「ドームライブ、紅白出場が最低ラインだった」小林愛香が語るAqours、そして個人の夢

    ソロ写真集「愛香」も好調な小林愛香の過去、現在、未来

    東京ドーム公演、紅白歌合戦への出場。国内の音楽シーンでこの2つを達成すればトップアーティストと言えるだろう。

    小林愛香は2018年、アニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の声優によるグループ「Aqours」の一員として、その2つの夢を叶えた。

    安室奈美恵に憧れた少女はいかにして大舞台に辿り着いたのか。ソロ写真集「愛香」も好調な小林の過去、現在、未来を聞いた。

    アニメに出演した声優によるグループ「Aqours」だが、みな本職の声優というわけではいない。

    小宮有紗は戦隊ヒロインを務めた女優であり、高槻かなこは歌手。そして小林自身も歌手として17歳でデビューした。声優は「ラブライブ!サンシャイン!!」が初めてだった。

    「小さい時から歌うのが好きで、踊るのが好き。もともと安室奈美恵さんに憧れていて、いつか安室ちゃんのようになれたらと、気づいた時には歌手を目指していました」

    小学校からダンススクールに通い、歌手を目指した小林は、2011年にアニメ「フリージング」のエンディングテーマ『君を守りたい』でデビューした。

    そのデビューから1か月ほどがたった2011年の3月11日、東日本大震災が起こった。この時の体験が、小林の歌手としての原点となった。

    「3・11の時に私は何もできない。布団にくるまるくらいしかできないなと思っていたんです。そんな時、一人のファンの方がSNSを通して連絡をくれて」

    連絡をくれたファンには、被災した友人がいた。

    「ちょうど『君を守りたい』という曲が出た時期。その友人の方が曲を聴いて、『頑張れって言ってくれている気がする』と言っていたことを教えてくれて。『友人に勇気をくれてありがとうございました』とメッセージをくれました。ああ、これが私の歌う意味だと。今までやってきたことの答えが出た瞬間でした」

    この思い出を語り始めると、小林は泣き始めた。7年が経っても、あの時の気持ちは変わっていない。

    デビューから1年後の2012年にはシングル『future is serious』もリリース。しかし、その後数年は歌手として目立った活動はなかった。

    小林いわく「やりたいのにやれない。自分の中ではくすぶっていた時期」。ただ諦めず、いつかチャンスがあれば、それは逃がさないようにしようと思っていた。

    歌手とともに小さい頃から保育士になるのが夢だった。

    「保険とかじゃなくて、この活動をやりつつ、保育士の免許を取ろう。2つの夢を諦めないようにしようと思っていたんです」

    そのために通っていた専門学校も2014年には卒業。祖母からは保育士の求人をポンと置かれ「まだ使わないから大丈夫」と断った。

    何かを変えなければと思った時期。

    それまで、何度か声優のオーディションを事務所の社長に勧められたが「全然声に自信がなくて、無理ですと断ってきた」。だが、この時は受けようと思っていた。

    2014年、社長から声優オーディションの話を勧められた小林は「受けてみようと思います」と了承。どんな作品なのか聞くと、社長からは「『ラブライブ!』というシリーズの作品なんだが、知ってる?」と返された。

    「すぐに『知ってます』と返しました(笑)。自分の中では凄く挑戦だったんですけど、これはチャレンジだし、チャンスで、掴み取らなければいけない。このタイミングでしかできないことなので、精一杯やろうと思いました」

    オーディションには合格。小林は津島善子を演じることになる。

    初めて挑戦した声優で、小林は自分の声の新しい可能性を知った。

    「自分がいろんな声が出せることがわかりました。それまで歌った歌はクール系で、アイドルチックな歌が自分では得意だと思っていなかったんです。そんな声が出るとすら思っていなかったので」

    津島善子は「堕天使ヨハネ」を自称する中二病の性格で、ヨハネの時と善子の時で声を使い分ける必要があった。

    「ヨハネと善子では声が全くガラッと違うので、2人を演じているみたいです。要素をちょっとずつ入れつつという塩梅が難しかったので、一緒に考えながら」

    「声優をやらせていただくようになってからは自分の声が好きになったし、もっといろんな声に挑戦できるのかもと思うようになりました。」

    「Aqours」としてのステージでは、これまで小林が培ってきた歌であり、ダンスも活きる。

    「今はこんな夢見たいな職業があったんだって感じています。もともとアニメにも興味があったし、歌って踊るのも好きだし、演じるというのは自分には分からなかったんですけど、やってみると楽しくて。どんどん勉強したくなる。踏み込んでいきたくなる」

    「それはヨハネがいるからなんです。どんどん愛される子になってほしいから、自分自身が高めていかないといけないと思います」

    「Aqours」の活動で、憧れた安室奈美恵と同じ場所に立てるのも嬉しかった。

    「横浜アリーナには、出演したアーティストの名前が刻まれているんですけど、そこに安室ちゃんの名前がある。そして私たちの名前も刻まれるのだと思ったら嬉しくて。そして東京ドームでのライブに紅白。安室ちゃんの軌跡を辿っているんですよ」

    「紅白に出場できることは『Aqours』が頑張った証。出場の知らせはメンバーみんなで聞きました。いつも見ないような偉い人たちが来て。まさか、まさかってなった後に出場を聞いて。嬉しかったです」

    ありがとうがいっぱいで。 だいすきが溢れて、止まらないよ! まだまだみんなと一緒にいたくて、明日になるのがちょっぴり寂しいです。 本当に夢の舞台に立たせてくれてありがとうございました😊 またみーーーーんなで帰ってきます!!!!!!!!!! #lovelive

    東京ドームでのライブ、そして年末の紅白歌合戦。ともにアーティストが夢見る大舞台が決まり、達成感はあるのか聞くと、「ずっと夢見た舞台」と前置きしつつ意外な答えが返ってきた。

    「でも私たちって、最初からドームでのライブ、紅白出場を求められたと思うんです。それが最低ラインというか。そこに立たなければ、その先もない。私たち的にはそこがスタートライン。大人には東京ドームは通過点とを言われていました」

    確かに先輩にあたる「μ’s」は2015年に紅白出場し、翌2016年には東京ドームでライブを行っている。

    その後輩にあたる「Aqours」が期待を集めていたのはわかっていたが、スタートラインと考えていたことには驚かされた。

    「今、その通過点と言われたところに立って、新しい夢がどんどん生まれています。また東京ドームに帰ってくるという夢だったり。また、紅白に出演させてもらえばそれが夢になるかもしれないです」

    では、小林愛香個人の夢はどうか。

    小林は今年の春ごろから自分の将来についてよく考えるようになったという。

    「2017年末に『ラブライブ!サンシャイン!!』の2期が終わり、一つ区切りができて。彼女たち(作品内のキャラ)が夢を叶えていく中、私も叶えなきゃと思ったんです」

    「それまでもこの先のことは考えていましたが、今はできることの幅が広がって、考えていることがガラッと変わりました。いろんな可能性を知ったので。色々できるんじゃないかというワクワク感とみんなにどうやって届けていこうかという思いが色々膨らんできてます」

    その一つが今回の写真集のリリースだ。

    「色校、写真選定と最初から関わらせていただいたので、本になったことがうれしい。写真集は黄色、赤、青と色をテーマにしたいという思いがあって、スタイリストさんと一緒に選んだ衣装もこだわり。私を知らない人にも見てほしいし、写真集を見て、どんな人なんだろうって思ってほしいです」

    「こんな写真集が出るなんて、ファンクラブができるなんて以前は思っていなかったので、今は日々嬉しさでいっぱいです」

    個人としてやりたい仕事には一つの共通項がある。

    「いろんな形でみんなに寄り添えたらいいなと思ってます。歌だったら耳から入る情報で、写真集だったら表情で頑張らなきゃと思ってもらえるし、お洋服のデザインでも、その服を着ることで強くなってもらえる。本当にいろんな寄り添い方がある」

    「もともと保育士の勉強をしているときに、寄り添うことの大切さを学んだんです。言葉が通じなくても、寄り添うことはできる。だから、そこに関して、今まで学んできたことも無駄じゃなかったなと思います」

    震災で、小林の歌に勇気付けられた人は今も、彼女の歌を聞いているだろうか。

    「きっと今も聞いてくれていると思います。信じています」