東京・神楽坂で、「夜のパン屋さん」が始まりました。
日が沈んだ後、オレンジ色の灯りがともる書店・かもめブックスの軒先にテーブルが並び、パンが売り始められます。
ここで販売されるパンは、提携先のパン屋で夜、売れ残ってしまいそうなパンを安く仕入れたものです。
「BIG ISSUE JAPAN(ビッグイシュー日本)」が、食品ロスを減らし、販売の仕事を増やすために始めました。

ビッグイシューでは、ホームレス状態の人が路上で雑誌を販売することで、販売者の生活再建・自立を目指しています。
今回、パンを売っているのも、普段は路上で雑誌ビッグイシューを売っている販売者です。
夜のパン屋さんは10月1〜3日にプレオープン。書店の軒先に並べたテーブルには、提携しているパン屋から仕入れたベーグルや菓子パン、惣菜パンなどが並びました。
様々なメディアに取り上げられたこともあり、店は連日、大繁盛しました。開店前から人々が列を作り、数個ずつ袋詰めされたパン計100個は開店から30分で完売しました。
このプロジェクトを主宰した、料理研究家でNPOビッグイシュー基金共同代表の枝元なほみさんは「多くの方が、取り組みに賛同しますと言ってくださるのがとてもうれしいです」と語ります。

夜のパン屋さんの構想は、約1年前に始まったといいます。
「課題解決のために持続可能な使い方をしてほしい」と、篤志家のビッグイシュー支援者から寄付があったことがきっかけでした。
その後、雑誌販売以外の仕事を作るプロジェクトについて議論し、食品ロスの課題にも取り組める、パンの販売に至ったそうです。
店にもよりますが、パン屋では売れ残ったパンが多く廃棄として捨てられていて、少しでもそのロスを減らそうという着想です。
北海道で、食品ロスに取り組む同様のパン販売のプロジェクトがモデルになりました。

東京でこの取り組みを始めるにあたっては、枝元さんが、パン屋を一軒一軒周り、プロジェクトの内容や意義を説明して周りました。「断られる回数の方が多かったですよ」と枝元さん。
それでも、食品ロスの課題や仕事の創出に賛同してくれるパン屋計6店舗と提携し、プレオープンに至りました。今後、提携店舗数を増やしていくことを目標にしています。
かもめブックスに、このプロジェクトの趣旨や目的を説明すると、快くパンを売る場所を提供してくれたといいます。
枝元さんは、夜のパン屋さんと食品ロス問題について、こう語ります。
「東京にはいっぱいパン屋さんがありますが、せっかく大切に作られたパンが、たくさん捨てられています。どう『循環』できるプロジェクトが作れるかを考えました」
「雑誌の販売員さんが、雑誌販売の帰りにパン屋さんでパンをピックアップしたり、販売するバイトができればと思いました」

夜のパン屋さんは、10月16日にグランドオープンします。この日は、世界の食料問題について考える日として国連が制定した「世界食料デー」です。
プレオープンは、「食品ロス削減推進法」が施行(2019年)された、10月1日に合わせられました。
夜のパン屋さんは、食品ロスや飢餓の問題について考える、国連WFP(世界食糧計画)の世界食料デーキャンペーン「ゼロハンガーチャレンジ 食品ロス×飢餓ゼロ」とも協力をしています。

今後の夜のパン屋さんの開店について、枝元さんは「木曜、金曜、土曜は開店して、その後、提携するパン屋さんの数が増えれば日数や開店場所を増やしていきたいと思います」と話しています。
移動型販売でパンを売るための、キッチンカーも購入済みのため、今後は目処がつき次第、キッチンカーでの販売を始めたり、他地域で同様の取り組みをしたりという構想もあるといいます。
当面は、神楽坂のかもめブックスの軒先で販売をしていきます。今後の販売日は、開設したばかりの夜のパン屋さんのTwitterアカウント(@yorupan2020)で確認できるということです。
販売員「ビッグイシュー知ってもらうきっかけにも」

普段、ビッグイシューの雑誌を販売し、プレオープンの期間中、パンの販売を担当した販売員の40代の男性は、夜のパン屋さんは「雑誌を知ってもらうきっかけにもなる」とも話します。
「ビッグイシューの雑誌を路上で売っていると、『気になっていたけど何をしているのだろうと思っていた』と言われたこともあります。その方は、常連さんが雑誌を買う様子を見て、話しかけてくださいました」
「やはりビッグイシューを知ることにも、きっかけが必要なので、今回、夜のパン屋さんをきっかけに、雑誌についても知って頂ければと思います」
夜のパン屋さんでは、最新号や最近のバックナンバーなど、雑誌ビッグイシューも販売しています。
実際に、パンと一緒にビッグイシューを購入していく人もいました。

コロナ禍で苦戦した雑誌販売。パン販売の仕事も創出
コロナ禍では、路上で対面で雑誌を販売するビッグイシューも、打撃を受けました。
ビッグイシュー日本東京事務所の佐野未来さんは、現在でも、売り上げはコロナ前の7割ほどだと話します。
「緊急事態宣言の時は、渋谷、新宿などの繁華街やビジネス街では人がいない状態になり、東京での売り上げは5割減りました。販売場所にもよりますが、今では少し復活し、現在では3割減ほどです」
「他国では厳しいロックダウンが実施されていた国もあり、緊急事態宣言の時は、『今後しばらく、通行人が戻らないかもしれないかもしれない』ということも鑑みて対策を立てていました。パン屋さんもその一つです」

コロナ禍でも販売員たちは路上での販売を継続しました。一方で、売り上げは減る一方であったため、オンラインでの通信販売も実施されました。
3カ月分の雑誌6冊を購入する「コロナ緊急3カ月通信販売」では、4月募集の第一次で約9千人、第二次で約5千人の購入がありました。
現在は、10、11、12月の計6冊を販売する「第三次コロナ緊急3カ月通信販売」の申し込みを受け付けています。
路上販売での売り上げが激減する中、通信販売での売り上げがあったため、販売員に配分金を渡すことができたといいます。
パンの販売は、現段階では一箇所のみで、販売担当者も数人ずつですが、今後、販売箇所の増加などに向けては、販売員の人数増加も見込まれています。