エアガン、放火、レンガや爆竹投げ入れ…東京でホームレスへの暴力相次ぐ。警視庁が1人逮捕。「追い出してやろうとの意図感じた」

    東京都内で昨年、路上生活の男性らを標的に20回以上の暴力行為が1カ月半にわたり続いていたことが、BuzzFeed Newsの取材で分かりました。被害者や支援団体、被害が起きた自治体を取材しました。

    東京都内で2022年、路上生活をする人々に対して20件を超える執拗な暴力が続き、逮捕者も出ていたことが、被害者や支援団体など複数の関係者への取材で分かった。

    東京都墨田区と台東区の周辺で同年7〜9月にかけて、雨露をしのぐための小屋にレンガや酒瓶、爆竹などを投げ込まれたり、放火されたりするといった暴力行為が、支援団体が把握しているだけで20件を超えた。実行犯のうち1人は警察に現行犯逮捕された。

    墨田・台東両区役所も一連の暴力行為を把握している。区のサイト上で「犯罪であり、決して許されることではない」と注意を呼びかけ、区民に再発防止への協力を求めている。

    レンガや爆竹を投げ込み。被害男性「絶対に追い出してやろうという動機感じた」

    関係者によると、路上生活の人々に対する暴力行為は7月下旬ごろから始まり、1カ月半にわたり執拗に続いたという。

    3日連続で起きたこともある。そのほとんどは、周りに人がいない未明の時間帯を狙った犯行だった。

    直接の被害を受けたのは路上生活をする人々ら10人以上。なかでも男性3人が、繰り返し攻撃された。

    男性Aさんは、自身が暮らす小屋に石や酒瓶、レンガを投げ入れられ、小屋が破損するなどの被害を受けた。

    BuzzFeedの取材に話した。

    「小屋に投げ込まれた石のサイズは、人の頭より大きく、相当の重さでした。投げ込まれた時は小屋に私もいて、足から少し離れたところに落ちましたが、もし当たりどころが悪かったら下手すると死んでいたかもしれない」

    「その後も、毎日のように襲撃が続きました。執拗な襲撃からは『絶対に追い出してやろう』というような動機を感じました」

    被害者や支援団体「山谷労働者福祉会館」によると、周辺では2カ所で2回、エアガンを撃ち込まれたうえ、就寝場所に敷く段ボールも2回、放火された。また、爆竹や煙玉が2カ所で計3回投げ込まれた。

    Bさんは就寝中、2度にわたって小屋に火をつけられた。驚いて飛び出ると、そこにいた加害者の男に投げ飛ばされるなどの暴力も受けた。

    複数の被害者らによると、こうした暴力行為を仕掛けてくるのは複数の加害者らでつくるグループで、実際の攻撃をする人物と見張り役などに分かれ、耳元につけたインカムのようなものを使って連絡を取り合っていたという。

    男1人が逮捕、有罪判決。被害男性が語る「不安」

    警察が動いたケースもある。暴力被害が相次いだことから、支援団体が警視庁に相談。支援団体員や警察官、そして実際に被害を受けた人々が周辺をパトロールしていた。

    9月11日、小屋に爆竹が投げ込まれた。現場周辺を警戒していた警察官が実行犯の20代の男1人を現行犯逮捕した。男は略式起訴され、器物損壊罪で罰金30万円となった。

    被害者によると、男は逮捕の3日前にも同じ場所で小屋にエアガンを撃ち込んでいたという。

    この男の逮捕後、被害はいったん止まった。しかし、複数いるとみられる残りの加害者らは、いまも自由のままだ。

    被害者の男性Cさんによると、男の逮捕以降も夜間に不審な男が小屋付近を行き来しているといい、「今も不安だ」と話す。

    「加害者は複数います。一刻も早く、他の加害者を逮捕してほしいです」

    「これだけの被害が出ているのに、1人を逮捕した後は、警察は現場に巡回などに来ることもなく、捜査をしているそぶりはありません。野宿者と一般の方とでは、警察の対応も違うような印象も受けます」

    一連の襲撃をめぐり、被害者の小屋周辺での夜間の見回りや警察への被害申し出などをしてきた「山谷労働者福祉会館」のメンバーは、連続した暴力行為を「ヘイトクライム的だ」とし、このように話す。

    「執拗な暴力行為からは、野宿者を見下すような思想や嫌悪感を感じました」

    「格差や貧困を『自己責任』とする考え方から、そんなに遠くないものであるとも感じました」

    2回にわたり小屋に火をつけられた男性Bさんは後日、行方が分からなくなった。やがて、川で浮かんでいるのが見つかった。

    支援団体によると死因は「水死」。警視庁は「事件性はない」と判断したという。

    なぜ水死したのか、原因は今も、分からないままだ。

    「決して許されることではない」区も呼びかけ

    山谷労働者福祉会館は、一連の事件を墨田区と台東区に報告した。

    これを受け墨田区の人権同和担当は10月4日、台東区の人権・多様性推進課は10月14日にそれぞれ、区のサイト上で襲撃を強く非難する声明を発表した。

    声明では一連の事件について「人権侵害であり、犯罪であり、決して許されることではありません」とし、以下のように再発防止を強く呼びかけた。

    《路上生活者(ホームレス)は、失業や家庭問題などさまざまな事情により、健康で文化的な生活を送ることが困難な状況にあります》

    《社会的に弱い立場にある人を社会の一員として受け入れ、人として尊重することは、私たちが心豊かに安心して暮らすことができる共生社会をつくることに欠かせないものです》

    《一人ひとりが路上生活者の置かれた状況や自立支援の必要性を理解し、社会的に弱い立場の人々への偏見や差別の解消をなくすことが大切です。このような事件が二度と起きないよう、皆様のご理解と防止に向けたご協力をお願い申し上げます》

    墨田区の人権同和担当者はBuzzFeed Newsの取材に、「(このような事件は)人権侵害なので、理解や防止を皆様にお願いするために声明を発表しました」「継続して発信し、誰かのことでなく自分のこととして考えていただけるように伝えていきたい」と話した。

    台東区の人権・多様性推進課の担当者は以下のように語った。

    「路上生活をしているという理由だけで偏見を持つ人がいるかもしれませんが、どんな状況でも、1人の人間であり人権があります。路上生活ということで、何かをしていいという理由にはなりません」

    「どんな理由があっても器物損壊などはあってはならないことです。もちろん法律でも禁じられていますし、絶対にやめてほしい」

    繰り返されるホームレスへの襲撃。殺人も

    日本国内では、路上生活者や生活の拠点が襲撃される事件がこれまでも繰り返されてきた。路上生活者が死亡した事件も多くある。

    2020年3月には岐阜市で、路上生活をしていた渡辺哲哉さん(当時81)が複数の少年に襲われて死亡した。渡辺さんに石や土の塊などを投げつけ死亡させ、傷害致死の罪に問われた元少年2人にはそれぞれ、懲役5年と懲役4年の判決が出た。

    2020年11月には東京都渋谷区幡ヶ谷のバス停前で、大林三佐子さん(当時64)が石をつめたペットボトルで殴られ、死亡した。

    それぞれ、加害者は路上生活者に対する差別感情があったと供述している。


    16日に公開予定の続報で、被害を受けた男性の詳しい証言を伝える。