コロナ禍に関係なく、食べごろを迎える野菜やフルーツ。「行き場を失った食材」が食卓に届くまで

    コロナ禍で卸先を失った食材を食卓へーー。「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの代表取締役社長・秋元里奈さんに話しを聞きました。

    「コロナの影響でイベントがなくなり、食材が売れない」「いつもはレストランに卸しているのに…」

    新型コロナウイルスの影響が経済活動にも影を落とし始めて、約5カ月が経過しようとしている。農家や漁師の人たちからは、そんな声が絶えない状況だ。

    都市部を中心に感染者数は再び増加傾向で、イベントは中止され、飲食店もまだ客足は戻っていない。

    そんな中、卸先を失い余った食材を、インターネットを介して必要なところに「橋渡し」しているサービスが話題を呼んでいる。

    食べチョク」を運営するビビッドガーデンの代表取締役社長・秋元里奈さんに話しを聞いた。

    ウェブサイトに並ぶ、みずみずしい野菜や果物、魚介類、肉などの写真。その写真の下には、それらを育てた生産者の人々の笑顔の写真が並ぶ。

    食べチョクは、どんな人が、どのような思いを持って、どのような土地で野菜や果物を育てたのかが分かる、生産者特化型のECサイトだ。

    2017年8月にサービスを開始し、現在では、全国2000以上の生産者から直接、食材を取り寄せることができる。

    コロナ禍以前も、「顔が見える生産者から購入できる」と注目を集めていたが、コロナ禍では、卸先を失い、行き場を失った食材を人々の食卓に届ける「救世主」となった。

    秋元さんによると、コロナ禍の2〜5月では、消費者のユーザー数は9.4倍になり、月間の単発の注文数は74倍にも上ったという。

    生産者からの止まらないSOS。行き場がない食材を食卓へ

    2月後半や3月ごろからは自粛ムードが本格化し、飲食店が一時休業したり、イベントも中止が相次いだりした。

    一方で、野菜や果物はそのような事情に関係なく「食べごろ」を迎える。「行き場を失った」食材が多く出て来たのだ。

    食べチョクはそのような事情に即対応しようと、3月2日から全商品を対象に送料500円分を負担する取り組みなどを始め、卸先を失った生産者と消費者を繋いだ。

    秋元さんは、「自粛期間中はものすごい勢いで、生産者さんからSOSを頂いていました」と話す。

    食べチョクによる送料負担スタートと同時に、「#コロナでお困りの生産者さん」食べて応援プロジェクトを開始。

    コロナ禍の自粛などの影響で卸先を失い、困っている野菜や肉、魚の生産者からのSOSに応じ、特集を作る形でSOSを可視化、行き場がない食材を人々の食卓へと届けた。

    この特集は、現在でも継続しており、食べチョクのウェブサイト上で、全国の困っている生産者から、食材を直接買うことができる。

    各業界で倒産相次ぐ中、「生産を続けてもらえるように」

    5月末には農林水産省が、対象商品の送料を全額負担するという取り組みをスタート。食べチョクも第一弾の事業者として参画した。

    生産者の人々がコロナの影響で打撃を受けている事態を受け、消費者の購買を促進することを目的に、国が送料を負担する仕組みだ。

    メロンなどの果物や和牛など、主にレストランに卸していたような、高級食材などが中心だ。この取り組みも、現在も継続して実施されている。

    また、4月からは、フレンチシェフ率いる団体「一般社団法人CookForJapan」の全国のシェフとコラボし、「おうちで作れる本格レシピ付き食材」の販売も開始した。

    生産者も飲食店の休業などで卸先を失ったが、飲食店で働くシェフも窮地に立っていた。このプロジェクトは、消費者にもマンネリ化する「おうちごはん」にアイディアを与え、生産者だけでなくシェフの収益にも貢献できる仕組みだった。

    「状況が刻一刻と変わっていっている中で、生産者さんもシェフの方もすごく困っているという状態だったので、ありとあらゆる施策を打っていました」(秋元さん)

    ニュースでも、生産者が卸先を失い困っていると多く報道され、注文数やユーザー数は急増した。しかし、送料負担などで大幅な利益増には繋がっていなかったという。それでも生産者を応援する特集などを継続した理由を、秋元さんはこう語る。

    「送料などを負担しているので、売り上げとしては上がったとは言えないんですけど、大事なのは生産者さんに(生産を)続けてもらうことでした」

    「私たちは商品を自分たちで作っていません。私たちは生産者さんの商品をちゃんと売り、(生産を)続けてもらうというのが大切でした」

    コロナ禍の経済的打撃で、倒産する企業なども相次いだ中、農家の人々などが野菜や果物などの生産を辞めないで良いように、という思いで、様々な施策を打ち出したという。

    まだまだ回復できない、観光地の直売所や農家

    7月に入り、再び全国の都市部を中心に感染者数が増えているが、5月末に全都道府県で緊急事態宣言が解除され、徐々に自粛も解禁されていた。

    「5月まではコロナの影響などで自炊している人も多かった。(困っている生産者を)応援しようという気持ちで購入する人も多かったんですが、6月になって自粛が解禁されつつある中で、今までのような(注文やユーザーの)増加はなくなりました」

    「一方で、生産者からのSOSは止まらず、むしろ増えていたんです。食材が余ってしまう傾向が強くなっていました」(秋元さん)

    そこで、さらに新しい「コロナで余った食材を#みんなで食べ尽くそう!プロジェクト」などを展開した。

    飲食店は4、5月に比べると徐々に再開しているところもある一方で、現在も回復できずにいる生産者の人々もいるという。

    「6月に入ってからは バスツアーなどで果物狩りをやっているような農家さんたちから、困っているとの連絡がありました。バスツアーが全部なくなってしまったので、さくらんぼ狩りなどの体験で収益を得ていた人たちが困っています」

    「今後も、ぶどう狩りなどの季節になってきます。直売所も、地元の人が使うところは開店していますが、観光客で栄えていた直売所などはまだまだ人が戻ってきていません。5、6月は観光地の農家さんらからの問い合わせが増えました」(秋元さん)

    政府は、旅行代金を支援する「Go To キャンペーン」などを打ち出しているが、方針が何度も変わり、感染者数も増加している中では、まだ観光客が大幅に戻ることも見込めない。

    そのような状況には関係なく、果物はなっていくので、それを食べチョクで販売しているという。

    豪雨被災地からのSOSも、支援プログラムで可視化

    7月第1、2週には、熊本県などの九州地方や中部地方が豪雨で洪水や土砂崩れの被害に遭った。

    コロナ禍で打撃を受けていた上に、魚の養殖所に土砂や水が流れ込むなどの被害も出た。食べチョクは、豪雨で被害が出た生産者の人々を支援するためにも「被災生産者支援プログラム」を始め、支援を必要とする生産者を可視化した。

    シェフやパティシエたちが作る「CookForJapan」が、被災した生産者の作る魚介類や野菜を使ったレシピを考案するなど、連携してプログラムを進めている。食べチョクからも、1購入につき300円を生産者に寄付しているという。

    「生産者さんが食材の向こうにいる」多くの人が実感できたコロナ禍

    自粛期間などに食べチョクを利用し始めた人の大半は、その後もリピーターになっているという。

    「おうち時間」で自炊する機会が増えるなど、何かと「食」と向き合うことがあったコロナ禍で、動向を注視してきた秋元さんはこう考察する。

    「コロナの食に対する影響は、一過性というより『生産者さんが食材の向こうにいる』という当たり前のことを、皆さんが実感できたタイミングなのかなと思っています」

    「スーパーからも食材がなくなったりして、改めて食の大切さというのを見直された方が多いのかなと思いました。生産者から直接、食材を取り寄せるという文化がそもそも日本にはあまりないですが、コロナを機にその買い方を初めて知った人も結構いらっしゃいました」

    これまでスーパーに並ぶ野菜を、値段だけを確認して購入していた人も、食材が品薄になるなどの現象、または生産者から直接購入することで「生身の人が作っているんだということを理解できたのでは」とした。

    「顔も分からず、存在すら気にもしていなかった人から購入している、というところから、農家さんが『親戚のおじさん』くらいのイメージになり、少しずつ買い続けてファンになってもらうことが理想です」

    7月10日には、iOS版のアプリもリリースし、さらに手軽に注文ができるようになった。

    畑、そして家庭の食品ロス問題

    卸先を失った食材を食卓に届ける食べチョクのサービスは、食べられる食材が廃棄される「食品ロス問題」への対策にも直結している。

    秋元さんは、「畑」そして「家庭」での2つの食品ロスについて、こう語った。

    「私たちが直接貢献できるのは、畑での食品ロスです。大量に作り、売れないから畑に余ってしまう。生産者さんが販路を複数持って、状況に応じて販路を選べるようにし、生産調整で捨てているものを他の販路で売ることができれば、畑での食品ロスもなくなるのではないかと思います」

    「家庭でのフードロスについては、作り手の顔が浮かぶと、捨てずにしっかり食べ切ろうという思ってくださるのではと思います。食材も『生身の人間が作った生産物』であるということを、多くの人がコロナを機に認識したと思います。それを意識すると、消費側の食品ロスも少なくなってくるんじゃないかと思います」

    「生産者のこだわりが正当に評価される世界を作りたい」

    秋元さんは、生産者の人々にとって食べチョクは、「一つの販路を新しく提供している形」とする。

    生産者主体で、付加価値をのせて、珍しいものを作ったり、味にこだわりを持って作ったりし、自分で値段を決めて、中間業者が入らないので利益率を高く売ることができることが食べチョクの魅力だ。

    消費者は生産者の顔が見え、思いに触れることができ、生産者も直接、「おいしかったよ」「ありがとう」という声をもらうことができる。

    「生産者のこだわりが、正当に評価される世界を作っていきたい」と秋元さんは語る。

    「直売所やJAさんと並行して、食べチョクも一つの出荷手段として使われている方もいます。何かあったときに相談できれば解決できるというような、生産者さんにとっては、全部任せてもらえるような存在でありたい」

    「生産者ファーストというのを掲げて、生産者さんに価値提供できることを考えています。自分の中では、日本の農業に対しての価値提供は1%も達成できていないと思うので、まだまだ追求していきたいなと思っています」

    現在、食べチョクを利用している農家などの生産者は40、50代の、いわゆる農業界での「若手」が多いという。

    食材の写真を撮ってアップロードしたり、メールでやり取りしたりということができる年代が利用しているからだ。

    一方で、農水省によると日本の農家の平均年齢は67.0才。高齢の農家の人も食べチョクで販売できるような支援を進めている。

    6月には、佐賀県との提携も発表し、地方の高齢の農家へのサポートを始めた。秋元さんは「今後1年など中長期で、解決していきたい課題です」と話した。


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