苦しい生活、「孤独で虐待を思い出した」。若者の貧困のリアル。今年さらに深刻化する恐れがある理由とは

    虐待、経済困窮、ネグレクトなどで親に頼れず、生活に困窮する10代や20代前半の若者たちーー。NPO法人「D×P」が深刻化する若者の貧困について、会見を開きました。

    《所持金が5000円しかなくて、アルバイトがなくなってしまい、親もいない。どうすれば》

    このような相談が、若者支援のNPO法人「D×P」(大阪市中央区)には、毎日のように寄せられています。

    世の中が少しずつ活気を取り戻す中で、いま、若者の貧困が深刻化しています。

    「D×P」理事長の今井紀明さんは、4月27日に都内で開かれた会見で、若者の貧困は「深刻な状況」と話し、厚生労働大臣への政策提言を行いました。

    止まらないSOS。全国各地への「食糧支援」と「現金給付」

    今井さんは会見で「支援希望者の4割弱が10代の若者で、親に頼れない状況」「消費者金融などでの借金や、滞納をしている若者も多く、給付金などの公的支援が若者には届いていない」と話しました。

    親からの虐待、経済困窮、ネグレクトなど、様々な理由で親に頼ることができない10代や20代前半の若者が多くいるといいます。

    D×Pでは、困窮状態にある若者に、「現金給付」と、カレーや味噌汁などのレトルト食品、米など30食を送る「食糧支援」を行っています。

    2020年5月〜2022年3月までの食糧支援実績は5万1810食、現金給付は計3095万円に上りました。それらは、D×Pへの寄付をもとに、全国各地へ送られています。

    「このウィダーインゼリーが多い箱はなんですか?」「コロナ陽性の方や固形物が食べれなかったり、調理する気力がなくなってしまった方もいてカスタマイズしているんです」と見学に来た方にスタッフが説明する。若年層の食糧支援をニーズに合わせて作っています。今日も全国へ発送。 #ひとまずごはん

    Twitter: @NoriakiImai

    全国各地に送られる食料支援。希望する女性には生理用品なども送っている。

    苦しくなった生活、「孤独で虐待を思い出した」。若者の声

    会見では、D×Pから食糧支援・現金給付などの支援を受けた20代前半のAさんが、自身の経験を語りました。

    「(コロナ禍は)金銭的に大変でした。コロナでバイトのシフトが減り、月11万円あった収入が5万円台に。家賃が4万円だったので生活は苦しかったです」

    「一番つらかったのは孤独感。普段から通っていた相談先なども閉鎖され、生活の中に安心できる場所がなくなった。孤立すると過去の虐待を思い出して辛かったです」

    当時、アルバイトで生活費や学費を稼ぎながら、通信制高校に通っており、飲食店で働いていたために、収入が激減していました。

    Aさんは高校生で保護されるまで、殴る、首を閉めるなどの暴力を受けて育ってきました。頼れる家族はおらず、コロナ禍では特につらい状況に陥りました。

    D×Pは、なかなか公的支援にリーチできない若年層に対し、LINE相談「ユキサキチャット」を実施。LINEでの相談のほか、現金給付・食糧支援の際は面談をして状況を把握しています。

    LINE相談には現在、7千人が登録しています。

    AさんもLINE相談で、孤独や貧困から救われた若者の一人でした。

    「直接は会えないけど、LINEを通して相談できる人、自分を気にかけてくれている人がいると思うと安心できました」

    「家庭で自分の話をしてこなかった私にとって、困りごとがなくても雑談したり、今日あった出来事を話したりすることは新鮮な体験でした」

    Aさんは、「D×Pのように、支援してくれる団体や場所がもっと増えたら、同じような境遇のたくさんの人が助かると思います」と話しました。

    政府が今すぐ取るべき対策は。4つの提言

    若者が公的支援にリーチできず、困窮に陥る状態はどうすれば解決できるのか。

    今井さんは、厚生労働大臣に対して、以下の4つの政策を提案しました。

    ・誰もが公的支援にたどり着けるよう、ウェブサイトを分かりやすく整備し、やさしい日本語をつかって、説明文なども理解しやすくする。

    ・自分がどんな福祉制度を受けられるか知れる、チャットボットなどのシステム構築

    ・相談や支援、申し込みなどをオンラインでも可能に

    ・一刻を争う困窮状態の人もいるため、公的支援の申し込み後の状況を把握できる仕組み作り

    食料品価格の高騰で生活に打撃。今年さらなる深刻化を懸念

    今年3月には「まん延防止等重点措置」も全面解除され、街はにぎわいを取り戻し、経済も活性化している印象を受ける一方で、D×Pの食糧支援や現金給付を求める若者は増えているといいます。

    食糧支援に関しては、これまで支援してきた総数の約半数にあたる2万1840食を今年1〜3月に支給。現金給付は、昨年12月の単月で、これまでの総額の約半数にあたる1405万円を給付しました。

    今年、さらに人々の生活に打撃を与えるのが、食料品価格の高騰です。

    ロシアのウクライナ侵攻などにより、あらゆる種類の食料品の値上げが発表されています。

    今井さんは「まん延防止等重点措置が明けて、バイトに戻れたという声も増えてきていますが、滞納や借金を抱え、親にも頼れない若者たちには、食料価格の上昇が極めて大きな影響を及ぼすと思います」と話しました。

    今後は、現金8万円の給付とオンライン相談の「緊急支援パック」、現金給付と食糧支援を組み合わせた「短期支援パック」「長期支援パック」を用意し、長期的な支援や自立につなげます。

    全国から相談が来ているため、「今後はさらに、各地のNPOなどと連携を強め、セーフティネットを確立していきたい」としています。

    (サムネイル:Getty image)