任天堂のゲームのおかげで、15年間抱えていた謎がとけた話

    アニメのタイトルと商標の関係

    まだ学生だったころ、僕は週刊少年サンデーで連載された皆川亮二さんの漫画「ARMS」のファンだった。

    「不思議の国のアリス」をモチーフに“ARMS”と呼ばれるナノマシン兵器を移植された少年、少女たちが葛藤しながら、運命に立ち向かっていく。

    人の足を停めるのは"絶望"ではなく"諦観(あきらめ)"… 人の足を進めるのは"希望"ではなく"意志"

    なんで世界を敵と味方の二つだけに色分けして考えるんだ!疲れんだろ、そーゆーの!

    などなど、シビれるセリフの宝庫。大人になっても読み返し、そのたびに勇気づけてくれた。

    そんな「ARMS」には一つ疑問があった。

    2001年に「ARMS」がアニメ化する際、タイトルに「PROJECT ARMS」となぜか「PROJECT」という言葉がついていたからだ。

    もともとの「ARMS」という名称を考えると、明らかに語呂が悪い。

    劇中「ARMS」という存在を中心に物語が回ることを考えても、まるでしっくりこないなと思っていた。

    とはいえ当時インターネットはあったもののSNSはなく、こうした小さな話題に言及する人もメディアもない牧歌的な時代。

    特にタイトル変更の説明はなく「PROJETC ARMS」という名称はアニメだけでなく、ゲーム、さらにアニメ声優によるバンド名にも使われ、アニメは2002年春には終了した。

    それから15年たった2017年、任天堂から「ARMS」というゲームが発売された。

    漫画「ARMS」とは明らかに違う対戦バトルゲーム。6月の発売を前に、ネット上ではプロモーション映像など、さまざまな事前情報が流れた。

    ゲーム自体は面白そうだったが「ああ、若い子にとっての『ARMS』は漫画ではなく、このゲームになるのだな」と寂しさもこみ上げた。

    そんな時、漫画「ARMS」で原案協力をしていた七月鏡一さんが次のようにツイートしていた。

    なお、余談ながら「PROJECT ARMS(プロジェクトアームズ)」は「ARMS」映像化の際に、商標登録の問題で出版社から相談されてこちら側から提示したタイトル案の一つです。

    なるほど、商標登録の問題で漫画「ARMS」はアニメ化で名称変更をしたようだ。

    しかし、ここで疑問が浮かぶ。

    任天堂はゲームを作る際、グッズ展開を考慮するはずで、商標登録が取れない名称のゲームをわざわざ作るわけがない。

    では、なぜ任天堂は「ARMS」の名前を使えたのだろうか。

    任天堂に問い合わせたが、残念ながら「回答は控えさせてください」とのことだった。

    商標登録を調べると...

    そこで商標を検索できる「特許情報プラットフォーム」を調べると、「ARMS」という商標を最初に取っていたのはヤマハ株式会社だとわかった。

    出願日は1989年11月29日。四半世紀も前だ。

    そして任天堂も商標登録している。出願日などはヤマハのものと全く同じだ。

    この任天堂の登録を見て、ネット上では30年近くも前から「ARMS」を商標登録していたとの情報が拡散したが、これは間違い。

    特許庁によれば「『ARMS』の商標はもともとヤマハが取得したもので、任天堂はその権利を一部移転したと思われます」という。

    よく見るとヤマハの登録番号は「第2706684号の1」、任天堂の登録番号は「第2706684号の2」となっている。

    「ARMS」の登録情報を詳しく見ると「家庭用テレビゲームおもちゃ」「おもちゃ、人形」の区分に関して、2017年2月にヤマハから任天堂に権利移転が行われていることがわかる。

    任天堂はこの権利移転により「ARMS」の名称を使えたのだ。

    なぜ「ARMS」は「PROJECT ARMS」になったのか

    話は再び漫画「ARMS」に戻る。

    これまでの情報をまとめると、ヤマハが28年前に「ARMS」という商標を取っていたため、アニメの名称変更をしたと推理できる。

    アニメ「PROJECT ARMS」を製作したのはアニメ制作会社「トムス・エンタテインメント」。

    名称変更について問い合わせると、トムスの担当者は「アニメ化の際に、『ARMS』という商標は抑えられており、アニメ含めて商品を展開する際に商標登録できないため名前を変えました」と回答。

    予想通り、ヤマハの商標登録があったため「ARMS」はタイトル変更されていた。

    「魔法使いサリー」も商標の問題でタイトル変更

    またトムスの担当者は「商標登録のタイトル変更は、アニメ化の際にはたまにあること」とも教えてくれた。

    調べると古くは「魔法使いサリー」。もともと「魔法使いサニー」だったが、アニメ化の話が持ち上がった際に「サニー」の商標をソニーがもっていたため、原作漫画ごとタイトルが変更となった。

    2003年にフジテレビで放送されたアニメ「金色のガッシュベル!!」も商標上の都合で変更となっており、原作漫画のタイトルは「金色のガッシュ!!」だ。

    トムスの担当者によれば、アニメの海外展開にする際に現地で変更することも多いそうだ。

    ゲーム「ARMS」の発売で、15年間わからなかった「PROJECT ARMS」への名称変更の理由を知ることができた。

    きょうは家に帰ったら、ひさびさに「ARMS」を読み返そうと思う。