• borderlessjp badge

「私死ぬ」「救急車呼んで」死亡前の女性の切実な声。入管職員の不適切発言。最終報告書で明らかになったこと

名古屋入管の施設に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが3月に死亡。入管による最終報告書が発表されました。

名古屋出入国在留管理局の施設で2021年3月、収容されていたスリランカ国籍の女性、ウィシュマ・サンダマリさん(33)が亡くなった問題で、出入国在留管理庁は8月10日、最終報告書を公表した。

体調が悪化したウィシュマさんが死亡前に再三、受診を求めながら入管側がなかなか応じなかったことや、職員が問題のある言動を繰り返していたことを認めた。

ウィシュマさんの遺族代理人の指宿昭一弁護士は、最終報告書の公表を受け、入管制度の改革が必要だ」と指摘した。

遺族や支援者は政府に対して死因の調査や説明、監視カメラの映像の開示を求めてきた。

監視カメラの映像は今週、短縮版が遺族に開示される予定だ。

最終報告書で明らかになったこと、ならなかったこと

遺族が解明を求めていた死因については、最終報告書でも明らかにならなかった。

これに先立つ中間報告書では、「現時点で未判明(刑事手続における死因解明手続中)」とあり、死亡前日から脱力した様子で、翌日には呼びかけに応答せず、動けなくなっていたと記載されていた。

最終報告書では、以下のような記述となった。

「病死であるが、複数の要因が影響した可能性があり、具体的機序の特定は困難(※甲状腺炎のほか、脱水、抗精神病薬の影響、電解質異常による不整脈等が影響した可能性が指摘されている)」

報告書では、ウィシュマさんが日に日に衰弱していき、点滴や病院での診察を強く求めても、入管側が迅速に対応しなかった様子が記録されていた。

ウィシュマさんの体調不良が顕著になった1月や2月には、庁内診療や外部の病院受診で内科、消化器内科などの診療がおこなわれたが、根本的な原因が判明せず、そのまま急速に悪化した。

死亡する約2週間前には、ウィシュマさんが職員に対し「私死ぬ」「病院持って行って。お願い」「私、病院点滴お願い」「救急車呼んで」と言い、病院での診察や点滴を繰り返し求めた。

その後も毎日のように職員に点滴などを頼んだが、死亡する2日前まで病院に行けなかった。また、その時に診察したのは精神科医で、点滴を受けることはできなかった。

さらに、報告書では、ウィシュマさんに対して職員が不適切な発言をしていたことを認めた。

ウィシュマさんがカフェオレを飲んだ際、体が弱っていたためにうまく飲み込めず、鼻から出てしまったのを見て、職員は「鼻から牛乳や」と言った。

死亡の前日にウィシュマさんは言葉も出せないほど衰弱し、「あー」や「うー」などしか言えなくなっていた。職員が何を食べたいかを尋ねると、うまく話せず「アロ…」などと口にした。これに職員は「アロンアルファ?」(瞬間接着剤の商品名)と聞き返した。

死亡した当日の午前にも、衰弱して呼びかけに反応できない状態のウィシュマさんに対し、職員は「ねえ、薬きまってる?」などと言った。

報告書では、「休日は医療従事者が不在で、外部の医療従事者にアクセスできる体制もなかった」「医療的対応が必要な状況を見落とさない意識が必要であり教育が不十分」と、入管施設内での医療体制の欠陥を指摘。

仮放免に関しては、「体調不良者について柔軟に仮放免を可能とすべきことなど改善点あり」とした一方で、「(仮放免)不許可には相応の根拠があり不当と評価することができず」などとした。

改善策として、「全職員の意識改革」や「医療体制の強化」「被収容者の健康状態を踏まえた仮放免判断の適正化」などが挙げられた。

「何人亡くなれば、入管は変わるのですか?」

最終報告書の発表に際し、弁護士と遺族は都内で会見を開いた。

会見で、ウィシュマさんの妹のワヨミさんとポールニマさんは最終報告書の内容や入管の対応について、落胆の思いを語った。

ポールニマさんは「入管施設の中でいったい何人亡くなれば、入管は変わるのですか?姉は死に、もう帰ってくることはありません。誰が姉の死の責任をとるのですか?」と問いかけた。

ワヨミさんは、職員による不適切発言について「これは私はいじめだと思います。こういうことをするために入管職員は雇われているのですか?」と涙ながらに話した。

報道によると、ウィシュマさんの死亡をめぐり、出入国在留管理庁は、名古屋出入国在留管理局の局長と当時の次長を訓告、幹部2人を厳重注意とする処分を発表した。

しかし、それらの処分などについては、遺族や弁護士には伝えられていないという。

ワヨミさんは「口頭での厳重注意などの処分と聞きましたが、それだけでは納得いきません」と話した。

指宿弁護士は「訓告も厳重注意も正式な懲戒処分ではありません。それでお茶を濁そうとする入管の姿勢は、代理人弁護士としても許せませんし、何より遺族は怒っています」と批判した。

また、指宿さんは、報告書では職員による不適切発言があったことについては「本当にひどい」「一種の外国人嫌悪だ」と指摘した。

遺族が開示を求めていた、ウィシュマさんがいた部屋の監視カメラの映像を巡っては、入管は12日、2週間分の映像を2時間に編集した短縮版を開示するとしている。

入管はビデオ開示について「人道上の配慮から決めたこと」とし、開示は遺族のみで弁護士の立ち会いは認められないという。

ポールニマさんは「入管は2時間のビデオを見せると言っていますが、2週間分のビデオを見たいのです。時間がかかっても見ます。きちんと2週間分を開示してください」と話した。

この点に関しては会見で、駒井知会弁護士も「少なくとも2週間分の映像を確認しなければ、本当に何があったのかということはわからない。入管は、約2時間の編集版を、お情けでご遺族にビデオを『見せてあげるんだ』という姿勢」と指摘した。

また「入管の制度自体を変えないと、ウィシュマさんを最後の犠牲者にすることはできない。国際法を守った入管行政を」と強く呼びかけた。