「爆買いで日本好き増えた」“上海でもっとも有名な日本人”が語る中国の変化

    映画界でも日本人需要が増加


    「中国との関係をひと言でいえば腐れ縁ですね」


    彫りの深い顔立ちに笑顔を浮かべながら小松拓也はそう語った。2007年、中国のオーディション番組「加油!好男児」に出演し、一躍人気タレントとなった。「上海でもっとも有名な日本人」と呼ばれ中国芸能界で成功した数少ない日本人だ。

    昨年から自らプロデュースする舞台「Team Moshimoshi?」を上海でスタートさせ、日中のパフォーマーが参加する第2回公演を6月28日から7月9日に再び上海で行う。


    18歳に台湾に留学して以来、20年以上中華圏と付き合いのある小松は、いま、急激に中国人の中で日本好きが増えていると感じている。


    「『爆買い』で来日した中国人が清潔さやサービスの良さに心を打たれ、ほとんどの人が日本好きになっているんです。中国版Twitterのweibo(微博)でも『なぜ日本のようなことができないのか』と議論も頻繁に起こっている」


    日本への評価が中国人の内面も変化させている。


    昨年、超高層ビルなどハード面での成長が目覚ましい上海で小松を驚かせる光景があった。


    「以前なら中国では値段=サービスの格差だったのが、夏に上海を訪れたら100円のテイクアウトコーヒーのサービスがすごく良くなっていた。2010年の上海万博のころは日系企業がオリエンタルランドから人を呼んで指導しても全く変わらなかったのに(笑)。経営者だけでなく、普通の人も爆買いで日本に触れて、これじゃだめだと自発的に変わってきている。以前なら上海でもOLさんの化粧をしている人は3割くらいだったけど、今はほとんどしている。街を歩いてもソフト面での変化を肌で感じます」


    中国の芸能界、映画界でも変化がみられる。


    中国映画で日本人といえば残虐な日本兵を描く「抗日映画」がまず思い浮かぶが、中国人自体が日本人=悪という描き方に飽き、視聴者離れが起きている。近年では日本兵の人間性にフォーカスした描き方も出てきた。



    中国では2010年ころから映画市場が拡大し、いまやアメリカに続く世界第2位の市場。国策として映画産業に国家予算がつき、大量の資金、CGなどハリウッドの最先端技術や映画スタッフが流入。「ハリウッドが入ることで抗日映画のような映画ばかり作ってもだめだという流れも出てきました」。


    中国のトップクラスのスターは映画1本のギャラが10億円、小松と同じオーディション番組を受けた人間もドラマ1本5億円と破格のギャラを得ている。


    急成長する中国映画界や芸能界では日本人俳優への需要がかつてないほど増えており、中国に進出する日本人も増えているが、成功の糸口をつかめているものはいない。


    「中国の芸能界では誰の紹介なのかと有力者とのつながりを重視するので、入り口となる人がすごく大事。ただ日本人はなかなかこういった人との人脈を作れない。僕らの舞台にジョイントしてもらうことで、例えば中国の映画監督さんに見てもらったり、現地のテレビに映ったりときっかけを提供できると思っています」


    役者だけでなく、28日に行われる上海の舞台初日の日本人司会者の座を賭けたオーディションを、現在SHOWROOMで開催。当日の模様は上海テレビの日本語放送番組「中日新視界」で放送されるため、中国進出への足がかりにもなる。


    舞台以外の中国との協力も考えている。


    韓国は俳優やミュージシャン、映画監督が中国に進出し、中韓合作の映画やドラマも数多く作られている。代表的な作品は日本でも人気となったラブコメディー映画「猟奇的な彼女」の続編で、中韓合作で製作された映画「猟奇的な2番目の彼女」だ。アメリカやフランスなども積極的に中国に進出する中、日本は目立った動きができていない。小松はいま中国資本による日本映画の製作の企画も進めている。


    「日中友好は僕の信念、核なんです」

    中国への思いを語る小松だが、けして同地での活動が順風満帆だったわけではない。


    「加油!好男児」に参加した際にはブログに反日の中国人から心無い誹謗中傷を受け、2012年の尖閣諸島国有化後の日中関係悪化で中国での仕事をすべて失ったこともあった。それでも中国での活動に目を向けるのには、自身を芸能人として独り立ちさせてくれたことへの感謝と、一般の中国人の気持ちを日本の人に伝えたいとの思いがある。


    「オーディションの際にブログには批判の声もあったけど、別の中国人が『そんなことして何になる。大事なのはこれから前を向くことだろう』と発言し討論になっていた。尖閣問題の時も『俺は中国人で中国企業にいるけど、少なくともあの島は俺のものじゃない。だからいま騒いでいたって関係ない』と言ってくれる人もいっぱいいた。メディアで流される反日だけが中国人の声ではないんです。自分が感じてきた中国の一般の人の気持ちをもっと日本の人にも知ってほしい」


    3度目の中国での舞台もすでに予定され、日本への逆輸入も検討している。日中両国のパフォーマーによる舞台を通して、互いの国への理解を深める。ライブを通した日中友好を小松はいま、思い描いている。