沖縄の基地問題について、取材や裏付けなしに侮蔑表現を含んだ放送をして問題となった東京MXの番組「ニュース女子」。
東京MXによる再発防止策が公表された。そこから、テレビ局が抱える課題が見えてくる。
ニュース女子をめぐっては、放送倫理・番組向上機構(BPO)が2017年12月14日、「重大な放送倫理違反があった」と指摘していた。
これを受けて東京MXは、2018年3月に再発防止策を報告したが、BPOは「具体的な改善策への言及」が不十分と批判し、追加回答を求めていた。
今回、東京MXが再提出した再発防止策を、BPOは6月11日に公表した。BPOが指摘した6つの問題点への回答、具体的改善策はなにか。公表された資料を読む。
「注意と配慮を欠いた」と認める
まず、今回提出された報告書では、東京MXは当初の「放送法及び放送基準に沿った制作内容」という見解を取り消し、「注意と配慮を欠いたため、諸方面から批判を受けるような内容の放送をした」とした。
以下、6つの回答について個別に見ていく。
BPOからの6つの指摘とは
BPOは東京MXに対し、以下の6点を指摘していた。
- 抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった
- 「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった
- 「日当」という表現の裏付けを確認しなかった
- 「基地の外の」とのスーパーを放置した
- 侮蔑的表現のチェックを怠った
- 完パケでの考査を行わなかった
今回の報告書では、これらへの回答があった。
1.抗議活動を行う側に対する取材の欠如を問題としなかった
BPOがMXにヒアリングをし、まとめた報告書によれば問題の放送回について考査が通した理由として、MXは以下のような説明をしていた。
- (のりこえねっと代表の辛淑玉氏には)今回は取材しなくても別の機会で取材すればよいと判断
- 制作に関与していないため考査で取材内容のすべてを判断できるわけではない
- 番組として珍しく現地取材に行っているので、それなりに取材をしたものと信じた
MXの回答:「番組出演者であるA氏の『軍事ジャーナリスト』という肩書きにより、専門的見地からの情報であると過信してしまい、沖縄の米軍基地建設反対運動に参加する人々への取材がされていないことを看過してしまいました」
2.「救急車を止めた」との放送内容の裏付けを確認しなかった
番組内で軍事ジャーナリストの井上和彦氏が地元住民に、「(反対派が)救急車を止めたという話もあるが」と聞き、住民は「それはあります」と答える場面があった。
BPOはこれについて、「現地の消防本部の資料などによれば、救急車の現場到着が大幅に遅れたケース自体が見当たらない。反対運動による渋滞の列に救急車がいたという情報が仮にあっても、それは反対派が実力で救急車を止めたという本件放送の伝えた事実とは趣旨をまったく異にしており、到底その裏付けにならないことは明らか」と指摘していた。
MXの回答:「『救急車の停止』について当社は当初、制作会社の取材及び番組内での住民インタビューにおいてそのようなことがあったと紹介されていたため、現地の消防や警察への確認を怠ってしまいました」
3.「日当」という表現の裏付けを確認しなかった
番組内で、「反対運動の裏にあるカラクリ」として「反対派は日当をもらっている!?」と伝えている場面がある。日当の証拠として登場するのが、1枚の「ビラ」と「2つの茶封筒」。
井上氏は地元のラジオDJとともに、ビラについて、反対運動への参加を呼びかけるもので、「東京で配られた」「5万円をあげると書いてある」と紹介した。
BPOは「本件放送で示した茶封筒のカラーコピーや人権団体のチラシは、基地建設反対派は誰かの出す日当をもらって運動しているという疑惑を裏付けるものとは言いがたい」とした。
MXの回答:「『日当』という表現と『交通費相当』という表現とが、正確に使い分けられておらず、混用されていたことに対し、経費として扱うならば同様との認識から看過してしまいました。この結果、人権団体が拠出したのは交通費の補助であったにもかかわらず、日当相当との誤解を与えてしまいました」
4.「基地の外」のスーパーを放置した
普天間基地周辺で反対運動をしている人たちを紹介する際、スーパーで「基地の外」の部分を色を変え、執拗に繰り返した。
MXの回答:「当時、ラッシュで考査されているものをベースに編集がされているので、その後のスーパーに関しては、トークをそのままスーパーにするのであれば問題はないと判断していました」
「しかしながら、当然に誤字・脱字等の確認もおろそかになるので、完パケチェックは重要です。当該番組は、時事ネタを冷めないうちに放送することを前提に、考査時間の短縮が求められていたことからこのような特例で運用することになってしまいましたが、本件を受けて、完パケチェックは確実に行うよう運用を改めています」
「トーク及びスーパーで露出された『基地の外』=『きちがい』との指摘に対しては、考査を含め、当社関係者にその様な意味を含むとの認識が全くなく、見逃してしまいました」
5.侮辱的表現のチェックを行わなかった
番組では「シルバー部隊」「反対派の連中」などの表現が繰り返しあった。
MXの回答:「取材VTRの中で『反対派の連中』をはじめとする表現が沖縄の米軍基地建設反対運動に参加するすべての方々を揶揄するがごとく使われていたにも関わらず、そのような表現を看過してしまいました」
6.完パケでの考査を行わなかった
「ニュース女子」は、東京MXが放送したが、制作は化粧品大手DHCグループ傘下「DHCシアター(現・DHCテレビジョン)」が担っている。
スポンサーが制作費などを負担し、制作会社が番組を作って、放送局は納品された完成品(完パケ)を放送するいわゆる“持ち込み番組”だ。
MX考査担当者は、この完パケの考査をしていなかった。
MXの回答:「上記4での検討の通り、放送を優先して番組内容チェックの一環である『完パケチェック』を省略してしまいました。たとえどの様な場合であっても、省略すべきではなかったと考えています」
東京MXはどう改善していくのか。
報告書で東京MXは、「注意と配慮を欠いたために、当該番組について、多くの沖縄基地反対運動に参加される方々を含む諸方面から批判を受けるような内容の放送をしてしまい、当社としてあらためて大変遺憾に思っています」とした。
報告書には改善策も記されていた。以下の通りだ。
- 2017年7月1日付で考査部を新設
- 2018年4月から考査部の部員を昨年比倍の4名に増員し、外部考査経験者1名を加え計5名体制にした
- 「考査は最後の砦」などの意識を再度徹底する
- 考査だけでなく、必要に応じて局長やそれ以上の役職者に確認、判断を仰ぐ
- 考査部員は社外で開催されている月二回程度の研修会などに参加
- ネットスラングなどの新しい侮辱的表現は週一回の会議で情報共有する
- 放送倫理、放送基準および考査の研修を定期的に行い、スキル低下を防止
東京MXは3月1日、「ニュース女子」の番組終了を発表。一方、制作を担う「DHCテレビジョン」は3月5日、番組を地方局やネット上などで継続すると発表した。
朝日新聞によれば、以下の地方局16局はニュース女子の放送を続けているという。
青森テレビ、岩手めんこいテレビ、秋田テレビ、さくらんぼテレビ(山形)、静岡第一テレビ、チューリップテレビ(富山)、石川テレビ、福井テレビ、びわ湖放送(滋賀)、奈良テレビ、テレビ和歌山、山陰中央テレビ(島根・鳥取)、テレビ高知、サガテレビ、テレビ宮崎、テレビ山口
ある地方局の幹部は朝日新聞の取材に「リスクはあっても、営業的に『おいしい』番組だからだ」と答えている。
制作費を負担する必要がない、ニュース女子のような「持ち込み番組」は予算が限られる地方局にとってうまみが大きいのだという。
訂正
放送を継続する地方局は16局の誤りでした。訂正致します。