乃木坂46高山一実はアイドルとして悩み、そして小説という光を見つけた

デビュー小説が17万部を超えた乃木坂46の高山一実がインタビューで語った素直な思い

    乃木坂46高山一実はアイドルとして悩み、そして小説という光を見つけた

    デビュー小説が17万部を超えた乃木坂46の高山一実がインタビューで語った素直な思い

    乃木坂46の高山一実はインタビュー中、テレビで見る、あの人の良さそうな笑顔を何度も浮かべていた。

    違ったのは間だった。バラエティーのように矢継ぎ早には語らず、熟考し、慎重に、丁寧に言葉にする。まるで一文字一文字、清書するように。

    日本一のアイドルグループ・乃木坂46の中でも、最もテレビに出ているメンバー。その活躍は誰もが認めるところだろう。本人を除いては。

    ただ、高山は見つけた。『トラペジウム』。オリオン大星雲の中にある四重星は、初めて書き上げた小説のタイトルであり、やっと見つけた光だった。

    締め切りとの戦いだった小説執筆

    11月28日に発売された高山の初小説『トラペジウム』は発売2か月で累計17万部を超える。出版不況の中、異例のヒットだ。

    読書好きだった高山は2015年から雑誌「ダ・ヴィンチ」で本にまつわる体験をまとめた「乃木坂活字部!」を連載。その中で短編小説に取り組んだことが、長編小説の執筆につながった。

    「他の子がやっていないことを常にやりたいと考えていました。自分がちゃんと、真面目に書いた文章を褒めていただけたのがうれしくって、そう言ってくれるんだったら書きたいと思いました」

    小説では「絶対アイドルになる」と強い思いを持つ主人公・東ゆうが、同じ地域に住む3人の高校生とともに、グループを結成しアイドルを目指す。

    アイドルの物語ではなく、少女たちがアイドルになるまでの過程を描く青春物語。雪解け水のように透みながら、時折ヒヤリとさせる文章でつづっている。

    「朝井リョウさんの小説『武道館』はよくこんなに深く書けるなと思ったくらい、今のアイドルについて書いてくださっていたので、私がアイドル自体を書く必要はない。アイドルの世界の暴露本になるのも嫌だったので、だったらアイドルになるまでの過程を書きたい。それを書くことは実際にアイドルをやっている人でないと難しいかなとも思いました」

    連載は締め切りとの戦いだった。

    グループのメンバーとして、個人のタレントとして忙しい合間を縫って、小説を書き進めていく。

    仲間に食事に誘われても、締め切りがあるからと断る。連載の間、バッグには常に原稿が入っていた。

    「歌番組や雑誌の撮影だったら空き時間に原稿を書けるんですけど、ライブのリハーサルとかぶると難しくて。合間に書こうとすると、すぐ呼ばれるのでなかなか集中できず、書けない。家に帰ってからも、リハーサルの内容をまず覚えないといけない。どこで時間を回したらいいかわからない。でも締め切りは待ってくれない。その時期が辛かったですね」

    アイドルがアイドルを書く。

    読者が登場するキャラクターと高山、そして乃木坂46のメンバーを重ねてしまうのは必然だろう。

    実際に高山と仲の良い西野七瀬は、小説発売に寄せた感想文で「どの人物にも乃木坂メンバーの面影がにじんでいるように感じました」と語っている。

    けれど高山によれば「実はゼロなんです。でも読んでくださっている方はメンバーを連想しているので、そういう意見はすごく嬉しいです」という。

    小説ではアイドルへの強い思いを投影

    一方、自身については物語の登場キャラと重なる部分がある。

    「亀井美嘉は顔面にコンプレックスがあるところ(笑)。私は顔でいじめられてはいないんですけど、ブスとして扱われてきたので」

    そう語った高山は、小学生時代に剣道の大会の閉会式で隣の学校の男子から「おばさん臭い」と言われたこと。高校時代、見た目には気を使っていたが、知らないギャルに「変な服着てよ、太い足してよ」と突然暴言を吐かれたことなど、過去のエピソードを教えてくれた。

    小説の主人公である東ゆうには、より高山の思いが反映されている。

    東が掲げる「SNSはやらない」「彼氏は作らない」「学校では目立たない」というのアイドルになるための心得、さらに帰国子女で英語が話せるという設定は、実際に自分がアイドルになると分かっていたら、やっておきたかったことだという。

    「ただ、東をすんなりとアイドルにさせるのは嫌だったので、性格は私が最も嫌なタイプ。自分の目的のために偽りの優しさで近づいて、それを良しとする、裏表のある人間にしました。本当に嫌な奴にして、痛い目に遭わせようと思っていたんですけど、書いているうちに嫌なやつだけど、だんだん情が湧いてきちゃって(笑)」

    そして高山と東と何よりの共通点は、アイドルになりたいという強い思いだ。

    高山自身、乃木坂46に入る前からアイドルに憧れ、ずっと目指していた。

    しかし理想とするアイドルは山口百恵、中森明菜とどこか陰がある人物。むしろ、陰があることがアイドルと考えていた。

    バラエティーで活躍する今の高山とは正反対だ。

    「だから葛藤はいまだに感じています。小説を書く前の自分には『求められている場所はバラエティーしかない』『それができなかったら、このグループに何も貢献できない』と思ってました」

    「ただ自分はアイドルが好きだから、“こうだったら素敵だな”というアイドル像はあって。アイドルは陽のオーラだけじゃなく、ちょっと陰のオーラがあった方がいいと今でも思ってます」

    同時に高山は自分自身のキャラクターを冷静に見ている。しゃべらない方がアイドルとしては良い場面だと思いつつも、ついムードメーカーを買って出てしまう。

    「性格的にも自分が好きな、自分のなりたいアイドルにはなれないと思ってるんですよ。今のアイドルってメディアで露出している姿だけじゃなくて、裏もメイキングでカメラが回ったりしているから、絶対に本性がバレちゃう。私が中森明菜さんにはなれないのはわかっているんです」

    だからこそ小説の中では、自分が思い描くアイドル。こういうアイドルってすごいよね、というものを描きたかった。

    「改めて自分はアイドルっぽくないなとし、必須な要素は足りていないと思う。だからこそずっと憧れていて。ずっと、こんな風になりたいって。アイドルになった今でもアイドルになった気がしてないし、誰よりもアイドルについて考えている自信はあります」

    アイドルに憧れるアイドル。トップアイドルと言うイメージとは違う、高山の思いが小説には込められていた。

    バラエティー番組では得られなかった自信

    「乃木坂46」の中でも高山は単独でのテレビ出演が多い。

    ここ3ヶ月で出演したのは番組「IPPONグランプリ」「水曜日のダウンタウン」「ジョブチューン」などと人気バラエティー番組ばかり。“お茶の間で一番見る乃木坂46のメンバー”といって過言ではない。

    しかし当の高山本人は「バラエティー番組に呼んでいただく機会は多かったんですけど、それが評価に繋がっているとは思っていなくて」という。

    「乃木坂46の中ではバラエティーで話せる。そこは自信には全く繋がらなかったです。面白いことを言えたことがないですし、手応えを感じた収録でも、ネットで面白いとバズったこともない。バラエティー番組ではゲストというより、ひな壇のことが多いんですが、そこでは芸人さんにはかなわない。みなさん面白いので...」

    高山の顔は、まるで私の代わりはいるとでも言いたげだった。

    バラエティーで活躍できていないと語る高山だが、昨年放送された『オールスター後夜祭18』での有吉弘行との司会ぶりはテレビ業界でも評判となった。

    何も貢献できない人間が番組に出られるほど芸能界は甘くはない。出演本数は評価の表れだ。

    けれど「自分が出ている番組はあんまり見ないです。そこに映る自分があまり好きではない」とまで言ってのける。

    一方、所属する乃木坂46のことを聞くと、口からはメンバーへの憧れがこぼれる。

    「乃木坂46のメンバーって可愛いのに何でもできちゃう。“こいつにはかなわない”って子だらけなんですよ。些細なことですが、白石麻衣ちゃんや西野七瀬ちゃんがすごくいい笑顔で『よろしくお願いします』って挨拶する。愛想も良いし、それでいて素材も良いから、自分はどうしようもないなって思います」

    「生田絵梨花ちゃんはミュージカル女優として活躍していて、歌番組でも一人で歌っている。単純にかっこいいですよね。自分は緊張しいで、マイクを持って一人で歌う時、手が震えちゃったんです。その時はメンバーだけのカラオケ大会だったのに(笑)」

    アイドルについて、常に考えているという高山。乃木坂46のメンバーを見ているとアイドル像の変化を感じるという。

    「アイドルという職業を踏み台に次のステップに行きたい子は、ちょっと前までなら成功してたかもしれないし、ファンの方がその子のことを応援したいと思っていた。でも今は変わってきているなと感じます。うちのグループのみんなは発言がアイドル、アイドルしていなくて面白いんです。数十年後に何したい?と聞かれたら『幸せな家庭を築きたい』と答えるような感じの子が多いんです」

    乃木坂46のメンバーのことを話す時、高山はとにかく嬉しそうだ。よく褒め、彼女たちへの愛情を隠さない。

    だから気になった。自分を褒めてあげないのか。

    「バラエティーへの出演は自信にはつながりませんでした。でも、小説を書き終えた時にやっと自分を褒めることができました」

    アイドルとして前に行くために必要だった小説

    決して小説家になりたいと言うわけではない。高山はアイドルであるために、小説を書くことが必要だったと言う。

    「小説を出したかったからアイドルをしているのではなくて、アイドルとしてもっと前に行きたいから小説を書けたと思っています」

    「私はアイドルという職業が好きなんです。いろんな人の人生に関われる。小説の中でくるみというキャラはそれが嫌だというけれど、私はそれが好きだからアイドルでいたい。たくさんメンバーが卒業しましたし、寂しいけれど、自分が辞めようとは思わなかった」

    思い描いたアイドルとは違うのかもしれない。けれど小説について語る高山の姿は輝いてみえる。

    同年代の女の子に特に読んでほしいと語る初小説は大ヒット。当然、次回作を望む声は上がる。

    「でも今は自信がないです。テーマは定まっていないので。書きたいって気持ちが自分に芽生えるかどうかなんですけど、全部書きすぎちゃったんですよね。自分の思っている部分を」

    前に進むために必要だったという小説執筆。アイドル高山一実の先には一体、何があるのだろう。

    「現状ではアイドルの先にあるものはないです。見つかっていない。人生において、自分のためにやることはアイドルが最後でいいかなって思っています。あとは誰かのために生きられたら」


    <高山一実(たかやま・かずみ)>

    1994年2月8日生まれ、千葉県南房総市出身。2011年8月、乃木坂46第1期メンバーオーディションに合格。2016年4月より雑誌『ダ・ヴィンチ』にて小説『トラペジウム』の連載を開始。本書が小説デビュー作となる。