「奈良のおばあちゃんと再会できました!」と先日、嬉しい報せが届いた。
送り主はアイドル「ミライスカート」の児島真里奈さん。おばあちゃんとは、奈良のフェスで出会い、児島さんの心の支えとなった女性のことだ。
名前も聞けなかったおばあちゃんを探していた児島さんだが、7月26日に再会できたという。
小さな物語が、SNSと人の優しさによって、ハッピーエンドを迎えた瞬間だった。

物語の始まりは、今年4月28日から3日間、奈良のショッピングモール「ミ・ナーラ」で開催されたアイドルフェスだった。

イベントは「タイムテーブルが『18:25~15:45』」「着替えはトイレ」「トリなのにライブできずアイドルが泣く」とあまりにずさんすぎ、皮肉を込めて「伝説」と呼ばれた。
18/04/28 NARA MINARA IDOL FES 普通ののマイクで、 狭いステージで5人が歌って踊ったら、とうぜんこうなりますわなあ! #LeSiana #ミナーラ
児島さんも2ステージの予定が、当日発表されたタイムテーブルには1回しかなかったりと、被害に遭ったアイドルの一人。
それでもファンのためにと、なんとか主催者に頼み込み、別の場所でライブを行った。
すると、客席にはたまたまショッピングモールを訪れていた老夫婦が楽しげに盛り上がる姿があった。
ライブ終了後に声をかけると、おばあちゃんが「すごいよかった。ええもん見せてもらった」と瞳を潤ませていた。その言葉に児島さんも泣いた。
地元奈良出身というおばあちゃんは翌日夜7時からのステージにも、再び駆けつけた。
「私に会うために午前中から一日中探してくれて...。タイムテーブルの存在も知らないし、Twitterもわからない。スタッフに聞いたら『もう、終わって帰りました』って言われて。それでもめげずにおじいちゃんと一緒に探してくれて」
「おじいちゃんは途中で疲れて帰ったけど、おばあちゃんは最後まで残って探してくれて。『歌声に感動した』と言ってくれて、2人で泣きました」
キャビンアテンダントの夢を捨てて、大学4年でアイドルの道に進んだ児島さん。

「ミライスカート」は今でこそ一人だが、もともとは4人のグループだった。
メンバーが2人脱退し、追加メンバーを募集していた矢先の2017年6月、マネージャーから「この日でミライスカートは辞めます」と一方的に告げられた。
以後、ソロとして「ミライスカート」を続けたが、ギャラ交渉から物販の管理まで一人で行う日々は苦労の連続。めげる時もあった。
しかし「おばあちゃんに会えたあの時、ミライスカートを続けていて本当に良かったと思いました」と自分の進んだ道を心から肯定できた。
児島さんとおばあちゃんの記事は、SNSを通して多くの人の感動を呼んだ。

ただ児島さんにとっては心残りがあった。おばあちゃんの名前を聞けなかったこと。そして自身のCDを渡せなかったことだ。
もう一度会いたいと願ったが、ライブ後に名前も聞けず、唯一の手がかりは演歌歌手・石原詢子さんの追っかけをしていることだけ。
そんなとき、ネットを通じて児島さんの話を知った石原さんが、SNSを通しておばあちゃん探しに協力してくれた。
すると奈良で出会ったおばあちゃんを見つけることができた。
「奈良でお会いしたのは私です」とおっしゃった方がいらっしゃいました! 先日の大阪のイベントにお越しくださいました方でした! https://t.co/cGCapaFwSW
「見た瞬間、ミナーラでの嬉しかった出来事が頭の中で再生されて涙が止まりませんでした」
おばあちゃんに再会するため、石原さんの関西でのイベントを訪れようと思った児島さんだが、会えるタイミングは9月以降。
おばあちゃんに忘れられないのかと少し心配になった。
だが、再会の時は秋を待たなかった。

7月26日。児島さんも参加した、京都と奈良の県境のショッピングモールでのイベント。
本番前に「真里奈ちゃん!」と声をかけられると、目の前には奈良で出会った、あのおばあちゃんの姿があった。
「嬉しくて涙が出ました。ミナーラでの出来事を知っているミライスカートのファンの人たちも来ていたので、おばあちゃんとの再会を近くで見守ってくれていて、みんな拍手してくれました」
ライブが始まると、おばあちゃんは終始笑顔で手拍子。児島さんも、幸せをかみ締めながら歌った。
ライブが終わると、おばあちゃんは突然ステージの前に来て、花束とケーキを渡した。
「今までこんな体験をしたことがなく、嬉しいサプライズでした。忙しい中、用事の合間をぬって会いにきてくれた上に、花束やケーキを選びに行ってくれた。おばあちゃんの気持ちがすごく嬉しくて、また涙が出そうになりました」

おばあちゃんによれば、石原さんの声がけやネットの反響で、児島さんが自分を探していることを知ったと、児島さんの情報を知るためにTwitterも始めた。
「Twitterの内容も全部知ってくれていて、その日私が着ていた衣装について、『この衣装ママが作ってくれたんやんね?』って言ってくれて。本当に一日に何度も見てくれているそうで、いいね!もしてると言ってはりました」
児島さんが会いたがったいることは、おばあちゃんにも伝わっていたが、ライブが行われるのほぼ夜で、なかなか駆けつけられなかった。
この日、昼間のイベントがあると知って、忙しい合間をぬって、ショッピングモールまでやって来ていた。おばあちゃんもまた、児島さんに会いたいと思っていた。
児島さんが自身のCDを渡し、改めて感謝の気持ちを伝えると「真里奈ちゃん、これからも応援してるからね」「頑張ってよぉ」「また必ず寄せてもらうから」と何度も固い握手をした。
「平日の昼間からイベントに出演するアイドルって多くはないと思います。ですが、私の目標は老若男女問わず愛されるアイドルでいること。これからも平日の昼間のイベントやショッピングモールなど一般の方々にも見てもらえるイベントにも積極的に出演できたらいいなと改めて思いました」
きっかけは酷すぎて「伝説」と呼ばれたイベントだった。けれど、それはアイドルにとってけして忘れられない物語となった。
人の優しさが紡いだ、小さく幸せな縁。たぶん、それを人は「奇跡」という。
