LGBT題材のマンガ、読者アンケートで性別が男と女だけ? 「その他」を希望した人の思い

    「その他で括るのは雑だ」という意見も寄せられた。しかし、それには理由があった。

    集英社の無料マンガサイト「ふんわりジャンプ」で連載されている「ぼくたちLGBT」。

    ぼくたちLGBTは、自らもバイセクシャルとカミングアウトとしたトミムラコタさん(@cota0572)作のエッセイコミック。LGBTの人々の恋愛事情を筆者の経験談をもとに描いている作品だ。

    この作品の「読者アンケート欄」が話題を呼んでいる。

    性別の選択肢が「男」「女」だけ?

    話の末尾に読者アンケートが設けられており、意見や感想を編集部宛に送れるようになっている。

    そこで年齢や性別を選択するのだが、性別は「男」か「女」の二つの選択肢しかなかった。

    これに違和感を覚えたSさん(仮名)。編集部宛に「せめて『その他』の欄を設けてほしいです」と意見を述べた。

    Sさんは、BuzzFeed Newsの取材に経緯を話す。

    「胸にチクリと刺さるものがあったんです。LGBTsの存在はいまの日本では見えづらく、しばし無視されることがあります。私はLGBTsの1人、と言っても自身の性に対する違和感を持っているのではなく、単に同性が好きなのですが、それを感じる瞬間はよくあります」

    「例えば、テレビで『(異性と)結婚してない女or男はかわいそう』といった内容のバラエティー番組を観たとき。大人になれば、当たり前のように異性と結婚して子どもを産むことを前提として家族に話を振られたとき。そして、今回のように、アンケートの必ず答えねばならない項目である『性別』の選択肢に『男』『女』しか無いときなどです」

    Sさんは続ける。

    「日常生活の何気ない瞬間に『あ、いま私のこと無視されたな』『この人(達)の中でLGBTsはいない存在なんだな』と感じて、心が痛むのです。それはきっと、私以外の多くのLGBTsも今までに1度は経験したことがあると思います」

    「ましてや、この作品は多様な生き方、多様な性のあり方を描くものです。声を上げないわけにはいきませんでした。伝えなければ、絶対に何も変わらないから。そしてまた、伝えないということは、そのシステムを肯定したことになると思ったのも、動機の一つでした」

    「男」「女」に「その他」の選択肢が増えた

    その後、性別の選択肢に「その他」が加えられた。ふんわりジャンプ編集部は、このことについてBuzzFeed Newsに答える。

    「『ぼくたちLGBT』は作者のトミムラコタ先生が、LGBTの方々の真実を伝えたいという思いをこめ、実体験と取材にもとづいて描かれている作品です」

    「トミムラ先生ご本人から、アンケートで男女以外を選択できるようにしたいとご提案があり、読者からも数多くのご意見をいただいたことから、3月上旬に性別に『その他』のボタンを実装しました」

    「その他」が設けられたことについて、Sさんはこう述べる。

    「設けられたことを知ったときは、本当に驚きました。まさか本当に採用されるとは思っていませんでしたから。とても嬉しかったです」

    「その思いをネット上で発信した結果、大きな反響をいただいたのですが、数名の方からは『当事者は“その他”という選択肢に雑く一括りにされるのも不愉快なのではないか』という意見もありました」

    しかし、Sさんが「その他」を希望したのには理由があった。

    「ほかにも、新しい選択肢として具体的な性自認の名前を入れてもらうという方法もありました。しかし性のあり方は本当に多様で、あげ始めるとキリがありません。“LGBTs”という言葉の“s”に含まれている人たちのことです。具体的な性自認の名前が入れられてしまうと、絶対に『男』にも『女』にも、その“新しく追加された性自認”にも当てはまらない人が出てきます」

    「そうすると、結局少数派を弾くことになってしまいます。それは避けたいと思い、全体を広くカバーできる『その他』という選択肢を増やしてもらうように意見したのです」

    “LGBTs”の“s”は、その他のセクシュアリティの人々を指す。LGBT以外の性自認や性的指向を持つ人のことだ。

    ほかにも「Q(クイア/クエスチョニング)」「I(インターセックス)」などの呼称がある。

    Sさんは最後にこう話した。

    「最初は私の意見が聞き入れられるとはまったく期待していませんでした。それがこうして変更が叶ったことは、とても嬉しいです。柔軟な対応をして下さった編集部様、本当にありがとうございました」

    「まだまだLGBTsは世間から『珍しい存在』『異質な存在』として扱われがちですが、こうやって声に真摯に耳を傾けて下さる方が少なからずいるという事は少しずつ人々の認識が変わり始めているとも言えるかと思います」

    「いつか、ヘテロセクシャルやシスジェンダーといった、所謂多数派の性的指向、性自認に縛られることなく、すべての人々が自分らしく生きられる社会が訪れればいいな、と思います。そのために、自分が出来ることの一つとしてこれからも積極的に声を上げていきたいです」


    LGBTにおける性別回答欄の議論は以前からされている。

    NHKが2015年に実施したLGBT当事者アンケート調査では「履歴書や証明書から性別欄をなくして欲しい」という声があった。

    また、今年2月に行われた大阪市市政改革室の職員を対象にしたLGTB講習会では、「性別欄が必要でないものであれば作らなくてもいい」という意見もでた。

    4月29日からは、性的指向や性自認の差別や偏見をなくし、社会への認知を広める国内最大のLGBTイベント「東京レインボープライド2017」が開催される。