さようなら「VHS」 国内最後のメーカーが語る、33年間の苦闘と誇り

    33年の歴史に幕。

    日本で唯一、VHSビデオデッキを生産していた船井電機(大阪府)。7月、ついに生産終了をした。

    生産終了の経緯、いまの胸中は。BuzzFeed Newsは、船井電機を訪ねた。

    やむを得ない、生産終了

    同社は、1983年からVHSビデオデッキの製造・販売を開始。2000年代にはピークで月産180万台を達成。年間1500万台以上を販売した。

    しかし、DVDやBlu-rayの登場とともに、市場は縮小。昨年は75万台にとどまった。

    「撤退するメーカーさんが増えていき、核となる部品を製造するメーカーさんも減少。部品の調達ができなくなったのが、生産終了の大きな要因です」(佐治さん)

    VHSは、DVDやBlu-rayに比べ、生産の難易度が高い。「海外メーカーが真似をして、作れる製品ではない」という。

    「使う人が少なくなっても、使ってくれている人は必ずいる」

    他メーカーが相次いで撤退していくなかでも、同社が生産を続けてきた理由だ。

    終了の決断、そのとき。

    販売開始から、生産終了まで33年。終了決断のとき、社員の反応はどうだったのか。

    「どちらかというと、若い社員より、ベテラン社員の方が悲しんでいました。実際に使っていた世代ですし、VHSに携わりたくて入社した社員もいますからね」

    「中国の工場では、33年間、ずっとVHSを作り続けてくれた人もいます。感慨深く、正直、寂しいですね」

    佐治さんは、当時の思い出を語る。

    「ピーク時は、いろんなことにトライしてきました。なかには、思い通りに進まないモデルもあって……。そんなときは、工場のメンバーだけでなく、弊社役員も工場の生産ラインに一緒に入って、夜通し作業しましたね。大変でしたが、『社員全員でVHSを作っている』ことが感じられて、いい思い出です」

    生産終了の報道が出てから、ネット上では「やめないでくれ!!」「お世話になりました……」と悲しみの声が上がっている。

    しかし、生産するための部品自体がなくなってしまうので、復活は不可能だ。

    受け継がれる、VHSの遺伝子

    一時代を築き、姿を消すVHS。しかし、その技術は、いまに受け継がれている。

    「VHSに欠かせない回転制御の技術は、DVDやBlu-rayの再生機に生かされています。それだけでなく、プリンターの紙を送り出す部分にも、VHSで培ってきた技術が宿っています。VHSの遺伝子は、確実に現代に役立っているんですよ」

    最後に。

    「報道が出て以来、ファンの皆様から予想以上の反響をいただき、VHSが愛されていたことを実感しています。同時に『もっと続けられなかったのか』とも考えました。しかし、残念ながら前述のとおり生産できないのが現実です」

    「長らくVHSを愛していただき、本当にありがとうございました。いまは、申し訳ない気持ちとともに感謝でいっぱいです」