東京・池袋駅から徒歩数分の雑居ビルに、一風変わったレストランがあります。
「Spring Revolution Restaurant(春の革命レストラン)」のホールスタッフは皆、ボランティア。
利益はすべてミャンマーに寄付されています。
そこには、代表の切実な思いがありました。
昼はバイキング形式で、数々のミャンマー料理が並びます。
「鳥レバーと砂肝の煮物」「豆苗サラダ」「ゆで卵のトマト煮物」
ミャンマー語での料理名の下には、日本人客にもわかりやすいよう、日本語での説明が添えられています。
バイキングは1時間制の食べ放題で1200円と手頃な価格。ミャンマー人だけでなく多くの日本人客にも親しまれています。
母国から遠く離れたミャンマー人にとっては、忙しい日本の生活の中でたまに恋しくなる「故郷の味」。
週末やイベント時には、レストランの外まで行列ができるほどの繁盛ぶりです。
代表のレーさん(31)がレストランをオープンしたのは、昨年6月。ミャンマーで軍事クーデターが発生してから4ヶ月後のことでした。
昨年2月1日、ミャンマー国軍がアウンサンスーチー前国家顧問兼外相やウィンミン前大統領たちを拘束。軍は「軍が全権を掌握した」とテレビ放送で発表しました。
日本で暮らすミャンマー人コミュニティーにも激震が走りました。
母国の家族は大丈夫なのか。この先ミャンマー はどうなってしまうのかーー。
日本からできることはないか。軍政に反対してストライキをする公務員たちの生活費や、民主化運動のためにと、街頭で募金を呼びかけました。
日本で看護師として働くレーさんも、必死に活動しました。
しかし日が経つごとに感じたのが、持続可能ではないということ。
皆が仕事や学業に専念しながらも継続的に続けられ、そして日本の人たちにもミャンマーに関心を持ってもらえる方法は何かーー。
思いついたのが、利益をすべて寄付するミャンマー料理店でした。
レーさんは自分の貯金から出資し、レストラン「Spring Revolution Restaurant」をオープンしました。
店名は、軍政に反対し、民主主義を取り戻す運動「春の革命」からとりました。
開店から半年余り、店は70人以上のボランティアによって支えられてきました。
シェフには給料を払っていますが、ホールなどのスタッフは皆ボランティアで、仕事や学校の合間を縫って、皆で運営しています。
現在は、約30人のボランティアが中心となって営業しています。
寄付はミャンマーに送られ、避難民の生活や医療などに役立てられています。
日本では馴染みがない人も多いミャンマー料理。
レーさんは「料理を食べて、ミャンマーについて知ってほしい」と話します。
少数民族が一つに。料理で広まるつながり
マンダレー出身のレーさんには、「カレン族」「シャン族」「ビルマ族」という3つの少数民族のルーツがあります。
クーデター後のミャンマー国内の様子や、そして日本の活動を通して、うれしく感じていることがあるといいます。
それは、多くの少数民族が一丸となって民主主義と平和のために行動していること。
「これまでにないくらい、少数民族も皆一つになって闘っています」
一方で、クーデターから1年が経った今も、地方の少数民族は軍による空爆の被害に遭い続け、犠牲者や避難民は増えるばかりです。
大規模な空爆で少数民族が被害を受けた際には、その民族の料理を出すイベントを開いてきました。
来店客に、ミャンマーで今起きていることを知ってもらうためです。
1月には、軍の爆撃を受けて大きな被害が出た、チン族の料理を提供するイベントを開催しました。
「日本の人も、ミャンマーのほかの民族の人も、チン族はこんな食べ物を食べているんだと知り、感じることができる」
「感じて、互いの思いを聞きながら、もっともっとつながってほしいと思っています」
イベントの利益や募金は、チン族の避難民支援のために送りました。
店に来るのは、応援の気持ち
《ミャンマーの人たちと共に》《平和で安定した国になりますように》
レストランの壁には、ミャンマーへの応援メッセージが、日本語やミャンマー語で綴られています。
計3時間ほどの取材のさなかにも、何人もの来店客が「お釣りは募金で」「応援していますからね。がんばって」とスタッフに声をかけていました。
店頭に置かれた募金箱にも、多くの「気持ち」が寄せられています。
レストランはコロナ禍にスタートしたため、緊急事態宣言などの影響も受けてきました。
レーさんは「実際、材料費もかなりかかっていて、そこまで利益は出ていないです」としつつ、今後も店の運営を続け、少しでも寄付を送りたいと願っています。
クーデターから1年。先が見えない状況の中、レーさんはこう思いを語りました。
「若い子たちまで殺されて、命を落としています。空爆も続いています。本当にミャンマーに平和は戻るのかと心配する時もありますが、最後まで闘っていくしかない」
「闘いは長くなるとは思いますが、絶対勝つと思っています。これ以上、命が奪われないように、あきらめずに支援を続けていきたいと思います」