「コロナ禍で障害者が孤立しがちな、このような状況だからこそ、障害者もアクセスしやすいイベントを実現したい」ーー。
リアルのイベント会場で実施予定だったプログラム内容を刷新し、メイン会場をオンラインに移行して、実施されるイベントがある。
2014年に初めて開かれ、今年3回目となる「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」は、障害がある人、ない人、みんなで一体となり作り上げる現代アートの国際展だ。
新型コロナウイルスの感染拡大で、家から出ることが特に難しい障害者の人たちにも、「オンラインだからこそ」リーチしやすいイベントを届けるという。
「オンラインだからこそ参加できる人たちもいる」
多くのイベントが実施されるコア会期は11月に設定されているが、8月24日から、オンラインでの映像配信などを行うプレ会期が始まった。
プレ会期が始まるにあたって、総合ディレクターを務める栗栖良依さんは報道陣らに対し、こう語った。
「コロナ禍での『新しい生活様式』では、障害がある人が家から出たり、イベントに参加するということがもっと難しくなってきています」
「一時は中止も考えましたが、オンラインだからこそ参加できる人たちもいると考え、フェスティバル全体をオンラインに持っていくことを決意しました」
サーカスも「リアル」から「アニメーション」へ
リアルでのイベントから、オンラインへ移行したイベントで、注目を集めるのが「サーカス」だ。
2017年には、年齢、国籍、障害などの壁を超えて市民パフォーマーら100人が野外サーカス作品を披露した。
トリエンナーレとは、3年に1度開かれる国際芸術祭のことだ。ヨコハマ・パラトリエンナーレでは、各回の間は「準備期間」として、障害がある市民やアーティストらが次回の実施に向けて練習などを重ねているという。
今年は、2021年夏のパラリンピックに合わせての実施で、2018、19年の準備期間には、2020年に向けてサーカスの練習が重ねられていたが、コロナの影響で野外での実施はできなくなった。
そこで考えられたのが、それぞれのパフォーマンスを撮影し、映像に編集した「サーカスアニメーション」だ。
オンラインの実施だからこそ、同じ国にいなくても、海外在住アーティストも一緒にサーカスを作り上げることができる。両足が義足のサーカスアーティスト、エリン・ボールさんもカナダから参加するという。
アートの発信場所となるのはYouTubeチャンネル
プレ会期が始まり、YouTubeチャンネルでの発信が始まった。
今年のヨコハマ・パラトリエンナーレの主なアートの発信場所となるのがこのYouTubeチャンネル「パラトリテレビ」だ。
11月のコア会期終了まで、隔週で第2、第4日曜日にコンテンツを配信していくという。
パラトリテレビでは、手話にまつわるプログラムや、サーカスのメンバーによる、家でできるエクササイズなどの映像が配信される。
「車椅子インフルエンサー」のYouTuberとして人気の、中嶋涼子さんがナビゲーターを務める。
総合ディレクターの栗栖さんは、発信されるコンテンツやアートについて「障害がある人がない人へということではなく、作る側も見る側も『まぜまぜ』の状態。障害があるないに関係なく、誰もが楽しめるものを作れるようにしています」と話した。
オンラインだからこそ参加しにくい人のことも考慮
栗栖さんは会見で、イベントが主にオンラインで実施されることについて、その短所にも言及した。
コロナ禍では、障害がある人が外でのイベントに参加することのハードルが高く、オンラインでは全国の自宅から簡単にリーチできるという長所もある。
しかし、インターネットを普段使っていない障害者にとっては、さらに参加することが難しくなると語った。
「会議やミーティングなどがオンラインになった時、オンラインが得意な人は参加できることが広がります。一方で、インターネットを使ったことがない人にとっては、家からも出られずに、オンラインでのイベントにも参加できずで、どんどん差が広がっていってしまいます」
「そこの部分をなんとかしたいという気持ちがありました。デジタルそのものに苦手意識がある人や、インターネット使わない人にもアクセスしやすいようにしたい。だからこそパラトリエンナーレを(オンラインで)実施したいと思ったんです」(栗栖さん)
今回のオンラインイベントでは、インターネットをこれまで使っていなかった層にも使ってもらいやすいように、YouTubeでのパラトリテレビなど、アクセスのしやすさに焦点を当てて、発信していくという。