俳優・大杉漣さんが亡くなった2月21日の夜、生前に出演したドラマ「バイプレイヤーズ~もしも名脇役がテレ東朝ドラで無人島生活したら~」の3話が放送された。
名バイプレイヤーたちが登場するドラマに大杉さんは本人役で出演。
3話にはサプライズゲストとしてベテラン俳優の平泉成さんが登場し、2人は次のようなやり取りをアドリブで始めた。
平泉「ボール蹴ってる?」
大杉「やってます、やってます」
平泉「フロンターレすごかったね。憲剛」
大杉「そうですね」
平泉「選手ってあんなに変わるもんかね、年を取っても」
(中略)
大杉「成さん。サッカーの話もゆっくりしたいけど、俺もフロンターレ好きだけど、今急いでいるから」
大杉さんはJ2徳島ヴォルティスのサポーターで、平泉さんも川崎フロンターレのサポーターだ。
サッカー好き同士ならではの会話で、普段ならニヤニヤ見てしまうが、大杉さんが亡くなった直後だけに、寂しさがこみ上げた。
半世紀以上のサッカーファン
サッカー好きを公言する芸能人は数いるが、大杉漣さんは、サッカー好き、特にJリーグのサポーターから認められた人だった。
高校時代はサッカー部に所属し、「鰯クラブ」というチームを作り、60歳を超えてもプレー。名バイプレイヤーはチームでは背番号10を背負った。
徳島県小松島市出身。サッカー部時代の後輩がボランティアとして関わっていたことで、前身の大塚製薬サッカー部から徳島ヴォルティスのサポーターだった。
関東で開催される試合だけ出なく、年間パスを購入し、徳島のホームスタジアムにも年数回は駆けつけた。
観戦するのはVIP席ではなく、一般サポーターに混じって観戦。両チームの戦術が見やすいからと、スタジアムの端から俯瞰して見られる斜め45度の位置が好きだったと、様々なメディアに語っている。
応援するヴォルティスだけでなく、J1、J2、時にはその下のカテゴリーの試合も観戦。スタジアムの観戦していたとの報告がSNSに上がるのを楽しみにしているサッカーファンもいた。
昨年7月に出演したサッカー番組『FOOT×BRAIN』では、試合が始まる1時間前にスタジアムを訪れ、その土地ならではのスタジアムグルメを食べるのが、スタジアム観戦の醍醐味だと語っている。
芸能人でなく、あくまで一人のサポーターとして楽しんだ大杉さん。だからこそヴォルティス以外のファンも、大杉さんの死を惜しんだ。
Jリーグのチームも
チームのマスコットも
そしてサポーターも。大杉さんは尊敬されるサッカーファミリーの一員だった。
「大杉を国立に!」
大杉さんとヴォルティスの関係で有名なエピソードがある。
2013年12月、ヴォルティスはJ1昇格がかけプレーオフ決勝で、京都サンガと戦った。試合会場は国立競技場だったが、その日はドラマ『緊急取調室』の撮影。
夕方終了予定で、試合には間に合いそうになかった。
しかし、主演の天海祐希さんをはじめ、共演者、スタッフが「大杉を国立に!」を合言葉に奮闘し、撮影は予定より早く終了。
大杉さんも前半途中から国立で試合を観戦することができた。
試合はヴォルティスが2-0でサンガを破り、大杉さんは念願だったJ1昇格を生で目撃できた。
大杉さんはのちに、この試合を観戦した喜びを次のように語っている。
大塚製薬の頃から応援していた徳島ヴォルティスが国立の舞台に立ち、スタンドにはサポーターの徳島弁が飛び交っている。「いかんかい!」と叫んだとたんにゴールが入りました。仕事仲間に恵まれて、サッカーで感動できる幸せ。その場に入られてよかったと心から思ったものです。
(2015年昇格プレーオフのプログラムより)
ヴォルティスは22日、公式ホームページで25日に開催されるJ2ファジアーノ岡山戦で、大杉さんの記帳所を設置すると発表した。
ホームページには次のように追悼文が掲載されている。
昨シーズンのFC岐阜戦では、初めてピッチレベルで両チーム・主審に花束を贈呈いただきました。この日もお仕事ではなくオフを利用してスタジアムにお越しいただき「サポーターを代表して」とおっしゃっていたお姿に徳島ヴォルティス、そしてサッカーへの愛を感じるところでありました。今シーズンへの期待もしていただいており、これからも共に歩みを進めることが出来ると思っておりました。
昨年5月、徳島新聞の取材に対し、サッカー観戦では何より「心に届く試合」が見たい。だからこそスタジアムで生で見ることが重要だと語った。
僕らの仕事にもあるんですよ。一生懸命やったけどうまい結果が出ないことがある。たまに、J2でもJ3でもJ1でも、カテゴリーの問題じゃなくて、心に届く試合があるんですよ。それを見たいと思うことがあるんですよ。
半世紀以上、サッカーを見続け、愛してきた大杉さん。
多くの役者にとってのお手本となった先輩は、サッカーを愛するファンにとっても偉大な先輩だった。