Hagexさん刺殺に仲間たちが語る「バカにされていたネットの面白さ伝えた同志」

    ネットウォッチャーとして人気ブロガーだった。

    福岡市中央区の起業支援施設「福岡グロースネクスト」で6月24日夜、IT関係セミナーの講師を務めていたネットセキュリティー関連企業社員の岡本顕一郎さん(41)が刺殺された。

    「Hagex」の名で人気ブロガーでもあった岡本さん。突然の死に、仲間たちからは悲しみの声が広がっている。

    朝日新聞などによれば、福岡県警は25日朝、岡本さんを殺したとして、無職の松本英光容疑者(42)を殺人と銃刀法違反の疑いで逮捕した。首や腹などをナイフで複数回刺し、殺害するなどした疑い。

    時事通信によれば、2人に直接の面識はなかった。松本容疑者は容疑を認めており、「ネット上で恨んでいた」「(ネットのハンドルネームが)Hagexという男を死なせてやろうと思った」と供述しているという。

    「いつものHagexさんでした」セミナー参加者の証言

    各社の報道によると、松本容疑者は岡本さんのセミナーには参加しておらず、施設内で待ち伏せをし、1階のトイレで襲ったとみられる。

    現場はどのような状況だったのか。セミナーに参加した福岡在住の30代男性がBuzzFeed Newsの取材に答えた。

    男性はセミナー開始直前の午後5時40分ころ会場に到着。ほぼ満席だった。セミナーは「Hagexさんの軽妙な話しぶりもあり、終始和やかだった」。

    終了後はアンケートを記入し、それぞれ解散。書籍やグッズの販売もあり、Hagexさんにサインをもらう列ができていた。

    男性も列に並び、最後に「今度ぜひ飲みにでも行きましょう」「これからの展開も期待してます」と挨拶をして、会場を離れた。帰宅後に事件を知った。

    「Hagexさんは福岡出身ということもあり、また飲みに行ってお話できればと思っていました。ついさっきまで話をしていた方が殺されたことが受け入れられず、ただただ悲しいです」

    「今後、ネット上で舌鋒鋭く批判したり、リアルのセミナーなどにつなげたりといった活動は縮小していくのかもしれないなと思います。私もブログを運営する者として恐怖を感じており、リアルにつながる接点や情報を見直して絞ろうかと検討しています」

    別のセミナー参加者(30代女性)も話す。

    「Hagexさんはいつも通りだったと思います。明るく楽しく、ブログのままのHagexさんでした。私は終わった後、挨拶をしてすぐ帰ったので、事件のことはまったくわかりませんでした」

    「今回の件に関しては本当にショックで悲しいです。そして、関係ない方の推測が多いことに困惑しています」

    ネットウォッチャーで人気ブロガー

    岡本さんは「Hagex」というハンドルネームで、ブログを書いていた。ベテランのネットウォッチャーであり、はてなブックマークを中心にネット上で人気の人物だった。

    「まだ未来があった」突然の死、悲しみの声

    BuzzzFeed NewsはHagexさんと交友のあったブロガーやネット業界の関係者に、今回の事件やHagexさんについて話を聞いた。

    編集者の中川淳一郎さん

    「同じネット業界の人間として、もともと『ネットウォッチャー四天王』みたいなことは思っていたのですが、『中川氏は断酒を!』『中川氏のフリー論はいい!』みたいなことを書いてくれていて『こりゃいつか会うだろうな…』という気はしていました」

    「彼の著書『ネット釣り師が人々をとりこにする手口はこんなに凄い』はウェブ関連のセミナーなどで参考になると受講生に言い続けてきました。そうやって彼のことはいつも意識していたのですが、ついに山本一郎さんと一緒にやっている阿佐ヶ谷ロフトでの『ネットニュースMVP』にゲストとしてオファーをしたところ、実に好青年ならぬ私よりも少し若い好中年で、すっかり彼に魅了されました」

    「結果的に山本さんと私のイベントは『そろそろ後進に…』と辞めることにしたのですが、そのイベントの出演者としてHagexさんに渋谷の安居酒屋でお願いしたら快く引き受けてくれました。ここ数年、年に1~2回は会ってきたのですが、今年も暑くなったらビアガーデンでもお誘いするかな、と思っていた矢先での訃報」

    「ネットのおもしろさを誰よりも知り、そしてその世界が健全になることを願い、活動していた第一人者が亡くなったことと、もともとマイナーかつバカにされていたネットという世界のコンテンツのおもしろさを同時代に伝えてきた“同志”が亡くなったことが本当に寂しい。くそ」

    投資家、作家の山本一郎さん

    「気持ちの整理がつきません。Hagexさんは、こんな死に様を晒すような人物ではなかったですし、次の人生を見据えて前に進もうとしている矢先のことでした。あらゆる意味で、彼は『運が悪かった』と感じますし、彼が考えてきたことや発信してきたことを否定せず、またこの悲しい事件に委縮することなくHagexさんに代わり彼の分も背負って歩いていくことが、先に逝った彼の意志にそうことだと私は思います」

    「ただ、理性的に物事を受け止めるロジックは思いついても、感情的には納得できません。Hagexさんにはまだ未来があった。悲運で不幸な事故だったとしても、あの死に方はない。理不尽すぎる。起きてしまったことは覆らないと事実を受け入れながら、ただただ嘆くしかない。Hagexさんの無念や、ご家族、周辺の皆様にも深くご同情申し上げますし、何よりも、どうぞ安らかな旅立ちでありますよう、心から哀悼の意を表します。安らかなはずもねぇと思うんだけどよ」

    「殺害に及んだ人物については、その経緯はこれから明らかになるでしょうが、その動機がどうであれ彼やご家族、関係者に対しても救いがあってほしいと祈ります」

    「思い返せば、パソコン通信、ネット掲示板黎明期から、ネットは『現実に居場所を持てない人たちの心の居場所』でありました。この事件が、そういう人たちとネットとの関わりについても論じられるような救済に繋がっていけば、この事件も『あいつらがいたから、世の中がこう良くなった』と思い出せるようになるかもしれない」

    「私がまだ現実を受け入れられていないだけかもしれませんが、単にあいつが不幸な事件で死んだと思いたくないんです。萎縮することなく、いつもどおり日々を生き抜き、平穏に暮らせていることを神に感謝してまいりたいと存じます」

    ブロガーの@raf00さん

    「今回の事件を語るにもっとも相応しい人は、2018年において稀有なネットウォッチャーであるHagex氏をおいて他にいなかったでしょう。その彼自身が被害に遭われたことを、一夜明けても受け入れられずにいます」

    BuzzFeed Japanのエディター鳴海淳義(@narumi)も親交があり、Hagexさんの死を受けてブログを更新。Hagexさんの人柄について綴っている。

    Hagexさんの印象といえば、「舌鋒鋭く、優しい人」。

    何かやらかしてしまったときは厳しく叱ってくれるし、相談ごとにはすごく親身になってくれる。出版社を経てIT企業のオウンドメディアに携わっていたHagexさんは編集者という職業の先輩でもあった。ブログも14年続けていて、情報発信でも見習うところばかりだった。

    以前、ラジオにゲスト出演してくれたときは、事前に「こんなことを話すのはどうですか?」「なにか準備しておくことありますか?」と気遣ってくれた。SNSをやっていないから連絡はいつもメール。必ず「お世話になっております。Hagexです」から始まるメッセージを何度も交わした。

    Hagexさんと鳴海は2018年2月にも会っており、その際、Hagexさんは「今年はいろんな人に会いに行く1年にしようと思う」と話していたという。

    はてな社は6月25日、今回の事件をうけて7月1日に予定していたイベントを中止することを発表した。