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「不安や分断煽るべきでない」国の世論調査に、抗議の声があがった理由

内閣府が発表した難民や永住者についての世論調査について「恣意的」と抗議の声があがっています。

内閣府はこのほど、日本の難民受け入れの数や今後の姿勢への意見、永住者について聞いた「基本的法制度に関する世論調査」を実施した。

外国人労働者や移住者を支援している「移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)」と全国難民弁護団連絡会議はこの調査のあり方に対し2月4日、抗議声明を発表した。

声明は、政府の方針に同調を誘導するような質問の組み立てになっているとしたうえで、「移民・難民の権利を軽視し、恣意的に『排除』しようとする意図がある」としている。

調査は2019年11月に全国の男女3000人を対象に実施されたもので、有効回収数は1572人だった。

「裁量で受け入れられるかのような誤解与える」

調査では、「日本はこれまで以上に積極的に(難民を)受け入れるべきだと思うか、それとも慎重に受け入れるべきだと思うか」という質問があった。

これに対し抗議声明では「この設問の立て方自体が、難民とは誰か、誰を受け入れるべきかについて、あたかも裁量で受け入れられると認識しているような誤解を与える」と批判。

「日本の難民認定が政策的に行われていることをあらわにし、日本が難民条約を順守する意思がないという日本政府の本心をあらわにしている」と指摘した。

「多い」「少ない」他国の実態知った上で回答?

また、日本の難民受け入れについて「多いと思うか、少ないと思うか」という質問の前には、「難民とは」という説明の他に、以下のような文章を読んでから回答する設定だった。

日本は、難民条約に加盟後、昭和57年から平成30年までの間に、難民認定制度において、条約上の難民に該当する人を750人、難民に該当しない場合でも、自国が紛争状態にあるなど人道上の配慮が必要な人を2,628人受け入れています。

この説明には、他国との比較対象などの数字は与えられていない。

抗議声明では「日本の『これまで』がいかに世界の基準から離れているかを知らないなら、『多い』か『少ないか』の調査結果の数値には価値がない」とし、「せめて、難民認定制度に関する認知度等を調査するべき」と指摘した。

他国に比べると極端に低い日本の受け入れ

実際、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の統計によると、G7の国々と比べると日本が極端に少ないことがわかる。

2018年に入管法の規定に基づいて難民として認定された人は、日本が42人のところ、ドイツで5万6583人、アメリカでは3万5198人、イギリスで1万2027人、イタリアが6488人などだった。

G7以外では、オーストラリアが1万296人、スペインが615人、韓国が118人など。

2018年の日本の難民認定率は「0.25%」

また、説明文では「難民条約加盟後、条約上の難民に該当する人を750人受け入れてきた」とあるが、あくまで1982年から2018年の期間での受け入れ合計人数であり、海外諸国に比べて多くはない。

日本が2018年に受け入れた難民の人数は42人で、認定率は0.25%だった。

以下の表は、2013年から2018年に日本で難民申請をした人数と、難民として認定された人数を表している。

「間違った情報を与えることに」

移住連の副代表理事を務める、国士館大学教授の鈴木江理子さんは、BuzzFeed Newsの取材に対しこう話した。

「そもそも日本は難民条約に加入していて、難民を受け入れる責任があります。しかし、学校などでも『難民条約とは何か』などを学ぶ機会も少なく、多くの人は日本が難民条約に加入している事実や、どのような人が難民認定されるかなどについて知りません」

「調査は明らかに誘導的な文章です。必ずしも多くの人が知っているわけではない情報について、政府にとって都合の良いような質問内容が聞かれている。間違った情報を与えてしまうことにもなります」

この点については、NPO法人「難民支援協会(JAR)」の石川えり代表理事も、BuzzFeed Newsの取材に対し、同様の指摘をしていた。

「『積極的な受け入れ』とはあたかも慎重でない認定を行い、受け入れを進めることかのような印象を与えかねません。慎重に審査を行い、かつ積極的な受け入れを進めることは可能と知ってもらいたいです」

また、難民を「慎重に受け入れるべき」と回答した人の理由の中に「治安が悪化する可能性がある」という選択肢があったことについては、こう話していた。

「難民は迫害や紛争の恐怖から保護を求めて逃れてきた人々で、治安悪化と結びつけることは妥当ではありません。国境を越える人の移動による治安上のリスクは、難民に限らず観光客等の来日も含め同等に管理・対策が必要なことです

「既に多くの難民の方が、日本国内で文化や習慣の違いを摩擦にすることなく、就職先や地域社会で生活している現状があることも、広く知っていただきたいと思います」

「どのような環境整備が必要か」話し合うべき

また、今回の調査では、永住者についても「永住者を多いと思うか」「永住権を取り消す制度についてどう考えるか」と尋ねていた。

抗議声明では、日本での永住者の増加は「共生社会への基盤」とした上で「世論調査で問うべきは、永住者の増加をふまえ『共生社会』として、どのような環境整備が必要かということ」と指摘。

「永住者を多いと思いますか」という質問は「永住者を恣意的にコントロールしようとする不適切な質問」と批判した。

質問の前に回答者が読む設定になっていた説明文では、「現在の永住許可制度では、一度永住を許可されると、許可後に永住許可時の要件を満たさなくなった場合に、永住許可が取り消されることはありません」と説明。

その上で、「永住許可を取り消す制度を設けるとしたら、そのような場合に取り消すべきだと思いますか」と問われ、回答の選択肢には「収入が減った時」「日本人と離婚した時」などがあった。

鈴木さんはこう指摘する。

「人は生きていたら仕事を失うこともあるし、何があるかは分からない。永住者の収入が減ったら永住許可を取り消すような制度ができたら、外国人が『つまずいたら捨てられる国』というようなメッセージを与えてしまいます」

「永住者だからということで、助け合いの輪から排除することはあってはなりません。そのような制度を設けていると、日本政府が求めているような高度人材は、日本をわざわざ選び、来てくれることはなくなると思います」

日本が目指す「共生社会」って?

政府は「外国人との共生社会の実現」のために長年、議論を重ねて施策も打ってきた。一方で、受け入れの制度や国民からの理解では、課題は山積みの状態だ。

抗議声明では、「このような世論調査により、不安や分断を煽るのではなく、この社会に暮らす誰もが安心して生きることができる、真の『共生社会』実現に向けた取り組みを進めることを求めたい」とした。

また、「かりに排他的・排外的な市民意識が存在するのであれば」と前置きし、「そのような意識を増幅させるのではなく、共生や多様性の尊重を理解し志向するための人権教育を実施すべきである」と指摘した。