメが増えている。

    美少女キャラなど日本アニメの特徴を活かしやすく、今年ヒットとなった「けものフレンズ」もこの手法で作られている。

    この流れの中、プリキュアやワンピースなどで知られるアニメ制作会社「東映アニメーション」が、テレビシリーズで初めてセルルックで3DCGアニメに挑戦している。

    4月7日からテレビ放送が開始したSFアニメ「正解するカド」(TOKYO MXほか)だ。

    東映アニメーション

    今作を手がける野口光一プロデューサーはハリウッド映画のVFX制作に携わった後、ポリゴン・ピクチュアズを経て東映アニメーションに入社。

    初プロデュース作品となる劇場版3DCGアニメ「楽園追放 -Expelled from Paradise-」をヒットさせるなど、長らく日本の3DCGアニメに携わってきた。

    東映アニメーション

    「正解するカド」は東京に突如現れた巨大な立方体「カド」、そこから現れた謎の存在ヤハクィザシュニナと翻弄される日本政府、そして2者を仲介する主人公・真道幸路朗が織りなす政治交渉劇。脚本を担当するのは小説家の野崎まどが担当する。

    今敏監督の「妄想代理人」のような10年先、20年先に見ても面白い作品を目指したという野口プロデューサーにとっても、満足できる物語に仕上がったという。

    Tatsunori.Tokushige / BuzzFeed

    「アニメは完成するまで何度も同じものを見るので苦痛なときはあるんですけど、この作品は何度見ても面白い。それはシナリオがしっかりしていて、絵作りがリンクしているから。『楽園追放』のときもそうでした」

    また「登場するキャラはスーツだし、交渉劇だし、ロボットは出ない。CG業界で誰もやっていない作品で、あえて挑戦することで、もう一歩先のCGアニメーションになると思った」とCGアニメとして意欲的な作品という。

    「楽園追放」ではグラフィニカに制作依頼したが、「正解するカド」では東映アニメーションのCG部で制作。現在所属するのは120人のうち約50人が関わる。

    作品の舞台は現代。キャラクターの大半はスーツで、白衣を着た科学者も登場する。CGでは服が硬く見えるなど、服の表現は難しく、技術的なチャレンジだったという。

    「ヤハクィザシュニナのマントは最初抵抗されました。2段のマントだし、ひもがあるし、CGでは難しいと。でも、私がもともとCG部にいたこともあり、『これに挑戦しよう』と言いやすかったのは社内で作ることのメリットでした」

    「ヤハクィザシュニナ」のメイキング動画

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    作中で大きな存在感を見せる「カド」は、幾何学的な模様が常に動き、異世界のものでありながら、古代文明の雰囲気も漂わせる不思議な物体だ。

    この「カド」を表現するのに使われたのが3Dフラクタルという技術。「カド」の模様は計算式をもとにリアルタイムで生み出されており、当初は1コマを作るのに二晩をかけるほど時間がかかるなど試行錯誤した。

    「この技術を使う作品は世界中を見てもなかなかないと思います。最初で最期かもしれない。技術力とマシンパワーがいるので、これは東映アニメーションじゃないとできない」とこちらも大きな挑戦だった。

    「3Dフラクタル」のテスト動画

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    CGアニメは日本アニメを救うのか

    アニメーターの低賃金労働、作画の遅れによる放送延期。現在アニメでは、さまざまな問題もクローズアップされているが、CGアニメの普及がこれらの問題の解決策になる可能性があるという。

    現在アニメ業界は動画1枚数百円でフリーのアニメーターが個人で請け負う歩合制が伝統的に続いている。

    時事通信

    一方、ポリゴン・ピクチュアズ、サンジゲンなど日本を代表するCG会社は仕事をスタジオで請け負うため、社員を雇い月給制の形を取っている。

    「正解するカド」でも作品の30%はCGではなく、作画を使っているが、「作画の仕上がりは締め切り間近にどーんと上がってくる」とスケジュール管理がなかなかしにくい。

    一方、CGは基本的に毎日の積み上げ作業で、進捗管理がわかりやすい。

    その結果、徹夜続きの作業という印象のアニメだが、東映アニメーションでは「CG部は22時までには作業を終える」とホワイトな環境が作られているという。

    また、CGアニメはデータを蓄積することで、のちのアニメ制作をより効率的に作ることができる。

    「CGアニメはデータベース化できるんです。アニメーションもフェイシャルモーションもバンクできる。あのキャラの動きがよかったから手だけ入れ替えて使おうか、とか、いいキャラの顔をコピーして次の作品に活かせる」

    キャラクターの元データがあることで、他メディアへの展開やマーチャンダイジング、アニメの続編制作にも活かせる。

    安定した質のCGアニメの量産が可能となり、ひいてはアニメーターも安定した生活ができる。

    世界と日本の間にあるCGアニメの壁

    Getty Images

    ピクサー・アニメーション・スタジオを率いるジョン・ラセター

    一方、日本のCGアニメが世界に打って出るためには超えなければいけない壁がある。日本では「セルルック」の人気が高いが、海外では一部の日本アニメファン以外には受け入れられにくいという。

    「ジレンマはあります。日本で売るためにはセルルックしかないと思っている。土壌はこれで作らないといけないけど、将来的にはピクサーのようなフルCGでやらないと世界の市場には乗らない」

    けして容易ないことではない。

    だが、かつて東洋のディズニーを標榜していた東映アニメーションならば「フルCGとセルルックの両輪でできる可能性はある」と野口プロデューサーは語った。


    Contact Tatsunori Tokushige at tatsunori.tokushige@buzzfeed.com.

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