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「低用量ピル、会社が費用払います」ある企業の福利厚生に、ピル服用支援が導入された理由

エムティーアイでは、低用量ピル服用の費用を会社が支払うピル服用支援制度を福利厚生制度として導入しました。

ある企業が、女性社員に対し、低用量ピルの服用を支援する福利厚生制度を10月から本格導入します。

生理痛や月経前症候群(PMS)などの症状で、日常生活や仕事に支障がある社員が、「より働きやすくなるようサポートすること」が目的。希望する社員に対し、低用量ピルの費用や診察代を会社が負担する制度です。

なぜ、低用量ピルの服用を、会社が「福利厚生」として支援するのか、今回、実証テストを経て本格導入を決めた、エムティーアイ(東京都新宿区)を取材しました。

エムティーアイは、生理の周期などを管理するアプリ「ルナルナ」を運営する会社。

社内で実施した健康意識調査で、生理痛など月経前後に起こる不調に悩まされている女性職員が、全体の約8割いたことが明らかになり、女性職員をサポートする制度として、低用量ピル服用支援の案が進められてきました。

低用量ピル服用支援を簡単に説明すると、このような制度です。

・低用量ピルの費用、診察代を会社が負担

・2回目以降の受診はオンライン診療システムで可能

・業務時間中に追加休憩をとって受診ができる

・ピルは自宅に郵送される

この支援制度の導入に関わってきた人事担当者は、BuzzFeed Newsの取材に対し、こう語ります。

「PMSや生理痛の症状は女性にとってはあたりまえのことであり、健康課題として捉えている人はとても少ないです。しかし、実際には、日常生活に支障をきたしたり、仕事に集中できなかったりと、通常の体調不良として捉えると、とても深刻な健康課題です」

「センシティブな課題ということもあり、なかなか表には出にくく、誰かに相談したり病院を受診したりすることをためらう方も多くいます」

生理痛で日常生活に影響がある女性社員に対し、「より気軽に婦人科受診ができる環境を整え、心身ともに健康で働き続けるように」と、福利厚生制度で支援が発案されたといいます。

人事担当者は「毎月辛い思いをしながら業務にあたる従業員をどうにか救いたいと思っていました」と話します。

同社は今年2月から約半年間、約20人の女性社員に対し、服用支援の実証テストを実施しました。

結果、参加した社員から良い反応が得られ、テストに参加していない社員や男性社員からも、福利厚生制度として導入することに賛同の意見が多かったため、10月に本格導入となったといいます。

なぜ、「低用量ピル」?

もちろん同社では、生理痛などの症状が酷い時には、休みを取得することも可能です。

しかし、日常的に低用量ピルを服用することで、そもそもの全体的な痛みを軽減することもできます。

子宮内膜症や子宮筋腫などが原因でない場合の生理痛は、排卵後に、卵巣から分泌される黄体ホルモンの作用が原因である可能性が高く、その場合は、ピルでその黄体ホルモンの分泌を抑えることで、痛みを予防できます。

低用量ピルは、産婦人科に受診し、医師の診断を受けた上で処方されますが、産婦人科受診のハードルや通院の時間や費用の捻出、副作用への懸念などが理由で、なかなか服用までたどり着かない女性が多いということです。

また、ピルを服用してみた人でも、費用や受診が理由で、継続することに難しさを感じていました。

同社が1月にルナルナユーザー2094人を対象に実施した「生理痛やPMSの仕事への影響とピルの服薬に関するアンケート」では、ピルを服用している女性の中で、継続的に服用するうえでのデメリットとして「医療機関を定期的に受診するのが面倒・手間」(55.1%)や「価格が高い」(44.4%)などがあげられていました。

今回の同社の制度では、オンライン診療などで、そのような障壁を解消できるように設計されています。

ピルの処方には診察が必要なため、まず、女性社員は提携医療機関で診療を受けますが、そこでピルが処方された場合、2回目以降の処方に関してはオンライン診療を受けることができます。

医師による対面の再診が必要な場合を除き、ルナルナと同社グループ会社のカラダメディカが提供する「ルナルナ オンライン診療」を利用して、ビデオ電話による診療が受けられます。

踏みとどまっていた服用、トライするきっかけに

実際に、実証テストに参加し、会社の支援を受けて低用量ピルを服用した女性社員は、どのように感じたのか。話を聞いてみました。

今回の実証テストをきっかけに、低用量ピルを服用し始めたという女性は、取材に対しこう語りました。

「(生理中は)仕事のパフォーマンスの低下をいつも感じていました。ピルを服用するようになってからは気分の落ち込みや貧血が改善されたようで、仕事のパフォーマンスの低下の下げ幅が小さくなったと感じています」

「また、経血の量も減ったので、仕事中に下着や服を汚す心配をしなくて良いことも、仕事に集中しやすい要因の一つになっていると思います」

女性は、以前から生理の際の体調不良を改善したいと、ピル服用に興味をもっていたといいます。

しかし、「婦人科を受診しても医師によってはピルは必要ないと言われてしまうのではないか」と懸念を頂いたり、またピルの費用が理由で、なかなか病院に足を運ぶことができていなかったそうです。

今回、ピルの処方費用を会社負担するという制度ができ、利用してみたということ。この制度では、業務時間中に追加休憩をとってオンライン受診ができるため、女性は「(通院のために)遅刻や早退をする必要がないこともメリットだと感じました」と話します。

日々の仕事の合間時間を使ってオンラインで受診でき、ピルが郵送されることについてはこう話しました。

「オンライン診療の利用により移動や院内での待ち時間がないことで仕事の隙間時間に手軽に受診できてとても助かっています。ピルは翌日には配達されるので不便も感じません」

実証参加者、生理の日常生活への影響が減少

エムティーアイによると、実証テストに参加した女性社員にアンケートをとったところ、生理中の日常生活や仕事中への影響に、変化がみられたといいます。

生理前や生理中の症状によって、日常生活に影響が出ている日数は、実証テスト前は1カ月のうち平均3.1日だったところ、実証テスト後は1.15日になりました。

また、生理痛などの仕事への影響についても良い変化が見られました。

生理の影響がない時に発揮できる仕事のパフォーマンスを100としたとき、実証テストに参加する前は平均63.1だった認識が、実証テストでは平均83.5に向上しました。

実証テスト後の社内アンケートでも、参加した女性の9割以上が支援制度に「満足」という結果となり、参加者以外の女性社員や男性社員も、共に約7割が本格導入に賛成したといいます。

ルナルナの「ピルモード」を監修している東京大学医学部附属病院・産婦人科の甲賀かをり准教授は、同制度についてこう語ります。

「女性が通院時間を気にせず、費用負担もなく、自分の病気や体質、薬の効果・副作用に関する正しい情報を手に入れ、自らの判断で、女性ならではの苦痛を緩和する方法を選び取る機会が得られるというのは、産婦人科医から見れば、女性に対する支援の真髄です」

女性社員の「悩み」に寄り添った制度。個人情報も慎重に

制度を本格導入する中で、人事担当者は、社内での生理での不調やピル服用では副作用や個人差もあることなど、正しい理解を広めていきたいと話します。

「PMSや生理痛などの不調やピルの服薬に関する社内への理解の浸透はまだまだ必要です」

「また『この制度を利用しているから絶対に生理痛はない』『症状がつらいならば強く制度の利用をすすめる』といった間違った認識が進まないよう、今後も正しい知識を広めていきます」

広報担当者は、制度導入の目的について、こう説明しました。

「月経困難症の症状でパフォーマンスの低下に悩んでいる女性もおり、その解決策の一つとして低用量ピルが救いになるケースもあります」

「(ピル服用支援は)生産性やパフォーマンス向上だけを目的とした制度というよりは、女性特有の心と体の不調を福利厚生として支援することで、正しい知識を持ちながら、男女ともに働きやすい職場づくりを目指しています」

また、ピルを服薬したくても体質や持病などの問題で服薬できない女性もいることにも言及し、薬の服薬情報や制度の活用状況については、個人情報の取り扱いに慎重になり制度を導入していきたいとしました。

制度活用状況は制度運用を行う担当者のみが把握する形をとり、上長報告なども必須ではなく、希望すれば人事を介して制度の活用について申請や相談が可能ということ。

今後の効果測定のためのアンケートも、個人を特定しない形で実施していくそうです。