5月6日から六本木のART & SCIENCE gallery lab AXIOMで開催されていた「ブラックボックス展」。
複数の来場者がネット上に「痴漢被害を受けた」と投稿し、問題視されていた。
会場でいったいなにが起こっていたのか。BuzzFeed Newsは被害を受けたと証言する複数の女性に話を聞いた。
そもそも「ブラックボックス展」とは。
同展は、フォロワー20万人を超えるTwitterアカウント「サザエBOT(@sazae_f)」の運営者として知られる「なかのひとよ(@Hitoyo_Nakano)」の初の個展だ。
事前に展示内容は公表されず、会場内での撮影等も禁止。来場者は会期終了までネット上をはじめ、第三者に口外することを禁止されていた。そのため、入場前に同意書への記入が必要になる。
「本展覧会を『絶賛する感想』。または『酷評する感想』」の投稿は許可されており、ハッシュタグ「#ブラックボックス展」には、事実なのか虚構なのかわからないツイートが投稿され、人々の興味を煽った。
SNS上で徐々に話題になると、会場前には長蛇の列ができ、5〜6時間待ちの日もあった。
5月19日から、想定を上回る来場に伴う展示物・備品等の不足を理由に臨時休廊。5月30日から「ネクストレベル(NEXT LEVEL)」と題し、再開。会期が6月17日まで延長されることも発表された。
6月13日には「アルテマレベル」なるものにアップデート。「本展覧会に適した精神・態度基準に達する者でなければ入場することができません」とし、バウンサーと呼ばれる“門番”によって入場者の選別が始まった。選別基準は、バウンサーの独断で平等に判断するとのこと。
また、同日から入場料1000円の徴収もはじまった。
展示の内容は「暗闇の部屋」
ブラックボックス展の内容はこうだ。
ギャラリーに入場したら1階の受付で、同意書に名前とアドレス、サインを書く。アルテマレベルでは、ここで1000円を支払う。同意書の内容は口外禁止や会場での私語厳禁、撮影禁止などだ。
受付が済んだら2階に通される。途中の階段には、なかのひとよの紹介や開催にあたってのメッセージなどが飾られている。
2階の展示部屋の前には、黒い丸のシールがあり、スマートフォンのカメラレンズ部分に貼る。これは撮影禁止を徹底するためのものだと思われる。
シールを貼ったら、二重の黒幕で仕切られた部屋に通される。部屋に入ると中は真っ暗。客は手探りで壁伝いに移動しなければならない。そのため、客はほかの客と接触する可能性がある。
実際に来場した人は「たぶん四角い部屋だったと思う。それくらいしかわからないくらい暗かった」と話す。
部屋の中になにか展示物があるというわけではない。暗い部屋に入ること自体がアートであり、この個展の展示なのだ。
部屋から出て、ギャラリー出口で許可書を受け取ったら終わり。
さまざまな感想がSNSに投稿されるなか、痴漢被害を訴える声がみられ、問題視され始めた。BuzzFeed Newsは被害を訴える4人の女性から証言を得た。
「キスをされ、胸を揉まれた」女性たちからの証言
●Aさん(20歳、学生)
Aさんは6月7日と14日の2回、展示に行った。サザエBOT(もしくは“なかのひとよ”)の存在は知らず、「Twitterに流れてきて気になった」と話す。
「正直に言うと2回目(14日)に行ったとき、急に抱きつかれました。けれど、それが痴漢行為かと言うと難しいところです。最初は運営側が演出で驚かしているのかと思いました」
抱きつかれたとき、入り口から次の来場者が入り、光が差し込んで、相手が男性だとわかった。30代、中肉中背、短髪に黒っぽい服。顔までは見れなかった。Aさんはすぐに男性を剥がし、逃げるように部屋を出た。
●Bさん(25歳、会社員)
Bさんは、最終日の17日に個展を訪れた。午後12時40分頃から並び始め、午後5時40分頃に入場。会場を出たのは午後6時頃だった。
部屋の中で3回、痴漢行為と思われるものに遭った。
「1人目は前から手を握ってきました。2人目は横から軽く抱きついてきました。3人目は斜め後ろから腰に手を回してきて、抱き寄せてきました。光が差し込んだときの雰囲気から、1人目と2人目は同一人物だと思います」
「Twitterに投稿されていた『スタッフに手を引かれ別室に連れていかれた』という投稿を事前に読んでいたので、身体的接触をすぐに痴漢とは認識できませんでした」
Bさんが証言するには、手を握ってきたのと、横から抱きついてきたのは大柄で小太りの男性。後ろから腰に手を回してきたのは、中肉中背で髪が長めの若い男性だったとのこと。
●Cさん(22歳、学生)
Cさんは、17日の午後4頃に訪れた。女性の友人と2人で行ったが、友人はバウンサーの選別により外されてしまった。
受付を済まし、暗い部屋に入る。
「初めは人にぶつかり動くことができなかったのですが、いきなり腕を引かれて、男性に抱きしめられました」
そのときの骨格ですぐに男性と認識した。180センチほどの男性だったという。
「私は『そういう演出なのかな?』『これからどこかへ連れてかれるのかな?』と思って抵抗しませんでした。けれど、しばらくしても離れませんでした。そして私の体をさすり、ベタベタ触ってくるので気持ち悪くて自分から離れました」
離れてからもずっと付きまとわれ、なんども腕を引かれ、抱きしめられたり、手を握られたりした。胸も触られそうになったが、手で守った。
また、同じ人物かはわからないが膝下も触られた。
入り口以外に出口があると思い、20分ほど探し回った。次の客が入ってくるのをみて、入り口と出口が一緒だとわかり、外へ出た。
●Dさん(20代、大学生)
Dさんも痴漢行為を受けたという。これを問題視し、自らのブログで詳細を綴り、公開した。某日、都内のカフェで約束をし、会った。
Dさんは、17日午後1時頃に並び始め、午後6時頃入場。男性の友人と2人で行ったが、友人は列に並んでいる段階でバウンサーにより、外された。
サザエBOTの存在は知っていたが、特段ファンではない。Twitterに流れてきた感想が気になって行った。
「部屋に入り、壁伝いに歩くとほかのお客さんと手などが触れ合いました。ほかの人も手探りで歩いているんだなと認識しました」
部屋を左回りに進んだところで、肩、尻、胸を何者かに触られた。
「痴漢とかではなく、普通に当たってしまったんだと思いました」とDさん。
壁伝いに進み、出入り口付近でまた手が触れ合った。そのまま手を掴まれる。女性であることをたしかめるように腕を触られ、体を引き寄せられた。
体の前から無理やり抱きしめられたとき、ヒゲが顔にあたり男性だと認識した。
腰に手を回され、もう一方の手で顔を弄られる。唇の位置をたしかめられたあと、3回にわたりキスをされた。また顔を弄った手で胸を揉まれ、髪を撫でられる。その後、耳を舐められた。腕で強く抱き寄せられていたので逃げられなかった。
「押し返そうとはしましたが、声は出せませんでした。事前に私語厳禁と言われていたことと、会場が足音しか聞こえないくらい静かだったので、声をあげて注目されるのが怖かった」
Dさんは相手の手が緩んだ隙に逃げ、部屋を出た。最初の人物と後の人物が一緒かはわからない。暗闇で顔は見えなかった。ただ唇は厚め。身長は170〜180センチほどだったと言う。
「本当に気持ちが悪いです。責任の所在は明らかにして欲しいです。暗闇の部屋がアートなのかは別として、そのようなリスクが考えられるのであれば、非公開にせず最初に言うべきだと思います。それを知った上で、行くか行かないかは個人の自由なので」
BuzzFeed Newsが証言から一致するのは、これらの行為は入場選別がはじまった「アルテマレベル」で起こったという点だ。
また本件に関し、ギャラリーと“なかのひとよ”は情報提供を呼びかけているが、いずれの女性も情報提供はしていない。うち2人は警察に報告した。
「なかのひとよさん(またギャラリー)に連絡したところで、どうなるんだろうと。警察に行ったので警察に任せようと思います」と話す。
ギャラリーと“なかのひとよ”は謝罪。
6月21日、ギャラリー側は公式サイトに以下の謝罪文を掲載。
この度は弊ギャラリーが主催しました「なかのひとよ|BLACK BOX」(ブラックボックス展)に関してインターネット上で多くの皆様をお騒がせ致しておりますこと、またご心配をおかけ致しておりますことについて、心よりお詫び申し上げます。
会期中はスタッフを増員し、常に会場に待機することは無論、来場者からご指摘をいただいた際にはその都度注意を促し、展示会場内を定期的に巡回するなどして安全確保に可能な限りの体制を敷いておりました。しかし、残念ながら我々が予期せぬ来場者による様々な行為(床のタイルを剥がす、壁を執拗に叩く、ドアを無理やり開けようとする等)があったことは事実として確認しております。
現在に至るまで直接ギャラリーに具体的な被害を申し立ていただいた事例はございませんが、それ以外にも問題行為があったとするならばそれは誠に遺憾であり、警察担当者のご協力のもと事実の究明を急いでおります。
何か少しでも手がかりになる情報をお持ちの方は以下の連絡先までご一報ください。
info@as-axiom.com
当ギャラリーは「実験」と「犯罪行為」は明確に線引きし、お客様の安心・安全を侵害する諸 行為に対していかなる許容も致しません。
痴漢行為の被害には言及せず、「予期せぬ来場者による様々な行為」とした。
同日、なかのひとよも以下のツイートをした。
ギャラリーと“なかのひとよ”への取材。
暗闇の部屋なので、他人と体が触れ合う可能性は十分に考えられる。それに乗じて、痴漢行為または危険行為におよぶ人物が発生することは想定外だったのか。
想定していたのであれば、暗視カメラなどでチェックはできたのでないか。管理体制が懸念される。
ギャラリー側に取材を申し込んだが、担当の男性は「現在、警察と弁護士を交えて事実究明を進めています。お答えできることができません」。
また、主催者である“なかのひとよ”にも対面での取材を申し込んでいるが、これまでのところ連絡はない。
引き続き取材を申し込み、進展があり次第、報告する。