リオ五輪男子柔道100キロ超級、絶対王者と呼ばれたフランスのテディ・リーネルが日本の原沢久喜を下し、五輪2連覇を果たした。組み合いを避け、逃げ回るリネールの戦いぶりには会場からブーイングが起こった。
リネールとはどんな柔道家なのか
男子柔道の井上康生監督はNHK「クローズアップ現代+」でリネールについて、以下のように語っている。
「彼ほど冒険せずに、確実に相手をしとめていく、勝っていく柔道に徹する選手はいないと思います。」
身長204センチ、体重130キロという恵まれた体格と高い身体能力を持つが、リネール最大の武器は高い危機管理能力だ。
大外刈りや内股という得意技もあるが、相手にチャンスのない、100%自分が攻め込める状態にならなければ、徹底的に技をかけない。相手につかまれても圧倒的な力で振りほどき、攻撃の芽を摘む。
つまらない柔道、臆病と言われても揺るがない。ひたすら勝利だけにこだわり続け、世界選手権8大会連続優勝という偉業を成し遂げ、五輪連覇という結果もつかんだ。
前半を凌ぎ、後半勝負にかけたという原沢。組み手から勝機を見出したかったが、早々に指導を受けたことで、リネールは逃げに徹した。
会場では試合が進むたびにブーイングが大きくなっていく。NHKアナウンサーは「技による攻防が見たい」と実況したが、最後まで技の攻防はないままだった。
「なかなか自分の組み手になるチャンスが少なく、そのチャンスもものにできなかった」と原沢は試合後に振り返った。
リネールの心理的なプレッシャー
フランス柔道代表のコーチ経験もあるバルセロナ五輪女子52キロ級銀メダリストの溝口紀子さんは試合直後、消極的な姿勢だったリネールの理由について、世界一の柔道人口を誇る母国のプレッシャーが影響したと考察した。
一方、原沢の戦いぶりについては「あんな強いリネールを追い込んだのは実質的には勝ちだと思います。リネールがこんなに苦戦するのは初めてではないでしょうか」といい、限りなく金に近い銀だと褒めた。
はっきり見えなかった勝敗
また柔道家・木村政彦の生涯を描いた評伝「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」で知られ、北海道大学柔道部出身の作家・増田俊也さんは、勝敗が見えにくい現行の柔道の在り方に疑問を呈した。
NHKで解説を務めた天理大学柔道部の穴井隆将さんは、表彰式でリネールについて語った。
チャンピオンとはこうあるべきなのか。良い意味でも悪い意味でも、両方の意味合いを教えていただいた。リネール選手には感謝したいと思う。
リネールを果敢な攻めでかつてないほど苦しめた原沢だったが、「負けない柔道」を破るまでには至らなかった。
リネールは試合後、「原沢はすごい選手で、将来もっと強くなるだろう。もし次のオリンピックに出れば、原沢、ラファエル・シルバ、オル・サソンとの試合は難しいものになるはずだ」と原沢も将来的な脅威になると語った。
「目指すところは一番上。まだまだ挑戦していきたい。必ず東京五輪でのいい結果につなげたい」
悔しさが残る中、原沢もまっすぐ4年後を見据えた。