ジャンプ漫画を映画にするならどの作品? 福田雄一監督、新井浩文さんに聞いてみた

    「斉木楠雄のΨ難」の裏話、ジャンプ作品の醍醐味とは?

    2017年大ヒットした「銀魂」の次作で、同じ少年ジャンプ原作の作品。周囲のプレッシャーや期待はあるか聞くと「うーん、感じないですよ」と笑う。

    福田雄一監督にとって「斉木楠雄のΨ難」は自ら企画を持ち込み、4年前から福田監督が進めてきた念願の作品だ。「銀魂」「斉木」と続けてことでの変化は?

    2作連続で福田作品に出演した俳優・新井浩文とともに、ジャンプ作品、そして笑いを取り扱うことの面白さを聞いた。

    なぜ「銀魂」と同じキャストが多い?

    ——新井さんは「銀魂」で演じた岡田似蔵でフラストレーションが溜まっていたとホームページで語っていましたが…。

    新井:もちろんネタで言ってますよ(笑)。今回は福田組の笑いで、しかもボケ中のボケ。毎日、たのしーたのしーって言ってやってました。

    福田:撮影は銀魂の直後で、僕はテンションが違ってました。連続だから楽しかった。

    ずっと似蔵をやってた、新井くんが燃堂をやっているかと思うと何より楽しい。吉沢(亮)くんも橋本(環奈)さんも「銀魂」から一緒なので、そういう楽しみはすごくあった。

    「銀魂」を撮り終えて、「斉木」に入る際に完全に頭を切り替え、ゆるくしなければいけないと思った。面白いことがあったらポンポンやっていこうと。その切り替えは意識的にしました。

    新井:うちも「銀魂」の直後でゆるゆるでしたもん。それまではバッキバッキにやってたけど、こっちだと「あー」って(笑)

    福田:その切り替えを見ていて楽しかったなあ。銀魂でストイックに戦っていた新井くんがこんな感じというのが、面白くってハイになっていくんですよね。

    ——新井さんに、橋本環奈さん、吉沢亮さん、ムロツヨシさん、佐藤二朗さんと「銀魂」に出演したキャストが多いですが、あえてですか?

    福田:この間、第三舞台の鴻上尚史さんと対談させてもらったんですけど「福田くんはやっぱり考え方が劇団なんだね」って言われて。

    僕はやっぱり好きな役者さんとお仕事をしていくのがすごく好きなんですよ。きっと仕事って考え方がない。

    「斉木楠雄のΨ難」をやることになりました。燃堂をやります。これは、新井くんしかないわと。海藤瞬は吉沢亮にぴったりだと思ったし。こっちの役者さんの方が人気があるから良いという考えが一切ない。

    単純に好きな役者さんと面白い映画が作れればそれでいいというところがあるんだと思います。

    役者・新井浩文の魅力

    ——監督が新井さんの好きなところはどこですか?

    新井:(笑)

    福田:新井くんの笑いをとる手段、笑いの手札を僕が持ってないところですね。

    新井:映像で一番難しいのって、笑かすことなんですね。泣かすとか、その人を不快な気持ちにさせるとかはいくらでもできると思うんです。変な話、子猫を殺したら大体の人は泣くんですよ。変な話ですよ。

    そんくらい泣かすのは簡単で。でも、笑かすというのは好みがあるじゃないですか。うちは、自分が面白いだろうと笑かしにかかるとダメなんですよ。絶対に寒くなる。それはわかっているんですよ。

    だから、いかに生々しく、その場でいる人をスーッとやるかがテーマで。福田さんのところにはなかなかそうしている人がいないんですよ。

    福田:割と僕はガチガチに作り込むほうなので、スーッと入ってくる笑いが引き出しにはないんです。

    新井くんのその演技を最初に見たのは菅田将暉くんが主演した映画「明烏」(2015)、いわゆるチンピラの役だったんですよ。チンピラって僕の中では「おい、こらワレ」な感じのものであったわけなんですよ。

    で、新井くんはどんな感じでやってくれるのかなと段取りの芝居を見たとき、完全なチンピラの格好なんですけど、めっちゃ普通だった。そのアプローチで来られたとき、なんてすごい笑いなんだと思ったんですよ。

    燃堂もチンピラと一緒で面白いことを言って当然というキャラなんですけど、すごく自然体で笑いにできるのは、僕の知ってる中では新井くんしかいない。(佐藤)二朗さんでもムロくんでも違うし、こういう種類の笑いが欲しいときは新井くんに声をかける。

    ——燃堂のモヒカンを地毛でやるのは新井さんからの提案なんですか?

    新井:完全にこれは地毛じゃないとだめ。かつらでやって何が面白いのと。まゆも全部そるし、剃りもモヒカンも地毛でやらしてくださいと言いました。

    福田:そうなると熱くなるじゃないですか、こっちも。実際に見て、すげえと思ったし。

    新井:うちも思いました。あれ、燃堂じゃんって(笑)。現場でメイクさんと福田さんとああでもないこうでもないと作りましたね。

    現実で漫画を完璧にやるのは難しい。麻生先生の絵で剃りが繋がっているときと中途半端な日があるんです。漫画だから毎回違うんですけど、どっちなんだよと(笑)

    福田:正面からみても、斜めからみても、横からみても一番のいい頃合いを探らなければいけない。それでいうと燃堂の剃りと、楠雄の頭のアンテナの位置は難しいんですよ。

    ——監督から演技での指示はありましたか?

    新井:最初に廊下でしゃべるシーンでもっとゆっくりしゃべってくれ。一回演技をつかむと、うち、すごい早いんですよ。あとは付け足しの笑い。例えばおっふするとき、みんなでジャンプしているのとかは台本にはない。

    福田:燃堂がおっふし続けるのも台本にはない(笑)。

    新井:照橋さん(橋本環奈)が斉木を見てるんだけど、燃堂が見られていると勘違いしておっふしているのは、足しですね。あと笠原くんにカンチョーするところも。

    福田:僕はお化け屋敷に入ろうとしておっふするシーンはすごく好きですね。燃堂っぽい(笑)

    ゴールがない「笑い」の難しさ

    ——以前のあるインタビューで、監督は感動よりも笑いをずっとやりたいと言っていました。

    福田:笑い以外のことをやりたくない。やめられないんですよ。新井くんが言ったように、笑いは千差万別。泣きのポイントは4ポイントくらいしかないと思うんですけど。でも、笑いは人それぞれ。だからゴールがないんですよ。

    僕はいつも舞台を客席で見るのが怖いんです。みんながドーンと笑う中で、斜め前に笑っていない人が1人いるだけでものすごいダメージ。舞台はぜったい見ないとダメ出しもできないからしょうがないけど、自分の映画をお客さんと見たことは一度もないです。怖いんです、とにかく。

    でも、全員が笑うことは100%ないんだけど、そこをゴールに据える。だからやめられないんですよね。

    新井:出ている側も似ているところがあって、人と見るって好きじゃないんですよ。本当はこっそりみたい。この間、珍しくマスコミ試写にいったら満席で、燃堂のところで一番どかんと笑いが起こったんですよ。うれしいけど、すげえ恥ずかしかった。

    俳優部でいうと、ムロさんや二朗さんは空気を作ってるから、何をしてなくても出てきただけで笑いが起こる。だけど、作ってる側にとってはその笑いがいらなかったりするときもあるじゃないですか。だから難しい。

    ジャンプ原作の醍醐味とは?

    ——福田監督は「銀魂」「斉木」そして「HK 変態仮面」とジャンプ漫画を3つ映画化。新井さんもジャンプ原作の映画に数多く出演してますが、ほかの漫画原作ものとは気持ちが違ったりしますか?

    福田:やっぱり光栄です。子供のころから読んできた漫画だし、映画化できる何が喜びかというと、ジャンプはオールエイジというのをずっと言っていて。わからない人がいてよいというのが一切ないんですよ。

    万人にわかってほしいというのが僕のポリシーだから、ジャンプというのは一番いい題材ですよね。

    太秦で銀魂のロケをやってたらこんなに小さい子が「銀ちゃん、銀ちゃん」と追いかけてくる。新井くんが一回、僕にLINEをくれたんですけど、ロケの現場で子役に燃堂やるといったらすごく従順になったって。

    新井:別に悪い子じゃないんですよ。それまで「え~、そうなの」みたいだったのが「おじさん、燃堂やるんだよ」って言ったら「えっ、本当ですか」って急に敬語になって。そんなに破壊力がある(笑)。

    福田:それが少年ジャンプの醍醐味。

    新井:うちはジャンプが大好きだからとってもうれしい。きょう、朝考えたんですけど、少年ジャンプって出てくるキャラが若い。もう少しで役ができない歳になる。

    だから寂しいなと思って。今の面白い漫画も設定が小学生とか中学生。下手したら少年ジャンプ、最後かもしれないですね。

    ——もしジャンプ作品をなんでもいいから映画化できるとしたら何をやりたいですか?

    福田:なんだろう。

    新井:先週号で、1週で打ち切りになった漫画があるんですよ。3ページくらいで。漫☆画太郎先生の「珍ピース」っていう。あれもありですね。

    ——漫☆画太郎先生の実写化とかは。

    福田:僕は合わないと思います。いわゆるおバカ丸出しは合わない。僕の究極に好きなのはやっぱり島本和彦なんですよ。

    本人はいたってまじめなことを言っているんだけど、セリフ自体はすごくくだらなく、ものすごいシリアスに描いているけど笑いしかないというのが究極に好きなポジション。少年ジャンプは案外そういう作品がない。

    なぜかというと少年誌だから。少年にはあの笑いはちょっとクッションが多すぎてわからないと思うんです。

    ——福田さんの求めるオールエイジと島本さんの笑いの両立は難しいですね。

    福田:そうなんです。変態仮面はパンツかぶってちんこしか隠れてないですから、あいつがボケセリフをいったら終わりなんです。変態仮面はだから絶対ぼけたことは言わない。かっこいいセリフしか言わない。だけどパンツをかぶってるっていう笑いにして、そこが成功した作品だと思うんです。

    そういう意味では少年漫画の笑いはギャグ、ギャグじゃないですか。だから島本さんの「アオイホノオ」とは頭身が違う。ギャグ漫画はだいたい2頭身。いわゆる8頭身のギャグ漫画ってないんですよね。逆にだから「銀魂」は合っていたんだと思います。

    ——そういう意味では「斉木」も合っている

    福田:そうですね。逆に昔のジャンプは難しい。

    ——最後、映画の見どころを教えてください。

    新井:うちはどの作品でも見どころは全体と言っているんですけど、今回は橋本ちゃんの顔芸。橋本環奈はやばいです。

    福田:彼女も銀魂の流れでハイな状態になってましたよね。だからメリットしかない。もう少し時間が空いていたら違ってたかもしれない。

    この映画は僕個人でいうと山崎賢人が今までやってきたことのセルフパロディだと思ってるんです。いきすぎたラブコメ。そこをラブストーリーとしてみてほしいと思ってます。

    宇宙一かわいいと思っている女がまったくひれふさない男のために四苦八苦するラブコメはなかったですから。そういう見方で見てほしいです。


    【ふくだ・ゆういち】

    1968年7月12日生まれ、栃木県出身。90年に旗揚げした劇団ブラボーカンパニーで座長を務め、舞台の傍ら放送作家、その後はドラマ、映画の監督、脚本を務める。近年ではドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ、「アオイホノオ」、映画「HK/変態仮面」「銀魂」の監督を務める。

    【あらい・ひろふみ】

    1979年1月18日生まれ、青森県出身。2001年デビュー。映画「青い春」で第17回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。以後、演技派俳優として「アウトレイジ ビヨンド」「百円の恋」など数々の作品に出演。また酒好きとして知られ、日本の酒場をめぐる「美しき酒呑みたち」のナビゲーターも務める。

    BuzzFeed JapanNews