ゴーン被告、会見で人質司法と批判「私の人権と尊厳が失われた」

    年末に日本からレバノンに出国したカルロス・ゴーン被告が、会見を開き、人質司法について強く批判しました。

    特別背任などの罪で起訴され、保釈中に昨年末、密かにレバノンに向けて出国した日産元会長カルロス・ゴーン被告(65)が1月8日、レバノンの首都ベイルートで会見を開いた。

    会見でゴーン被告は、まず日本の司法制度への批判を始めた。「基本的な人権を守らないというシステムがある」と語り、弁護士抜きでの長時間の尋問や、長期にわたる勾留が続く「人質司法」だと、強く批判した。

    この会見では、ゴーン被告が自らに逮捕の背後にいた日産と日本政府関係者の実名を公表する意向だと伝えられていた。日産に関しては西川廣人・前社長ら複数の幹部の名前を挙げた。しかし、日本政府に関しては「私を受け入れたレバノン政府に迷惑をかけたくない」として、実名を出さなかった。

    会見でゴーン被告は早口な英語で身振りを交えながら話し、会場では時折、拍手が巻き起こった。

    被告は「いかに日本を脱出したかということに注目が集まっていますが、それについては、話しません。むしろ、なぜ日本を脱出したのかについてお話ししたい」としてから、検察官の尋問や勾留中の状況、日本の司法について話した。

    ゴーン被告は「私は手錠や縄をかけられて、無期限に、一人で、独房にいれられました。6週間も家族に会うことができず、弁護士がいないところで1日8時間も尋問されました」と述べ、そのような状況の中で「私の人権と尊厳が失われていったのです」と話した。

    「早く自白しろと言われ続け、自白すればそれで終わりなんだ。自白しなければ、家族を追及すると言われました」

    ゴーン被告は、日本からの出国について、そのような状況下での不当な扱いから逃れるために実行したこととし、このように述べた。

    「私は司法から逃れたのではなく、政治的な迫害から逃れたのです」

    「私は正義を求めたからです」

    「私は16年間尽くしてきた国で人質に取られた」

    ゴーン被告は「私は会社の再生のために尽くし、私のビジネスモデルについての本もたくさん書かれたような中で、このようなことが起こりました」と話し、「私は16年間尽くしてきた国で人質に取られた」と主張した。

    弁護士らは、「人質司法という仕組みにチャレンジしてくれた。非人道的な人質司法と戦ってくれている」とし、支持者からは拘置所に手紙も届いたとして感謝を示した。

    ゴーン被告は、日本での有罪率や外国人被告に対する扱いについても言及。「有罪率が99.94%というところにいたのです。この確率は外国人に対してはもっと高いものであるでしょう」と話した。

    また、記者会見を開こうとするたびに、検察から「禁止はしていない」と言われる一方で、邪魔をされて実際には実行に至らなかったことも指摘した。

    被告は「私は世界の目の前で罪人であるという扱いを受けた」とし、メディアからも攻撃を受けたと主張した。

    日本のメディアに対しては「日本の報道によって、私は強欲な独裁者と言われてきました。このような言われ方をしましたが、それは間違ってます。私は日本を愛していますし、日本の人々を愛しています」と話した。

    これまでの経緯

    ゴーン被告は2018年11月、金融商品取引法違反の容疑で東京地検特捜部に逮捕された。その後、同法違反や特別背任の罪で起訴された。

    2019年3月に最初の保釈を受けた時、作業着姿に変装していたことが話題を呼んだ。

    4月4日に特別背任容疑で改めて逮捕され、同月25日に二度目の保釈を受けていた。

    保釈とは「判決を受けるまで、被告人は無罪推定」という原則に基づくものだ。証拠隠滅や逃亡のおそれがないと裁判所が判断した場合に認められる。

    ゴーン被告が納めた保釈金は計15億円だが、無許可の出国により保釈金15億円は没収された。

    保釈金に加え、国外逃亡や証拠隠滅を防ぐため、「海外渡航禁止」「パスポートは弁護士が保管」「妻との接触には裁判所の許可が必要」などの条件が付いていた。

    遂に実現した会見

    ゴーン被告はこれまでもTwitterアカウントを開設し、ビデオ声明を出すなど、日本の司法制度を批判し、自身の潔白について語る機会を求めてきた。

    これまでも日本外国特派員協会(東京都千代田区)などで会見実施が発表されていたが、ゴーン被告自身が会見で話すことは実現せずに、弁護人の弘中惇一郎弁護士らが会見で話していた。

    会見では、ゴーン被告のビデオメッセージが公開されていた。

    昨年末に日本から出国し、レバノンに渡った後に、アメリカの代理人経由で声明を発表。「不正義と政治的弾圧から逃れた」とし、「日本の不公正な司法制度」や「差別」を強く批判していた。

    声明の日本語訳全文

    私は今、レバノンにいます。もうこれ以上、日本の不公正な司法制度に捕らわれることはなくなります。日本の司法制度は有罪を前提とし、差別が横行し、基本的人権が否定されており、国際法や条約で日本が守らなければならない法的義務を著しく無視しています。

    私は正義から逃れたのではありません。不正義と政治的弾圧から逃れたのです。私はようやく今、メディアと自由にコミュニケーションできるようになりました。来週からお話しできることを楽しみにしております。

    弁護団の1人である高野隆弁護士は1月4日、自身のブログを更新し、「われわれを信頼してほしい。必ず結果を出してみせる」と言った時には、ゴーン被告は「納得してくれたように見えた」としたうえで、「手続きが進むにつれて、彼の疑問や不安は膨らんでいったようだ」と綴っていた。

    計画については知らなかったという被告の海外逃亡については、「まず激しい怒りの感情がこみ上げた。裏切られたという思い」とした。

    しかし、「彼がこの国の司法によって扱われてきたことを思い返すと、怒りの感情は別の方向へ向かった」とし、被告が海外逃亡した原因は、日本の司法制度にあるとの見解を示していた。