目が見えない人が、どうやってパソコンを使って仕事の資料を読んだり、メールや議事録を書いたりするか、知っていますか?
視覚障害がある人がどのように仕事をするのか。一人の全盲の女性が、YouTube動画で伝えています。
そこには「視覚障害があっても、対等に働けると知ってほしい」との思いが込められていました。

動画を発信しているのは、1歳3カ月の時から全盲の石田由香理さん(31)です。
「目が見えない人はどうやってパソコンを使って、読んだり書いたりする?」「デスクワークは任せられる?」「外勤は?」ーー。
企業などは視覚障害者を雇う際、そのような疑問を抱くかもしれません。
動画では、それらの理解の助けになるよう、石田さん自身がそれぞれ実践しながら説明しています。

書いた文章、漢字変換まで全てが音声で読み上げられる!?
動画の第1弾、第2弾として、12月には「デスクワーク編」と「外出・外勤編」がYouTube上にアップされました。
デスクワーク編では、文章を書いたり、ネットで検索したりする様子が紹介されました。
石田さんが使っているのはごく普通のパソコンです。ただ、画面に書いてある文字や入力した文章が見えなくても、問題ないようです。
それには、ある理由がありました。画面に表示された文字を音声で読み上げるソフトウエアが、パソコンに入っているのです。
このソフトが、文字入力の際に漢字変換でどのような漢字が表示されているかも音声で読み上げ、検索時にもウェブサイトの内容を説明してくれます。
また、音声・点字携帯情報端末「ブレイルセンス」を使って、議事録やメモも取れます。石田さんはその様子も動画で紹介しています。

テクノロジーが、目が見えなくてもパソコンをスムーズに使い、仕事をこなすサポートをしているのがわかります。
動画は、友人の助けなどを得て撮影されました。
外出・外勤編では、1人で公共交通機関を使って通勤したり、訪問先を訪れ、名刺交換したりする様子がありました。

企業や行政の採用担当者に知ってほしいこと
YouTube動画は、計5本のシリーズで計画しており、今後、残りの第3〜5弾をアップ予定です。
料理やメイクなどをどうやって1人でこなしているかを紹介する動画。ランニングなどのアクティビティについてのもの。特別支援学校・大学教育について、とテーマは多岐にわたります。
また、海外の人にも見てもらおうと、英語版でも作られています。
石田さんは、BuzzFeed Newsの取材に対し「動画は、企業や行政で採用に関わる人たちなどに広く見てもらい、視覚障害者がどのように働いているか知ってほしい」と語ります。
現在では、画面読み上げソフトなどのテクノロジーがあるため、パソコンも問題なく使えてデスクワークができます。しかし、そのようなテクノロジーがあると知らず「視覚障害がある人にはこの仕事はできない」と決めつけてしまう採用関係者もいるといいます。
結果、視覚障害者にとって、就職や転職、キャリアアップのハードルが高くなっているのです。

「この状況、なんとかしたい」転職活動での経験
石田さんは現在、JICA(国際協力機構)北海道の職員として働いています。
しかしかつて転職活動をした際、視覚障害が理由で採用試験が受けられなかった経験も、今回の動画作成のきっかけになりました。
当時、希望していたのは、海外で働くことを前提にした現職とは別の公的な職で、採用試験がありました。
受験するため、試験を点字にする「点訳」を希望したところ、「合理的配慮はできません」と返事があったといいます。
2018年には、中央省庁で障害者雇用数を水増ししていた問題も発覚するなど、障害者の雇用をめぐっては、議論が重ねられてきました。
障害がある人を雇う人数の割合は法律で定められていますが、仕事内容の特殊性などを理由に除外される職種もあります。

石田さんは、自身の経験を振り返り、こう語ります。
「世の中の認識では、私たち(視覚などに障害がある人)は、大学院を出ていたり、英語を話せたりすることは想定されておらず、『海外でも働くのは難しい』と思われているのではないかと感じました」
「この状況をなんとかしたい、ポジティブな方向に状況を変えたいと思いました。そこで、私たちが対等に働けると証明していける何かが必要だと思い、ビデオを作りました」
また動画は、「企業などで採用に関わっている人たちだけでなく、視覚障害がある子どもがいる保護者などにも見てほしい」と考えています。
保護者が視覚障害を持っていない場合、将来子どもが「どのようにして働くことができるのか、動画によって伝えたい」といいます。
YouTubeでこの動画を見る
動画【視覚障害者のくらし】デスクワーク編
「どうキャリア構築する?」若手のコミュニティ作りも
動画による発信活動とは別に、石田さんは友人と共に、障害がある若者がキャリアの構築について学び、意見交換ができるグループも運営しています。
共にグループを運営するのは、民間企業で採用担当として働く、視覚障害がある男性です。
彼が抱いたのは「なぜ世の中の障害者採用の多くは、一般の人と業務内容が違うのか。給料も違うことがある。まるで最初から、対等に働くことを期待していないかのような募集がなぜあるのか」という疑問でした。
現在は、視覚障害者や車椅子使用者などの大学生や入社1、2年目の社会人、計二十数人でプライベートのFacebookグループを作り、意見交換の場を設けています。

石田さんは、国際協力の仕事に就くため、大学卒業後にイギリスの大学院に進学。NPOなどを通して、フィリピンで貧困層の子どもや障害者の支援に携わり、JICAに転職しました。
JICAでは他に視覚障害者も複数人働いていて、石田さん自身も様々な仕事を担当しているといいます。
国際協力の道を目指しても諦めてしまう障害者の後輩に、Facebookグループを通してサポートをしていきたいと話します。
「視覚障害がある後輩で、高校生や大学生の時に国際協力に興味を持って積極的に活動していても、途中で『やっぱり障害者は国際協力の道は難しいのかも…』と諦めて違う道に進んでしまう人が多いと感じます」
「もちろん興味が変わる人もいると思います。しかし(国際協力の道に進みたくても)『難しいんじゃないか』と思って諦める人がいるならそのタイミングで何かサポートができれば、と思い活動しています」
石田さん自身も海外の大学院への進学や国際協力の仕事を探す時、ロールモデルとなる障害者の先輩を見つけられず、試行錯誤してきた経験があります。
現在、Facebookでの意見交換の場は小規模ではあるものの、参加者からの反響が大きいそうです。
運営継続のニーズをひしひしと感じているといい、「やる気のある障害者の若者をサポートするコミュニティを広げていきたいです」と意気込んでいます。